第四話:恋の戸惑い
気づいた時には、そこは目的地だった。なんていう冒頭がどっかにあった気がしないでも無いが、我らが三学年は無事到着しそうだ。それにしても、俺の組は全員寝ているというのが嬉しさに欠ける。そこまで皆朝が苦手なのか?
「ふぅ〜……。ん?」
何だか肩が重い。
「はっ………」
一瞬心臓が止まりかけた。弓が俺の肩にもたれかかってねているではないか。いや、肩というか体全体に密着していて、髪からはほんのりとリンスの様な香りがする。
「スゥー……スゥー……」
一定のリズムで呼吸する弓を見ていると、何だか一生守ってあげたくなっている自分がいた。
「…………」
そういえば付き合い始めて数週間が経ったが、いまだに手を繋いだことが無い。このタイミングで繋げば良いのではないか?
「……誰も見てないな」
何となく悪い事をするような気分になってきたが、別に変な事をするわけじゃないし、お互いの事が好きだからこれぐらいしても、そこまで罰が当たるわけでもなかろう。
ゆっくりと、俺は手を弓の手の方へと伸ばした。
「…………っ」
電車の走行音がとても大きく聞こえる。喉が渇いてきた。手がじんわりと汗ばんできた。心臓の鼓動が手に近づくにつれ、比例して大きくなっていく。正直胸が痛くなってきた。
俺はゆっくりと弓の少し小さい手を、ゆっくりと、そして少し力を入れて握った。
温かい。やわらかい。こんなに女性の手はすべすべしているのか?生まれて初めて好きな人の手を握った事に、感激して泣きそうになった。
しっかりと、離れないように指と指を絡ませる。そして、二人の間にそっとお互いの手を置いた。
ずっと繋いでいたい。ずっと二人で寄り添っていたい。だけどそんな願いは叶うのか?来年も、一緒にいられるのか?高校は違うのか?そしたら、互いにすれ違うのではないか?俺と弓の将来は?そもそも、ずっと付き合ってられるのか?
様々な不安、希望の中にある小さな絶望。そんな物が俺の心にどんどんと溜まってきた。
フタリハズット、イッショニイレル?
物凄く怖くなってきた。もしかして、手を握った罰なのか?それなら重過ぎる。
さっきまで体が火の様に熱かったのに、今はすっかり冷め切っている。電車のアナウンスが妙に冷たく感じる。
少し、弓の手が冷たく感じられた。