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レインは、復讐のために全力を尽くす




「やった、やった。ふふふ、ついに完成したぞっ!」


 最近の研究の成果がようやく形となり、レインは非常にご機嫌だった。


 シベライトのような紫の瞳の下には、くっきりとしたクマが出ている。

 青白い肌は、ボロボロ、カサカサ。

 風呂も長らく入っていないから、髪もすっかりギットギトだ。

 黒髪のツインテールだったぼさぼさも、すっかり油分で固形化している。


 食事も固形栄養食ばかり、まともな食事したのはかなり前のこと。



 レインは辺境から王都にある学園にやってきた、中等科一回生の女の子。

 この冬は、雪の多い地元には、里帰りしなかった。

 保護者の目がない、初めての長期休みだ。

 寮を出て、王都にある両親の遺産のこの屋敷で、一人黙々と研究に励んだ。


 部屋は荒れ果て、生活リズムも、めちゃくちゃ。

 ブレーキを掛ける者がいない中、全力で没頭した。



◇◇◇◇



 召喚術の召喚陣を描く際に、必要とされているのは、『墨』『筆』『紙』『下敷き』、特に重要なのが『下敷き』だ。


 『墨』『筆』『紙』は魔導士の制作する、魔法陣を記載したスクロールにおいても、共通のものが使用されている。


 剣と鍋がどちらも素材は同じ金属性でも、全く違う用途の道具なのと同様に、召喚陣と魔法陣とは異なるものなのだ。幸い、家にあるもので準備ができた。


 『墨』は紙との明暗差が明確にあって、陣が認識されやすい、液体。


 『紙』は、植物紙や羊皮紙に限らず、陣が途絶えずに、正確に描ける媒体。


 もちろん、精度を高めるための素材の選択は不可欠だが……、レインだって理解している。


 『筆』は魔法伯だった父が使用していた、思い入れのある物を使う。

 魔力を良く通す、特殊コーティングの強化ガラス性の、ガラスペン。


 後は『下敷き』だけだった。

 そしてそれが、ついに完成した。


 自慢の特製の『下敷き』が!!


「これさえあればうまくいく…。絶対にうまくいく……。ふふふっ…。今にみてろよ。わたしは、必ず大悪魔を召喚してやるのだっ!!」




◇◇◇◇




魔術士が作るスクロールとは、媒体となる紙に、陣を記載(ただ描くのではなく必要の魔力を込めて描くこと)して作られる制作物である。


 使用する際に、なぞる程度の魔力を込め直すことで、指定した内容が実行される仕組みだ。


 その制作は魔力の高い専門の資格保持者である魔術師のみに許されているが、認可のある安全性の高いものを使用する分には、許可は不要。誰でも使用できる。

 様々な状況下での使用が想定され、携帯性と劣化の少ない紙や墨が重視される。



 召喚陣の場合は、制作の許可が不要だ。

 魔法陣の記載時とは違い、必要魔力量はスクロール使用時程度の、僅かな魔力で、陣を描くだけ。


 年齢、地位、魔力に関わらず、陣さえ描ければ、誰でも出来ることではあるが、その成功率は非常に低く、神秘の御業ともされている。


 召喚に成功した者でも、再召喚が出来ないこともあれば、『契約』によって何度も可能な者もおり、その全貌は未だに、明らかになっていない。


 もはや博打ようなものではあるが、有益存在の召喚や、その契約者は、多くの尊敬を集めることとなる。


 不利な戦況をひっくり返した英雄、飢饉に飢える国を救った救世主、その傍らには召喚獣や精霊がいた。伝説級神霊や、麗しい妖精との契約に憧れる者も多い。


 召喚に挑むのは、無謀な賭け。

 海賊のお宝や旧王朝の埋蔵金を探すのと同じで、道楽、ロマンなのだ。




◇◇◇◇




 召喚陣とは、あちら『対象がいる界』と、こちら『召喚陣がある界』を繋ぐものと考えられている。


 下敷きとは、界と界を挟んで、異界の存在を呼び込むために必要な重要なもの。

 様々な弊害を除去し、召喚対象を呼び込むため、入り口をより大きく開く作用の、あるものを指す。


 地形の魔法抵抗値を減少させるものや、土地や水、空気を清める薬剤、シート、これまでも様々なものが開発されてきた。



 レインは考えた。

 いくら高級な下敷きに頼っても、結局召喚出来なければ、意味なくないか。


 既存の下敷きは、値段がべらぼうに高い。

 すっごく高い。家が買える値段のものまである。

 魔法陣制作時にも使われる、その他の素材とは違い、特殊な用途のみで使用する下敷きの値段は、青天井なのだ。 


 けれど、正直その効力は、不明。

 中には、術者の健康や地形に、深刻な影響を及ぼす粗悪品まであるぐらいだ。

 栄誉と一獲千金を夢見る夢想家たちは、悪徳業者の良いカモなのだ。


 欠陥品の使用は、絶対にマズイ。

 召喚術なんて怪しげ術に挑んだことがバレたら、また心配させてしまう。


 だからレインは作ることにした。

 安全性と、徹底的な()()作用、そして場所を選ばずこっそり召喚できる『下敷き』を。



 そして完成したのが、ヌルヌルの生き物のような、暗緑色の特殊なゲルシート。


 さらに、シートの収納、輩出、再収納もできる入れ物まで完成させた。


 手のひらサイズの卵型で、操作は簡単。

 スイッチを押すだけ。パカッっと卵を割った時のように、テロッとシートを輩出。


 陣を描く時に、別のスイッチを押せば、シートは過熱した卵のように、しっかりと硬化。


 収納スイッチを押せば、また生の白身のように戻り、ヌルっと変形。

 そのままズルズルと容器へと自動で戻っていく楽々仕様なのだ。


 用意した紙に合わせた、サイズ変更も可能で、筆滑りも実に良い。

 使用後の紙を、シートに吸わせて、廃棄も簡単で、環境にも優しい。



 その名も、ゲルスラエッグ、なんと画期的な発明っ!  

 レインは自分のあまりの才能に、うち震えた。


 何度もスイッチを押して、シートを出し入れして、動作確認をする。

 名前の通り、卵型で、濁った斑のある灰褐色の籾殻(もみがら)のついた、ピータンのような外観。


 大きめの籾殻の粒にしか見えないものは、スイッチやサイズ変更のレバーである。


 輩出時には、そのピータンが半分に割れ、半熟の黄身のような暗緑色の不可解な物質が、デロデロと蠢き飛び出す。新種の毒持ちのモンスターのようなナニカだが、本人的は、大満足の仕上がりだ。


 レインは努力家ではあるが、その感性は……非常に残念だった。



「未だかつてない()()()。携帯性。収納力。環境への配慮。最高だっ。最高だな!! これならできる。絶対に召喚できる。すんごいのだって、召喚できるっ!!!」


 墨、紙、筆、下敷き、すべて揃った。



「こんなすごいことが出来るわたしは、もうお荷物なんかじゃない。認めさせてやる。認めさせてやるぞ!!全てを掛けて、やり遂げてやるのだ!!」


 ※美食家は、珍味が好きで、地産地消、旬の素材を味わうことに重視しております。

  ときどき残酷な表現を含むことをご理解ください。

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