第六話:恋の暗転
駅のホームでは、各組の点呼を取っており、俺もしっかりと自分の番号を、元気よく叫ぶと辺りを見回してみた。
「ほぉ〜……」
目に映る物全てが初めてで、飽きずに俺は建物などを物色した。
さっきの事が忘れられるようだった。さっぱり綺麗に。
「はいは〜い!こっち注目〜!」
担任の大声が響く。駅員までこっちに注目しているので、やや恥ずかしい。
「じゃあこれから、バスに乗って、美術館の方に行きますので、組ごとに整列して下さい!」
何故か修学旅行では、行ったところで何も楽しくない場所に行かなくてはならない、お約束がある。一体誰が目的地を決めているのだろうか。いるとしたら、その者はかなり間違いを犯している。
ざわざわと俺の組も整列の隊形となると、
「はい、一組からバスに乗って〜!」
やはりここでも数字の若い順に行動する。謎である。別に逆も悪くないと思うのだが。
「ひ〜、暑いなぁ〜」
隣で朝ガタガタ震えてる奴がよく言う。
「ジャンバー脱げばいいじゃん……」
さりげなくフォローするあたりが、大人な感じがしてならない今日この頃である。
「いやでもさ、持つの面倒じゃん?」
「……あっそ」
くだらない会話を交わす内に、俺達の組の番が回ってきた。何となく、他の組よりバスが遠い。
「はい乗れ〜!」
まず一斑からぞろぞろとバスに乗車していくのを見ていると、誰かが俺の肩を軽く叩いた。
「あ?」
「あの……」
弓だった。ちなみに俺と弓は同じ班なので、先程から俺達は近くにいたのである。
だが、今頃何の用であろうか。さっきの謝罪なら話は違ってくるが。
「何か用か?」
「……もしかして、勇助怒ってる?」
「いや、別に」
俺は明らかに、不機嫌な表情と声のトーンで短く答えた。
「さっきは……、ごめんね?さっさと言わなくて………。でも、言わなきゃいけないよね。だから、後で美術館に行ったら、全部話すね?約束する」
「………何で今言わないんだよ?」
思ってもいない事が次から次へと、勝手に口が喋り出した。
「そんなに言いたくないのかよ?」
何で?
「何で今まで俺に言わなかったんだよ……!」
止まらない。
「答えろ!」
小さな声、しかし、とても強い感情がこもっている。だけど、本当は一つもそんな事は思ってない。何で?どうして?
「ご、ごめんなさい。でもここじゃ、どうしても言えないの。本当にごめんね……?」
弓の目に大きな涙が光り始めた頃、ようやく体がいう事を聞くようになった。というか、我に返ったという方が、近い感じがする。
「……そうかよ」
「うん…」
正直、謝りたくても謝れない、後に引けない状況に陥っていた。何というか、すごく気まずい感じがする。
「まぁ……、分かればいいけどさ……」
何を分かったのかは謎だが、一応俺は引いてみた。
「あ……、ありがとう」
成功したようである。
「じゃ、じゃあ……、二階の絵画コーナー近くの、休憩室で待ってるね」
それだけ言うと、弓はそそくさとバスの中へと入っていった。
「おい、新岩。もう俺達の乗る番だぞ」
「……そうか」
「何かあったのか?矢川と」
胸が急に高鳴った。ばれていたのか?
「な、何で?」
俺の返答も段々と、危ない感じになっていく。
「だってさ、さっきから結構話している割にはさ、お互い険悪な表情しているからさ」
こいつは余計な時だけ、勘が鋭くなる。全く嫌な特技である。
「気のせいだよ、気のせい。さっき俺が矢川のお菓子を食べすぎたんだよ」
「あ、そっか」
そしてこいつは、呆れるほどバカな奴であり、とても扱いやすくもあるのだ。
俺達の班が全員乗車し終わると、次の班が間髪いれずにどんどんと乗車してくる。
またしても、バスの座席は幸か不幸か、弓だった。