Act and Defence
この作品はボーイズラブ作品です。苦手な方はここでそっとページを閉じることをおすすめします。
Act and Defence〜プロローグ〜
お隣さんにはたぶん好きな人がいる。
お隣さんの名は土井庵司。俺より8歳年上なので今年27歳。近所の診療所の内科医をしていてマダム達から“ハンサムなお医者さん”として井戸端会議の話題にたびたび上がるちょっとした有名人。そんなモテる彼だが彼女はいなく(過去には何人かいたらしいが)結婚もしていない。なのに4人家族の俺と同じマンションの隣部屋に1人で住んでる。
3年前の春、数ヶ月間空き部屋だった隣の部屋にリフォーム業者の人や不動産関係の人が出入りしていた。あの時高校生になる直前だった俺はどんな人達が引っ越してくるのだろうといったほんの少しの興味と感じ悪い人だったらどうしようといった不安を抱いていた。母なんて「せっかく隣が居なくなって開放感に満ちていたのに」と毎日言っていたくらいだった。
それから間も無くして家族全員揃って家で休日を満喫していた土曜日、彼がやってきたのだった。インターホンが鳴った時、母は昼食の洗い物中、父と妹はテレビゲームで対戦中、俺は1番初めに脱落し2人の勝負の行方を見届けていた。すなわちインターホンに応答できるのは俺しかいなかったのだ。モニターに映ってたのは清楚な服装に身を包んだ見慣れない男で格好からして宅配でも新聞屋でも宗教勧誘の人でもないことだけはわかった。
「………はい。」
今思い返してもとても無愛想な声だったと思う。
「こんにちは。昨日隣に越してきた土井と申します。今お時間よろしいでしょうか。」
俺の無愛想な返答を一切気にしていない様子の男は見た目通りの爽やかな声だった。
「あ、はい、今行きます。」
無愛想さが抜けないことに罪悪感を覚えたもののその当時の俺の最大限の対応だった。
ドアを開けると高身長で男らしい骨格をした爽やかなイケメンが高級そうな紙袋を下げて立っていた。男の俺でさえ驚きのあまり言葉を失うくらいだった。適切な言葉が出て来なく3秒くらい沈黙していたら後ろからバタバタ足音が聞こえてきた。
「こんにちは〜〜。こんな格好でごめんなさいね〜〜。あらやだ〜超イケメンじゃないの〜〜〜」
お母さん、息子は今あなたと親子であることがとても恥ずかしいです。俺はそう心の中で呟き唇を噛んだ。
「ははは。そう言っていただけると嬉しいですね。ありがとうございます。」
何だこのイケメン爽やかでクールな顔立ちのくせにこんな気さくに笑うのかよ。それに対応うまっ。俺は世の中に不平等さを感じた。
土井さんは笑顔でテンションの高い母と会話のキャッチボールを続けていた。対戦が終わった父と妹も来て家族全員で土井さんに挨拶することになった。
母が質問攻めした結果土井さんは都内にある国立大学の医学部出身で研修医として仕事を始めたばかりという超ハイスペックなイケメンであることが判明した。もともと読書が好きなところに来て仕事をする上で必要となる医学関連の本が沢山あるため一人暮らし用のアパートだと本に埋もれてしまうと判断し駅から近いこのファミリー層向けのマンションを選んだのだった。
ひと通りの挨拶が終わった後母が土井さんにとんでもないお願いをしたのだった。
「ねえ、土井さん。もしね、可能だったらで良いのだけれど、暇な時このバカ息子に勉強教えてやってくれないかしら。この子もうすぐ高校生になるのよ。」
「ちょっと母さん!!!」
俺は流石に焦った。引っ越して早々にそんなこと言われて首を横にふれる奴なんているわけないだろ。
「私なんかで良ければもちろん良いですよ。学生時代家庭教師のアルバイトをしていたのでそれなりの自信はあります。それにいくら本があるとはいえ一人暮らしには少々広すぎる家なのでいつでも歓迎しますよ。」
この素晴らしい返答をきっかけに俺は度々土井さんの家にお邪魔することになったのだ。
それから数日後、初めて土井さんの家に1人でお邪魔した。緊張していた俺を和ませようとしたのかそれとも親しみを込めて言ったのかはわからないが下の名で呼んでほしいと言われそれ以来俺は土井さんのことを“庵司さん”と呼ぶことにした。
庵司さんは学校の先生より若いし勉強以外のことも沢山教えてくれるし俺にとって知り合いのお兄ちゃん的存在になった。また庵司さんの作る料理はどれもとても美味しく、度々ご飯をご馳走になる関係にまで発展した。
庵司さんのわかりやすく適切な指導のおかげで先日俺は第一志望校に合格することができた。その事を報告しに庵司さんの家に行きいつも通り紅茶をご馳走になっていた。
庵司さんはとても喜んでくれた。すると嬉しそうに庵司さんが話し始めたのだった。
「その大学の医学部に俺の4つ下の後輩が通ってて…たしかあいつ1年他の大学通って中退して浪人してるからたぶん来年3年かな。学部違くてもかなり変わっててどうしようもない奴だから有名人だと思うな。近田亜希っていうやつだからなんかあったら報告よろしくな。」
今までに何度も庵司さんが自分の友人の話をした事はあったけどここまでディスりながらも楽しそうにそれも本名まで語った人は他にいなかった。珍しいと思い俺はもう少し近田さんについて尋ねてみた。
話していくうちに庵司さんはその近田亜希という人に恋をしていて本人は恋をしてる事にまだ気づいていないという事に気付いてしまった。
女の勘よりも正確性は劣るかもしれないが断言して良いと思う。
だって俺は庵司さんに淡い恋心を抱いていたから。
歳も離れてるしご近所問題起こすのも嫌だったし何より男同士だから叶うわけないと思って諦めていたけど好きな事に変わりはないため庵司さんの様子や表情を見ればすぐにわかった。
また、庵司さん自身も近田さんのことを無意識のうちに諦めているとも思えた。
俺は何も気づいてないふりしてそのまま庵司さんと会話を続けたのだった。
こんな初心者の作品を読んでくださりありがとうございました。必ずハピエンにするつもりですので作品の最後までお付き合いしてくれたらとても嬉しく思います。