公爵令嬢 帝国に行く
「ど、どういうことですか!!」
「…すまない 言葉が足らなかったね
先程 話していた将軍が戦争の褒美に君を婚約者として求めたらしい」
「!?」
「勿論 私は反対したんだが…」
ガチャ
「断ることは出来ませんよ」
「母上!!」
入ってきたその女性は金髪に近い茶髪をもち
いくつもの輝かしい宝石を身につけている
その容姿はジャル殿下に似ている
いや…ジャル殿下がよく似ていると言った方がいいのか
アマリリス王妃 ジャル殿下の実の母親で この国の王妃
そして私の義母になるはずだった人
「アリーチェ嬢 たった一人の娘と一国の命運
どちらが大事か分かっていますよね?」
返事は初めから決まっているように
その目は私を見ていない
「…はい 勿論です」
声が震えぬように返事をした
「それでこそ 元王妃候補ですわね
もしあなたがジャルの横で支えていたら…
まぁ言っても仕方ないことですね
だってもうあなたの婚約者は無欲の英雄様ですもの」
元の部分を強調し 楽しそうに微笑む
私は前から王妃様から嫌われている
平民に好かれているのが気に入らないらしい
「あっそうだわ …ジャル
貴方の新しい婚約者が決まりましたよ
帝国のラスト姫です とても光栄だわ」
それだけ伝えると王妃様は部屋を出ていった
用事はそれだけだったらしい
「母上っ!!
…本当にすまない
…アリーチェ 僕が愛しているのは
君だけなんだ わかってくれ」
「はい …存じております」
「…本当に済まない…」
ジャル殿下はそういうと王妃様を追い掛けて部屋を出ていった
部屋に沈黙が募る
なぜ私が急に?
無欲の英雄じゃなかったの?
疑問は沢山 頭を過ぎるが 一向に答えは出てこない
「…アリーチェ様はこれで…よろしいのですか?」
殿下の護衛であるフスティスが私に尋ねる
「仕方のないことです 殿下と結婚できないことは
…本当に残念なことですがこれが貴族としての役目ですから」
私は微笑んでみせた
これは私の本心だ
だいたいの貴族は王妃様のような選民主義だが私はそうおもわない
貴族は民の税金の上に成り立っている
だからこそ貴族は民の声を聞き 民を導かなくてはならない
そもそも貴族は政略結婚が基本だ
今までの私が幸運だっただけ それだけの話なのだ
それに民の為に役立てるなら喜んでこの身を捧げよう
「そう…ですか」
ラフティスは納得しないようだが それが貴族の義務だ
「…貴方には護衛の任務があるでしょ?早く行きなさい」
「…ありがとうございます。…私はっ…あなたの幸福を願っています…失礼します」バタン
まぁだからって悲しくないわけではないんだけどね
「…殿下 ずっとお慕い申しておりました…」
馬車に揺られ 船に揺られ
丸一日掛けてたどり着いた
ここが…帝国アリストロ…
…わかってはいたけど…
「王国の城より大っきい…」
見上げると真っ白な壁 青い屋根
これが難攻不落の帝国アリストロの城…
私は一つの部屋に案内された
「こちらでお待ちください すぐ将軍がやってこられます」パタン
なんて質素な部屋なんだろうか 机にソファ 必要なもの以外は何も無い
ガチャ「おや?見覚えのない顔だね 君は…あぁ…」
茶髪に金色の眼 この人が…
「どうも 私が…かの有名な 無欲の英雄です…いたいっ!!!」
「まったくなにやってんすか…陛下」
陛下!?この方が帝国の暴君 グリード陛下
「なになに こちらの令嬢が緊張していたようだからね
緊張を解してあげようかと…痛いっ痛いから蹴るなよ ヘルトッ!!」
…ヘルト この黒髪の大きめな男性が
帝国の勝利の功績に貢献した帝国の将軍 無欲の英雄…
「…すまない 殿下が君に迷惑をかけてしまって」
「迷惑なんか掛けてないって!!痛い!!おい ヴォル 何とかしろよ!!副官だろ!?」
「いやあ…これは殿下が悪いっすよ」
「…こんな形になってしまったが 私はあなたを妻として迎えたい」
赤い瞳が私を見つめる
「この通り口下手ではあるがよろし「嫌ですっ!!!」
「私は貴方を旦那様として認めませんっ!!
私が愛する方は…ジャル殿下だけですっ!!!」
「…ふははっ ぶひゃひゃひゃ 聞いた!?ねえ聞いた!?
あの 女の子から求婚が絶えないヘルトに…ふはははっ ひぃ お腹痛ぃ」
「殿下ッ!!笑っちゃ駄目ですって…ブフゥ
…っておい ヘルト!?おーい聞こえてるか!?うわあ 石になってやがる…」
「はぁはぁ 苦しいw 」
…なんだこれ 陛下は床に転がってるし ヘルト…さんは固まってるし
「だけど…ヘルトがここまで夢中になるとは…」
陛下の雰囲気と声色が変わった 思わず鳥肌が立つ
「欲しくなってしまうな」
陛下が私の顎を掴み顔を覗く 私を見つめる瞳はとても彩やかだった
「…って おい!! ヘルト!!その手に持ってる剣を離せ!!冗談だ 冗談!!」
「…ふぅ 本当に済まない
… 君が…愛し合っていたことは知っている酷いことをしてしまったことも自覚している
…だから嫌われていても仕方ないと分かっている
しかし 私は本気で貴方を愛している 私のことを見て欲しい 絶対に振り向かせてみせる」
「まぁ惚気けるのはここまでしてもらって…そうだね 忘れていたよ
アリーチェ嬢 ようこそ 実力主義の帝国アリストロへ我々は君を歓迎するよ」
今更だけど私は大変なところに来てしまったかもしれない
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