マクマノアクマ③
※ファンタジー界でお馴染みの一部種族に対して差別的な発言があります。
美食家は、この『界』を未開の蛮族の土地と侮っている非常に傲慢な思考の持ち主なのでご了承ください。
レインちゃんとの初めての旅行、そして身内への挨拶と言う、趣あるイベントをこなすことができて、最初は、僕も嬉しかったんだ。
だけどボルト領に来てからは、レインちゃんに僕の作ったものをあまり食べて貰えていないんだ。
料理長が作ったものや、一家で暖炉の前で郷土料理を作っては、そればかりを口にしている……。
彼女を食べさせるという権利を奪われたようで、不満を感じてしまう。
なんというか、『お世話』し足りていない…………。
そりゃ季節行事や郷土の味は、大切だよ。
食べる体験や食の喜びを知るような、食育は、大切にしてあげたいさ。
そういう意味では、サンダース家の価値を発見できたよ。
僕がレインちゃんを大事に育てていく上で、あれは必要な環境なんだと、理解したさ。
だから、あの腐りきっていた土地に、害虫駆除の罠を撒いて害獣も駆除してやった。
連中も、汚染されたものばかり食べて濁っていたから、栄養を与えておいた。
でも、ここにいたらレインちゃんのために、僕がしたい『お世話』を全然させてくれないんだ。
本当に……、欲求不満だ。
黄金蜜柑の皮をむくぐらいのことしか出来なくて……、物足りない。
レインちゃん、白い筋は食べる派だし……。
双子と賭けて遊ぶゲームの景品は『本日のデザートで一番大きいのを食べれる権利』だから、僕の分をあげようとしても『お前、本当空気読めよ』という白い目で見られてしまうし……。
小母さんの令嬢教育の復習のせいで、規則正しい自立した生活ばかりして!
いくら甘やかして堕落させようとしても、ちっとも構ってくれやしない!!
何より、彼女をふっくふくさせるのは、僕がしたかったことなのに……。
ここの黄色いものでふっくらしてくるなんて……あんまりだよ!!
これも王都に帰るまでの、辛抱……。
こういう飢餓感もスパイスと思って……我慢することにしよう。
レインちゃんは課題で忙しくなったので、僕も外に出て、自由研究をすることにした。
◆◆◆◆
『不思議少女サニー☆サンシャイン』では2年生の春に修学旅行へ西の辺境へと向かう。
王都で知り合ったエルフの少女サラーサとの再会を果たす二人。
彼女を通して、エルフの森へと招待された二人は、エルフの村同士のケンカを、宥めることとなる。
蟠りの原因は、モンスターによるものだったと分かったことで、二つの村は争いをやめ、一緒にごはんを食べる。
そして再び手を取り合って、春の大祭を成功させるのだった。
八つ当たりをする気で満々で、手頃な白笹耳族の村を探していた所に、ちょうどいい情報が予言ノートにあったから、向かってみた。
そこで、すごく良いものが、僕を待っていた。
今回は肩透かしなんかじゃない、本当に素晴らしい素材を発見したのさ!
森にいたのは、古代黒笹耳族。闇精霊の精霊樹を祀る一族で、周辺の霊気をたっぷり帯びた加護木と呼ばれる植物を使って養蜂をしていたんだよ。
つまり精霊の加護を帯びた、蜂蜜を作っているんだ。
こういう伝統的な第一次産業は、貴重だよね。
だから採蜜に影響を与えてはいけないので、森を焼くことは、断念した。
僕は考えを改めたんだ。
未開の文化と生態系は、守るべきだって。
環境保全は大切だって、レインちゃんにも教わったんだ。
彼らとも、すっかり打ち解けられたよ。
精霊樹も長も良く理解してくれたみたいで、話が早くて、助かったな。
ここの蜂蜜は、レインちゃんにたっぷり取ってもらいたい、まさに最高で最適の品質だからね!
いつも飲んでいるエネルギードリンクの代わりに、僕が作ったものに依存して欲しいと、常々思っていたんだよ。
そして、そのために相応しい素材を探していた。
味覚分析は既に済ませて、代替え品は納得のいく仕上がりになって来たから、後は味の決め手、その成分だったんだ。
やっといいものが見つかったよ。
蜂蜜由来成分を、ここのローヤルゼリーに置き換えよう。闇精霊の加護なら、僕の魔力がいっぱい込められるよ。
それをいつでもレインちゃんが味わってくれるって最高だよね。フフフ。
暴食も、量より質の時代。
ただ食べさせるのではなく、どう食べさせるか、だよね。
僕がレインちゃんのために用意する新しいドリンクに、溺れて溺れて、依存しきって欲しいなあ……。
近くの白笹耳族の村も、支配下に置いた。こちらは風精霊で同じく養蜂していたけど、今回僕の作りたい飲み物には合わないし、またの機会に使わせてもらうことにするよ。
それから畑も始めることにしたんだ。
以前、学園で出会った可愛い蛆たちには、ここで自活してもらおう。
元アル中の『怠惰』のアルバード君と元ジャンキーの『嫉妬』のジャンヌちゃん。
この二人を中心に、暖かくなったら近くでいろいろ育てさせるために、農閑期の今から勉強を始めさせた。
体と名前をあげて、うちの子になったこの二人は、とっても意欲的なんだ。
今なら時間もあるから、王都へも研修に通ってくれることになった。
早く立派な益虫になれるよう、頑張ってね。
僕も彼らのためにも、もっと仲間を増やしてあげたいなぁ。
王都の屋敷に帰る頃には、水銀狐のコートも出来てるだろう。
今回旅行用に仕立てたコートは黒だったから、シルバーも、楽しみなんだ。
前抱っこの方が僕としては顔が見れて嬉しいけど、レインちゃんはおんぶの方が好きみたいだね。
王都に帰ったら、もっと一緒にお散歩に行きたいね。うん、学園へはおんぶで通おうね。
馬車はまだ、いらないよね。
二人でのんびり密室に籠っての移動と言うのも、偶には悪くないけど、冬の間はレインちゃんが僕にしがみついてくれるぬくもりを楽しもう。
辺境で暇すぎて、ヤンデレが進行しました。
自分から罠に嵌り好きで溺れているのでだいぶ重いです。