表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/31

レインは、お試しの召喚をする

 いよいよ召喚するぞと、気合いを入れたところで、レインは不安になってきた。


 延々と、妄想と独り言を垂れ流したせいで、頭は疲れ喉も乾いてきたので、コーヒブレイク終えたところ、冷静になってきたからだ。

 

それまでの、頭お花畑なMAX☆ハイテンション状態は、脱してしまった。


「……本当に完璧、なのか」


 カチカチと出し入れをくり返した結果、ゲルスラエッグの機能には、何も問題はない。

 けれどこれはあくまでも、おまけの機能。オプションなのだ。


 なんやかんやと頑張ってるうちに、気付けば、携帯性やら収納力や環境配慮に、特化してしまっただけなのだ。肝心の召喚能力の向上は、うっかり置き去りにした、斜め上の努力の結晶だ。


 ずっと籠って作り上げた中一女子の()()()()

 召喚は、神秘の術。ゲルスラエッグが、いかに素晴らしくとも、失敗する可能性もある。

 まことに遺憾ながらも……、そのような残酷な結果に終わるかもしれないのだ…………。


 ちなみに、デロデロなピータンの見た目は、全く問題視していない。

 レインは、いつだって己の才能を信じているし、機能性を重視するタイプの人間なのだから。


◇◇◇◇


 四の五の言っても始まらない。

 とりあえず何かを()んでみることにした。


 全力の召喚で、すべてを掛けたっていいが……。いいのだが……。やはり、動作確認は欠かせない。


 いきなり大物の召喚は難しくとも、小物ぐらいならば、余裕だろう。

 よし。ざっくり試して、そこからまた考えよう。


 道具や素材が、いくら完璧でも、召喚には『贄』が必要。大きな代償を伴うとも言われている。


 なに、今回はただのお試しだ。家にあるもので手軽に済ませて、本番用には改めて準備すれば良い。


「ふむ…。そうだな。英知を司る神霊……、大悪魔の召喚術を授けてくれる存在を、()ぼうではないか!!」

  

 誰もいないのに、尊大なる口調で独り言を言う。

 クラスメートとは連絡事項以外の会話はないので、日々のこうしたトレーニングは欠かせない。

 

 偉大なる発明家の卵である、このわたしなら、いけるのではないか。

 大悪魔の召喚は難しくとも、その召喚方法を知っているザコくらい……。


  とんでもない高望みに、本人は至って無自覚だ。冬休みが長すぎて、自分の世界に入り込み過ぎてしまった弊害だろう。


「フム。知識を司る存在、相手にとって不足はないな……」


 知的な精霊、神霊が好むという、知恵の実のしぼり汁を筆に吸わせる。


 スイッチを押し、ゲル状シートを輩出し、鎮静効果を持つ香草で作られた魔術紙を乗せる。


 知恵の実は、古い油のような臭いを放つ果物だ。

 魔術紙は、きつめメントールを放つ。湿布に使われるものと重複する素材で作られているためだ。

 

 それらを、半熟のピータンと合わせる……。完璧なチョイスに、本人的はご満悦だ。


 レインは、機能性を重視するタイプの人間なので、嗅覚や美的感覚のような、アヤフヤなものには左右されない。


「ふふふ、あとは供物、供物だな」


 知識や記憶力を高めるポーション、覚醒作用のあるカフェイン飲料は、最近の不摂生な生活で、全て消費してしまった。ストック切れだ。


 レインは十三歳にして、既に末期のエネルギードリンクジャンキーなので、これは仕方がない。


 代わりに、薬草庫のストックを漁り、丸薬と干からびた薬草をいくつか持ってきた。


 アンモニア、カメムシなどに近い匂いがするものばかり。

 

 それらが合わさることで……、地獄のような臭気が発生してしまった…………。


 組み合わせとしては、どう考えても最悪だ。


 けれど、長らく風呂に入っていない汚部屋の住人レインは、見過ごしてしまった……。

 嗅覚が、すっかり()()()になっていたからだ。


 そのまま、慎重に作業を行った。



◇◇◇◇



 丁寧に、正確に、陣を刻む。


 墨に、魔力という熱を通わせることで、素材は炙られ、臭気はさらに強まる。


 筆を、通して紙にも伝わり、下敷きが、それらを界と界との間に浸透する。


 陣を起動させ、召喚の呪文を唱える。 ここは手堅く定型文だ。



「我を知り、その先を知り、願いの果てを知るものよ。我が召喚に応え、我に、そなたの知識を授けたまえ」



 召喚陣が、キラキラと煌めき、高エネルギー体の反応を示す。



 まばゆい光とともに、室内に、モワモワとした黒いスモークが立ち込める。



「ふはは、ふははっ、ふっははは。やった、やったぞぉ!!」


 霧が晴れるのを待つと、陣の中に生き物の姿が、確認できた。召喚成功だ。


◇◇◇◇


「げっふ、こんにちは、ご指名ありがとう。あたしはクダンちゃんよ!」


 ソレは、たぶん()だった。


 身体自体は子牛ぐらいのサイズ。

 白黒模様の牛の体。蹄。座り込んでいるように見える。


 けれど首から上は人面で、きめの細かい色白の美肌。

 肩ロース?の下ぐらいまでの流れるような黒髪。自分と同じ黒髪に、少しだけ親近感を感じる。


 瞳の色まで漆黒色で、魔術師の石と呼ばれるヌーマイトの様に、煌めいている。

 人の鼻に当たる部分に鼻輪、耳にもピアス。


 あどけない若い娘のようにも、見える顔立ち。牝牛なのか?


 知的な存在を望んだが、こうも巧みに人の言葉を操るとは。

 それになんという美しさ。


 レインが思わず見とれると、ソレはこちらを見て、顔を歪めた。


「ていうか、何ぃ、なんなのよ!? ここっ!!くっさ、くっさ。一体なんなの? 最悪っ。窓、窓、開けて。早く!!」


 レインは、全力で換気した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ