第二話:恋の初心者
あれから数日が経ち、修学旅行前日となった。俺は家で心をときめかせ、旅行カバンに下着やら何やらを詰め込んでいた。
ちなみに彼女は元気を取り戻し、いつも通りの笑顔に戻ったので、俺は一安心というところだ。
一通り荷造りが終わったので、俺はパソコンを開いてみた。あまりメール等は得意ではないが、一応タイピングはできるので、メールアドレスも持っている。
「なんだ一通だけか……」
微妙に切なくなるのは俺だけか?
「弓か……」
彼女からメールが届いていた。しかも五分くらい前にきているではないか。
『こんばんわ!荷造り終わった?』
やはり、こういう会話をしている時が一番癒される。
「『ばっちり、そっちは?』と……」
現状報告をし、更に相手の話題へとつなげるのは、会話を弾ませる基本であろう。
俺は修学旅行のしおりを読みふけっていると、彼女からのメールが返ってきた。だいたい三分くらいの間隔である。
『まだ準備中〜。そういえば列車の座席どーなんだろうね?』
列車というのは、行きと帰りの列車の事で、行きと帰りとでは座席が違うらしい。それにその座席というのが全くのランダムらしく、当日に先生が決めてくるという、生徒の人権全て無視な決め方なので、その方針が発表された数日前には、クラス中が揉めに揉めた。
「『わかんない。俺は窓際がいいな』と……」
それにしても、何とも真面目な文章である。まるで作文を書いているような感じだ。これが彼女とのメールでいいのか?こんな境遇は初めてなのでよく分からないが、あまりソフトな文章とは思えない。
修学旅行の前日の出来事であった。『一緒に座れたらいいね(笑)』
ああ、やっぱり付き合うっていいなと、感じさせてくれる一文だが、最後の笑というのが気になる。一緒に座りたいのか、座りたくないのか?
「『(笑)って何?』」
ちょっときつかったか?いや、でも真実を知るには一番てっとり早い方法だと思う。
……返ってこない。急に不安が押し寄せてきた。その瞬間、メール着信音がなった。
正直ホッとした。
『んー……、特に意味はないっ!何かあった?』
特に意味が無いならあの間はなんだったのか。
「『いや、なんとなく』と」
支離滅裂になってきた。でも、これでいい。こんなほのぼのしたメールはとても心地が良い。男友達とのメールは、罵詈雑言が飛び交う無法地帯となんてしまうので、こういうメールはとても新鮮である。
『そっか、勇助の口癖だしね』
これは呆れられているのか?それとも他の意味があるのか?
「『別にいいじゃん』と」
何度も言うが、癒される。もうパソコンの画面から、マイナスイオンが出まくってるような気がする。
『わかった!明日早いからもう寝るね。遅刻しないように!おやすみ〜』
そういえば、既に時計は夜十一時を回っていた。もう寝なくては。電車で居眠りしてしまう。
「『おやすみ』と」
多分見てくれないだろうが、ここら辺は礼儀というものである。
パソコンの電源を切った俺は、ベッドに寝転がり、修学旅行のしおりを読み始めた。