第七話:恋の失敗
車内でも皆は元気よく、夜はどんな話をするかや、美術館は大きいのかといった、とても他愛のない話題で溢れていた。先生もにこやかに生徒と話をしている。
だが、俺達の席だけは、重苦しい空気が立ち込めていた。それもそのはず、さっきまで二人は口論を繰り広げており、気まずい終わり方をしているのだから。
「……、あ、あのさ」
俺は勇気を振り絞って、弓に話しかけてみた。少し不安である。
「…………なに?」
しばしの沈黙の後の返答は、中学校生活の中で一番、冷たい感じであった。何となく、弓の目線が下を向いており、あまり俺の方を見たくはなさそうだ。
「その………、あれだ。お菓子食べるか?」
「今は食べれないよ」
即答だ。
「あぁ……、うっかりしてたわ。は、はは……」
全くつられて笑ってくれない。いつもなら、満面の笑みで笑ってくれるのに。何だか、俺の知ってる弓とは、少し違っていた。
「……なぁ、さっきはごめんな……」
「別に、いいよ」
またしても即答だ。まるで弓は俺の話す話題を全部知っていそうな感じであり、もうそれ以上は、話しかける言葉が全て消えてしまった。というか、消えざるを得ない状況であった。
しばらく重たい空気でバスに揺られていると、
「そろそろなので、皆さん降りる準備を、して下さい」
などとアナウンスが入った。もう美術館の近くまで迫っているという事だ。
「おい弓、そろそろ降りるぞ」
少しフレンドリーな感じで喋りかけたが、
「知ってるよ」
という悲しい返事しか返ってこなかった。まあ、何となく予想は出来ていたが。
俺は自分のカバンを取ろうと、席を立ち上がって荷物の置いてある棚を、見てみると弓のカバンも隣にあった。
内心、少しホッとした。完全に怒らせてしまったわけではなさそうだ。そう思い、弓のカバンも一緒に取ってやろうとすると、ある物が目に入った。
白い錠剤が目に映った。