マクマノアクマ②
七不思議というのは、非常に興味深い。
郷土料理のコースのようなものだろうか。
土着の民のみが知る食文化、地域の宴会料理『七不思議』が、僕を待っていてくれるのだ。
実に胸が、高鳴る。
せっかくの機会なので、レインちゃんも誘ったのだが、断られてしまった。
非常に、残念だ。
「あのような不浄の土地には、必要がない限り近寄らないに限る。『ぼっち』が、深夜に人のいない学園などに行けば、必ずテロ目的だと疑われるのだ。誹謗中傷を受け、苛められ、冤罪を着せられ、やがては逮捕か、追放をされてしまうのだよ。あぁ、なんと恐ろしいことだろう。きっと新年を迎えるのは檻の中となるのだ」
なんという過剰な自意識。
そしてあふれんばかりの妄想力、ブルブルと震える様も、実に愛らしい。
レインちゃんは、本当に可愛い。
冬休みの間はこの屋敷で過ごしてしているけれど、普段はその学園の寮の中で周りに溶け込めないまま、独りぼっちで過ごしていたらしい。
それならこれからは僕が、学園でも日常生活でも、可愛がってあげよう。
孤立しているなんて最高だよ。つけ込みやすいレインちゃんを僕が精いっぱいお世話してあげるからね。
さっそく手続きもしてこようね。
レインちゃんの食への関心が絶望的に低いのは、おそらくこの環境が、原因なのだろう。
市場の品揃えの悪さに加え、学園でも適切な食育を受けられていないに違いない。
これだから未『界』は、と嘆きたくもなるが、僕が頑張ればいい話だ。
むしろ、お世話のし甲斐があるというもの。
大丈夫だよ。全部僕に任せてね。無知につけ込むのは、大得意なんだ。
今夜は街の粗悪な食材のみで調理する羽目になったが、急激な変化も体に負担がかかるからね。
食材は徐々に良いものに、切り替えていこう。
大切なのは下ごしらえと味付け。
うーん、しばらくは僕の腕だけが、頼りかなぁ。
ここでまともな食材を手に入れるには、自分で用意するしかなさそうだ。
地産地消ってやつだね。
新鮮な野菜を育てるためにも、手頃な笹耳族の森でも探してこようかな。
エルフは、いい肥料になるんだよ。
焼き畑で栄養価の高い良い野菜を作るんだ。
きっと苦手な野菜も、パクパク食べてくれるようになる。
これからの生活について、二人で盛り上がった後で、レインちゃんは研究室に籠ったので、僕は戸締りをしてから、学園へと向かった。
◇◇
少女マンガ「不思議少女サニー☆サンシャイン」では学園が舞台となるストーリーが多い。
『七不思議』編は、冬休み明けに、真冬の怪談話の噂を聞く所から始まる。
幻鳥ハミングが、気になる気配があると囁くので、サニーとクラウドくんは深夜の学校に探検に向かう。
そこで不思議な出会いと、不思議な武器を手に入れて……という2人にとっての、初めての冒険だ。
学園は、他の章でも、ペガサス(友達で二人の主な移動手段となる)や月夜の晩に湖に現れるローレライ(とってもセクシーなお姉さんでときどき役に立つアドバイスをくれる)など二人が様々な運命に、巡り合う場所でもある。
◆◆◆◆
ガッカリだよ……。
郷土料理のコースなどではなく、ただの……雑魚のごった煮、だったよ。
『しっぽく』と聞いて卓袱料理と卓袱うどんを、勘違いしたようなものかな。
うどんだって、悪くない。
悪くはなんだが…………、なんというか……そう、ガッカリだ。
過剰な期待を寄せ過ぎた、僕が悪いんだけどさ。
それでもこれは、今取れる、旬の食材との出会いだ。
この地の恵みだ。感謝して、堪能しよう。
他の章で仲間になる、魔獣も含めて、しっかりと狩って、命を頂こう。
今の気候は冬で、レインちゃんにとっては、肌寒い季節らしいから、鍋料理が良いだろう。
チャウダーなら、飲んでくれるかな。
身体の中から、しっかりと温まろうね。
明日の朝が楽しみだ。
スープ続きだが、これからは毎朝のメニューに、スープを加えようと思うんだ。
レインちゃん、食が細いし、関心も低すぎるから、手軽に飲めるスープで、栄養を取ってもらわないと。
それに、どれもこれも、素材を生かした調理には、どうにも……なんだよね。
魔力に濁りがあるから、風味も悪く、肉や魚に雑味や泥臭さが、強く出てしまう。
匂い消しの野菜や香草を加えて、共に食す方がいいだろう。
玉ねぎの選択は、正しかったね。
まったく、寂れているのは、市場だけじゃなかったんだ。
狩場でもこのありさまとは……、あまりにも貧弱な土地に、少し悲しくなってしまう。
レインちゃんが言っていた通り、世知辛いね。
もちろん、ザコはザコでも、益虫は別。
それに地元が同じ『怠惰』と『嫉妬』の眷属は、残しておいたよ。
あぁ、昨夜の鳥と比べてはいけないな。
女神からの特別な聖夜のお恵みなんだ。
あれのせいで、余計に物足りなさを感じてしまう。
魚類は、大味で脂が乗り過ぎていて、身もブヨブヨ……。
魔力も今一つで、締まりがない。
馬肉も、童貞馬はバイコーンと違って臭みが強いんだ。
歯ごたえも弾力も、まったくない。
ハマグリは古くぼやけ過ぎた薄味。
風味がないな。
あぁ。何というガッカリ感。肩透かしだったね。
だけどね、すごくいい物との、出会いがあったんだ。
アダマンタイト! それも祝福を受けている奴だよ。
ちょうどよかった。助かったよ。
キッチンツールが、欲しかったんだ!!
レインちゃんは、パンケーキを焼くためだけの粗悪なターナーと、果物のジャム……じゃなくてゲルを作るための、使い辛いヘラしか持ってなくて……、本当に困っていたんだ。
タナ―、スープレードル、横口レードル、パスタレードル、それとトング。
泡だて器も欲しいから、素材が足りるといいなぁ。
さっそく、鍛冶の得意な地元の奴の所に、送ったよ。
元は魔法剣だから、仕上がりにも期待が出来そうだよね。
こういう思わぬところでの、思わぬ出会いってすっごくテンションが上がるよね。
これも女神の遠回しなお恵みで、勘違い小僧が手にする流れが、予定されてたんだ。
けど、別にいいだろう。
こうして、ここに落ちていたんだから。
持ち主が権利を主張しない、拾った人が貰えるような落とし物なら、誰が拾っても、問題ないだろう。
僕はちゃんと大切に使うよ。
物持ちもいい方なんだ。
大体あの『界』の連中は、いつもそうなんだ。
『ものだけ与えて、後は現場で』と丸投げで放置する。
良くってせいぜい一回こっきりの天啓が、オマケで付くぐらいのもの。
『常に心に寄り添い囁き続ける』僕らのような真面目で、丁寧な仕事をする気持ちは、持ち合わせてはいないんだ。
いい加減な仕事しかできない連中だから、いい加減な結果ばかり生むのさ。
あぁ、せっかくなら、もっとたくさんくれないかな。
お鍋やフライパン、ボウルやざるも、新調したいんだ。
なるべく同じ素材で揃えたい時って、あるよね。
剣には何か緑色の石が付いていて、髪留めについていた赤い石と似た気配があったので、これも外して解析に回した。
今後も、学園での食材回収には期待出来ないが、こういうアタリはあるかもしれないな。
脇の甘い成金に感謝を捧げつつ、ホクホクしながら僕は帰宅した。




