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広瀬千香子の非日常  作者: 飛鳥
第一章 始まり
5/9

名前と始まり

五話目です。今回で第一章が終わります。

 化物を追い払った二人は邪魔者がいなくなったとばかりにこちらを向く。


「た、助けてくれてありがとうございました。私は怪しい者ではなくてですね。あのー、ちょっと怪我をしてるので手を貸してくれたら嬉しいんですけど」

「怪我をしているのですか。すみません気付かなくて、すぐ手当します」

「俺は連絡しとくぞ」


 長身の人が手当しにこちらに来てくれる。起こしてくれた手が温かかったので、少し安心する。眼鏡の人は誰かに電話をし始めた。助けてくれたけど、この二人はいったい誰なんだろう。足の手当をしてくれていた長身の人に聞いてみる。


「あの、あなた達はいったい誰ですか?この山の管理人さん?」

「ああ、自己紹介がまだでしたね。僕は小野寺(おのでら)(まこと)と言います。貴方のクラスメイトの誠吾の兄です」

「はい⁉小野寺のお兄さん⁉」

「五人兄弟の三男です。さっきの眼鏡のやつは誠一郎(せいいちろう)で、長男です」


 理解できなくて誠さんの言葉がぐるぐると頭を巡る。なんで小野寺のお兄さんがこの山にいるのか分からない。しかも何故助けてくれたんだ?


「な、なんでこの山にいてなおかつ私を助けてくれたんですかね?」

「誠吾に言われたんですよ。この山にはさっきみたいなのも出るし、夜に未成年だけで集まるのも危ないから何かあった時のために来てくれって」

「そ、そうだったんですか」

「あと、貴方に憑いているモノの話をしたいと言っていましたよ。広瀬千香子さん」

「なっ」


 小野寺にナニカが見えてた⁉今まで話しかけて来た理由はナニカのことを話したかったから?遠回り過ぎる。もっと分かりやすく言ってくれないと分からないでしょ。ってちょっと待って、なんで誠さんは私の名前知ってるの?小野寺に聞いたとしても会ったことがないから顔が分かる筈が無いのに。


「なんで私の名前知ってるんですか?」

「ちょっとした騒ぎになったんですよ。貴方が急にはぐれたって遠山さんという方が集合場所で言ったので」

「私、彼女に押されて崖から落ちたんですけど」

「ええ、見れば多少は何があったか分かります。遠山さんから話を聞いた誠吾が僕らに連絡して、こうして探していたという事です。クラスメイトの方達には先に帰ってもらいました。誠一郎が電話したので、誠吾から貴方の無事を知らされるでしょう」

「それで私のことを知っていたんですか」

「それと、貴方の近くにいる犬が普通ではないので」

「えっ?」


 慌てて辺りを見ると、ナニカが綺麗なお座りをしてこちらをみていた。よく見ると口に私のスマホを加えている。


「探してくれたの?」


 スマホを受け取りながらそう聞くと、ナニカは肯定するように低く唸った。


「ありがとね」


 今まで誤解してたことへのお詫びも兼ねて思いっきり撫でてやると、ナニカは嬉しそうに尻尾を振る。なんだか普通のペットみたいだ。

 

「誠吾、もう少しで着くってよ」

「そうですか。では車を近くまで出して来ます」

「あ、広瀬さん!無事で良かった!一郎兄ちゃん、誠兄ちゃんごめんありがとー!」

 

 誠さんが車を取りに行くのと入れ違いで小野寺が到着する。なんかいろいろと気不味いな。何も知らないと思っていたやつが何もかも知っていました、なんてどうすればいいのよ。でもさっき決めたことはやろう。


「広瀬さん、本当に無事で良かっがはぁ!」

「アンタのせいでエライ目に合ったんだからね!十発くらい殴られなさいよ!」

「痛い痛い広瀬さん痛い!ごめん、本当にごめん‼」

「チッ」


 舌打ちしながら小野寺を殴るのをやめる。大した事はないとはいえ私は怪我人だ。どうせ殴るなら全快したときにしよう。


「何だぁ、もうやめちまうのかよ。もっと殴ってくれてもいーんだぜ?」

「続きは全快したらやるんで」

「俺また殴られんの⁉あと一郎兄ちゃんは黙ってて!」


 誠一郎さんを黙らした小野寺は、こちらに向き直ると勢い良く頭を下げた。


「ごめん広瀬さん!俺がもっと早く来てたら化物に襲われてこんな怪我しなかったかもしれなかったのに!本当にごめん!」

「いや、この怪我は化物に襲われてできた怪我じゃないわよ」

「えっホント?」

「アンタ本当に何も知らなかったのね…」

「じゃあどうしてそんな怪我してんの?」

「あー、ちょっと足を滑らして崖から落ちたの。そんなに痛くないから気にしないで」

「いや気にするって⁉崖から落ちたってヤバイからね⁉」


 ギャーギャー言う小野寺を適当にあしらいつつ、ナニカのことについて聞く。


「怪我のことはいいから。それよりも、私に憑いてるヤツのこと知ってたの?」

「ああ。初めて会った時から知ってた。だから話をするためにも部活にも誘ってたんだ」

「なら何で言ってくれなかったのよ。毎日しつこく部活誘うより良かったでしょ」

「それはその、広瀬さん話し掛けるとすぐに会話終わらせようとするし、イヤホンしちゃうから中々切り出せなくて」

「それは…ごめん」


 これは確かに私のせいだ。話しかけるなオーラが出ていたらしい。今度からはもう少し気を付けよう。小野寺はナニカのこと知ってるのかな。やっぱり送り犬だと思うんだけどどうだろう。


「小野寺、このナニカって送り犬よね?」

「んー、広瀬さん、コイツの前で一度も転ばなかった?それとも誤魔化してた?」

「そういえばさっきは誤魔化す隙もなかったけど、化物のほうを襲ったわね」

「だったらそれは有り得ないんじゃない?一郎兄ちゃん分かる?」

「知るか。妖怪やら怪異やらは誠司か誠に聞け」

「誠司?」

「次男の誠司兄ちゃん。こういうのに詳しいんだ。今度聞いとくよ」

「ありがと」

「でもま、守ってくれたってことは守護霊かなにかじゃねーの?そんな禍々しい守護霊見た事ねーけど」


 誠一郎さんの言葉で改めて考え直す。守護霊か…。確かに昔からずっといて、今回のことで守ってくれてたって確信が持てたし…本当に守護霊なのかもしれない。だったら何かしてあげないといけないな。


「ずっと誤解してたけど、あんた私を守ってくれてたのね」


 撫でながらそう言うと、ナニカは気持ちよさそうに目を細めた。そのまま撫でていると、お礼は名前をあげることで良い気がしてきた。ずっとナニカじゃアレだし、ほんの少しのお礼のような気持ちで、そんな軽い気持ちで私は言った。


「よし、決めた。あんたはクロ。分かった?あんたの名前は今日からクロよ」


 クロは頷くようにグルル、と唸る。クロも嬉しそうにしていて、なんだか私はとても良いことをした気分になった。


「なにやってんの広瀬さん!」

「テメェ死にてぇのかゴラァ‼」


 せっかく満足していたのに、小野寺と誠一郎さんから怒鳴られた。解せぬ。


「な、なに?ただ名前つけてあげただけでしょ?」


 私の言葉に、二人は深くため息をついた。これは何かやってしまったのか?


「な、なんなのよ。なんか悪いことした?」

「あのね広瀬さん、妖怪や怪異に名前をつけるのはとても危ないことなんだ」

「そうだ。名前ってのは―」

「名前とは、存在を与えるのと同義です。元々存在がないものとして伝わっていた妖怪や怪異に名前をつけるのは、存在を定義し、力を与えてしまいます。そうでなくても、言霊と言われるように言葉には力があるのです」


 車を取りに行っていた誠さんが誠一郎さんを遮って説明してくれる。

 慌ててクロを見れば、確かにさっきよりも大きくなっているような…。でも誇らしげに尻尾振ってるしいいんじゃない?これからも守ってくれるってことよね?


「やってしまったことはしょうが無いわ。クロ、これからもよろしくね」

「ヴォン!」


クロは返事をするように大きく吠えた。よしよし、これからはクロが居ても怯える心配はなくなった。とても良い気分だ。


「あっそうだ広瀬さん!オカルト研究会入ってよ!」

「ええ〜それ今言うこと?」 

「クロのこともあるし広瀬さんの見える体質とかの相談もできるから!お願い!」

「どうしよっかな…」


 それは確かに何とかしたい。少し迷うな。


「一郎兄ちゃんと誠兄ちゃんも何か言って!」

「あぁ?テメーでやりやがれ」

「オカルト研究会に入ったら、創設者の須賀(すが)(あきら)先輩に会えますよ」

「誰ですかその人。創設者とか興味ないんですけど」

「小説家の春日井灯の本名です」

「えっ嘘」

「ホントです」


 春日井灯が創設者だったなんて聞いてないんだけど!小野寺、どうせ知ってるくせに何でもっと早く言わないのよ!


「僕は先輩と一緒にオカルト研究会を作ったんですよ。先輩との輝かしい思い出の部活が無くなるのは忍びないですからね」

「誠兄ちゃんは須賀さんの担当さんをしてるんだ。俺も誠兄ちゃんに勧められてファンになったんだ」

「きっと先輩は会いたいと仰る筈なので、サインどころか家にも行けますよ」


 あ、灯先生の家だと⁉こんなのファンなら絶対に断れないじゃない!


「分かったわよ、しょうがないから入ってあげる。オカルト研究会」

「よろしくな!千香ちゃん!」

「ええ、よろしくね、誠吾」


 そうして、私の新たな日常が始まった。

ここまで読んでくださり、ありがとう御座いました。あともう一つオマケを投稿して第一章は終了です。

第二章も執筆しておりますので、書け次第投稿します。もし良かったらポイント評価と感想を書いて頂けたら嬉しいです。今後もよろしくお願いします!

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