第一話:恋の始まり
初めての投稿なので、変な文章などがあったら、バシバシ指摘しちゃってください。
「え、私と?」
体中がそれこそ炎のように、じんわりと熱くなった。
「………」
ただ、目線をはずすぐらいの事しか出来ない自分に、嫌気と苛立ちを覚えた。それにしても、相手はなかなか自分の気持ちを吐かない。
そろそろ三十秒ぐらいたっただろうか。彼女は意外にもあっさりと
「うん、いいよ。私でいいなら」
と、少し照れながら。
時が止まったかと思った。
「え?」
「本当に?」
「嘘ついてると思ったの?」
自分でもしつこいと思ったが、こうも上手くいくとは、想定外だった。
「いや…、あの、夢じゃないよなーって……」
「あはは!結構おもしろいね!新岩君って!」
結構か……、心で小さく呟くと、彼女と一緒になって笑っていた。
やけに気温が高かった、もう夕方になりそうな、教室での出来事だった。
俺が一世一代のイベントを成し遂げて、はや一週間。まだあの事を知る者はいないようだ。だが、女子のネットワークは予想以上に広く、ましてや恋の話などになるとなおさらである。
どうやら、その心配は無いようだ。今の話題は、修学旅行の事で持ちきりだからだ。
「おい、新岩、おやつ何持ってくんだよ?」
中学生にもなって修学旅行のおやつの内容を聞いてくるとは、どうして俺の周りは幼稚な奴しかいないのだろう。まあその気持ちも分からないでもない。
実は既におやつは買ってあるのだ。昨日のうちにアイツと買いにいったのである。アイツといったらアイツしかいなく、まだデートもしていない、付き合い始めのごく普通のカップルである俺達は、旅行のイベントについて話しながら、二人でよく吟味して購入したおやつ達は、自宅の自室の机の上に袋の中に入れられ、鎮座している。
「そんないいもん買ってねえぞ」
と、適当に返答した。確かにいい物は買っておらず、せいぜい駄菓子の少し上ぐらいのが、関の山である。なぜなら、おやつ代は千円以内と定められており、ちょっといい物を買おうものなら、すぐさま予算オーバーの憂き目を見る。
「そんな言い方すんなよな。同じ班になってもお菓子やらねえぞ」
「いらね」
こいつは梅昆布とかいう変な駄菓子しか買ってないので、最初から対象外である。
それにしても彼女の姿が見えない。まだ二時間目が終了し、休み時間だというのに。やはり、付き合うというのは、こういう心配を自然と抱いてしまうのか?まあ俺は自然に抱いたけど。
「そういや、矢川どうした?」
「ああ、あいつはさっき保健委員と保健室いったぞ。顔色は良くなかったが」
矢川、というのはもうお分かりだろうが、俺の彼女となってくれた人である。だが、顔色が良くないっていうのは、少し心に引っかかる。
「何かお前も顔色悪いぞ」
そりゃ彼女の体調が悪ければ、彼氏も心配するだろう。ごく普通かつ、ごく自然である。でも、保健委員も付いていった、というのは付き添いが無ければ保健室に自力でたどり着くのは、難しいと解釈していいのだろうか?
「お前も矢川みたいに、保健室行くか?」
これには少々戸惑った。保健室に行けば、自分の目で彼女の状態を確認できるが、今行けば次の時間の授業に出れないのである。その授業科目が美術で、好きなマンガキャラを描いてみよう、といった単元なもので、この日のために俺は家でずっと練習していた成果を、発揮できるチャンスだったのだ。
こんな楽しい単元で点数をとれるとは、楽園という比喩がぴったりであろう。
「うーん……」
「そこ、悩むとこか?」
脳内で保健室派と美術派が、激しい戦闘を繰り広げている。
「どうすんだ」
「やっぱ保健室で」
「でって……」
僅差で保健室派が勝利を収めた。はっきりいって、現在俺の体は健康そのもの、といった感じだが、まあここは保健室で甘えさせてもらおう。
「じゃあ、ちょっと行ってくるわ」
「……お大事に」
ちょっと呆れ顔をされたが、それはスルーである。俺はゆっくりと、保健室へ向かった。
途中には部活の後輩が数人おり、挨拶をし、無事に目的地へとたどり着いた。
「失礼しまーす。少し頭がくらくらするんですけど……」
嘘もいいところである。
「じゃあそこで座っててー」
保健医が言ったそことはソファーで、ソファーにはうなだれた感じで、彼女が座っていた。とても辛そうだった。
「あ……ゆう、新岩君……」
今、彼女が言いかけた、ゆう、とは俺の下の名前が勇助なので、彼女が下の名前で呼ぼうとしたのである。やはり、公共の場では恥ずかしいのか?
「おう、大丈夫か?矢川」
俺は名字で呼べた。成功である。
「うん、大丈夫…。ちょっとクラっときただけ」
結構危ないようだ。
「あんま無理すんなよ?熱はどうだ」
「多分無いよ」
多分我慢している。顔がいつもより赤い。目線も定まらないようである。
「嘘は駄目だ。そして俺はこっちだ」
「あれ……、いつの間に?」
おかしい。付き合って一ヶ月もたたないのに、おかしい等と言うのは知ったかぶりもいいところである。だが、この件については明らかにおかしい。相手のいる場所が補足できないとは、絶対異常がある。
「大丈夫か……?見えるか?」
「うん……、なんとか」
もう駄目だ。病院行きだ。
「矢川、お前病院に行った方がいい。いや、行かなきゃならない」
「どうして……?弓どこも悪くないよ?」
遅くなったが、彼女の名前は弓と書いて『ゆみ』と読む。
「いいか?明日にでも、いや、今からでも行った方がいい。どこかおかしい所があるはずだ」
「そんなに弓、変だったかなあ……。何か怖くなってきちゃった」
かすかに赤い顔に青が混じったような、微妙な顔色になってきた弓。
「ちょっと君、あんまり矢川さんを驚かせないで」
保健医に怒られてしまったが、俺は確かに、何か異常を感じた。それだけは自信を持てる。確信がある。
俺は、付き合ってまだ一週間だが、彼女の異常を感知できないなら、少なくとも愛がある彼氏とは思えない、という自論を持っている。
「すいません」
うるさいので一応謝っておく。
「矢川さん、気にしちゃ駄目よ」
「はい……」
何だか切ない感じだった。結局、この後彼女は早退し、俺は元気そうだという理由で、教室に強制送還となった。
その後、彼女は、笑顔で大丈夫と言い、保健室から出ていった。