第九話:恋の捜索
美術館の中は、何となく重々しい雰囲気が漂っていた。こちらを、石造の騎士がこちらを睨んでいる気がする。実際、我が三学年はワイワイと騒いでおり、受付の人は不機嫌そうな表情で、説明係を呼びにいった。
「新岩、なんかつまんなそうだな」
「全くだ」
正直、もう旅館の方へと向かいたかったが、美術館見学のために一時間半もかかるというのが、どうもおもしろくない。ここに入る前、お土産コーナーが一瞬目に入ったが、全然興味をそそる物は置いてなかった。後の旅館に期待することにしよう。
「それではですね、組ごとに時間差でですね、説明係が館内を案内しますので、一組以外の人はですね、館内を自由に見て回って下さい。くれぐれも、美術品に触ったり走りまわったりは、しないようによろしくお願いしますね」
さすがに中学生になってまで走り回る奴がいたら、その顔を見てみたい。相当バカな顔つきであろう。
「では一組の皆さん、こちらです」
この間俺達はずっと暇なわけだが、俺には行かなくてはならない場所がある。
そう、二階のどこかにある休憩コーナーに行き、弓に真相を聞かなくてはならない。だが、どこの近くとまでは覚えているのだが、どこまでは残念ながら、物覚えの悪い俺の頭が記憶しているはずもなく、二階に全部で三つある休憩コーナーを探さなくてはならない。
ちゃんと弓が待っていてくれていれば、の話だが。
「はーい、もう自由に見に行って構わないぞ〜」
自分でそう言ってるくせに、先生はすぐに喫煙所へと向かった。そういえば、朝の電車内で、俺は美術が好きじゃない、とか何とか言っていたのを思い出した。どうしてこんなくだらない事しか、覚えてないのであろうか。全く、不憫な頭である。
ここで俺は閃いた。弓ともう一緒に行けば良いのである。こんな簡単な事に、どうして気がつかなかったのだろう。だからいつもテストで悪い点しか取れないのだ。
「えー……っと」
弓を探すが、まるで見つからない。人にも聞けず、一人で困っていると、
「そういえば弓、一人でどこいっちゃんたんだろ……」
「何かいそいでなかった?」
これは良い話を聞いた。弓は既に二階のどこかへと向かったのだ。これで弓を無駄に探さなくて良くなったが、逆に言えば結局目的地はわからず、最終的に自分で探すハメになったのだ。更に新たな問題が発生した。
「新岩、一緒に暇つぶせる物、探そうぜ」
誘いが来たのである。
「悪い、俺見たい物あるんだ」
ここはうまく断れたと思ったが、甘かった。
「おぅ、じゃあ一緒に見ようぜ」
困った。この状況で断ったら、変に思われるかもしれないし、同行を許したら弓捜索に支障が出る。俺は短時間で導き出さなくてはならない問題に、今までに無い程頭を悩ませていた。
だが、答えは意外にも簡単に出た。
「お前のこと、誰か受付で待ってたぞ」
「え、ほんとか?」
その答えは、物凄い罪悪感に襲われる内容であったが、この場を振り切るにはこれしか思いつかなかったのである。後で謝罪しなければならないが、今はそれどころでは無い。
「じゃあ、ちょっと行ってくるわ」
それだけ言い残すと、受付の方へと走って行った。確かここは走ってはいけないはずであったが、今の彼にとっては大して問題では無いだろう。などと考えていると、
「こら君!走っちゃ駄目だぞ!」
「あ……すいません」
案の定怒られてしまった。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいである。
そろそろ人がばらけてきたので、俺は二階に上がる階段の方へと、小走りで向かった。