肝試し
三話目です。ちょっと長め
あっという間に肝試しの当日になってしまった。天気は快晴だが私の気分は曇天だ。まだ家を出てすらいないが帰りたいと思ってしまう。肝試しの発案者である遠山さんより、私が行かなければ行かないと言った小野寺のほうが腹が立つ。何故私が行かなければならないのかあとで問い詰めてやる。
小野寺に対するイライラを募らせていると、思いの外時間が経っていたのか、家を出る時間になってしまった。時間が経つのは早いものだ。一度大きく深呼吸して、気持ちを切り替える。
裏山に着く頃にはもうナニカはいるだろう。たかが肝試しだからといって油断はできない。逢魔ヶ時からは人間ではなく、彼等の時間なのだから。
「あ、広瀬さーん!ゴメンなー、巻き込んじゃって!今日はよろしぐぇ!」
「小野寺、いろいろ言いたいことはあるけど今はいいわ。取り敢えず殴らせなさい」
「もう殴ってる!」
「あんたね、私が行かなければ行かないってどういうこと?納得できる理由を教えなさい」
「えっとそれは―」
「誠吾君、広瀬さん、もうはじまるよ」
小野寺を問い詰めていたらいつの間にか居た遠山さんが話し掛けてくる。ざっと周りを見渡すと、クラスの半分程度の人数がいた。
「半分くらいしかいないのね」
「あ、うん。やっぱり用事があったりして、全員とはいかなかったよ」
「皆並んでー、ペアと順番決めるよー」
見る限り関わりたくない数人は来ていないようだし、それは良かった。真ん中の方にいた遠山さんの取り巻きが皆を集める。箱に入ったクジを引いて、ペアと入る順番を決めるらしい。
「広瀬さんは最後でいいかな?」
「ええ」
遠山さんに言われたので素直に頷く。面倒だから最初に引きたかったけど、場所的に離れていたのでしょうがないか。
「はい、広瀬さん」
「ありがと」
「クジ見せて。七番ってことは真帆ちゃんとペアだね。順番は一番最後だよ。ちょうど最後のペアが残ってたなんてすごい偶然だね」
クジ係にそう教えてもらうが、これは本当に偶然なのか?真帆ちゃんというのは確か遠山さんの名前だったはずだ。私の前は遠山さんで、ちょうど最後にペアの二枚が残っていたなんて、確率的にありえないだろう。となれば意図的に遠山さんは私とペアになったということになる。嫌な予感がする。
「よろしくね広瀬さん」
「ええよろしく、遠山さん」
肝試しのルールは、山の中を進み、木の下にある箱の中身に入っている問題を解き、ゴールのところで答えを言って、正解なら景品がもらえるらしい。
主催者側の子もお化け役と交代で参加するらしく、答えを知っているので狡いと思われるかもしれないが、問題はいくつかありそれぞれ答えを知らない問題をやるらしく、意外と考えられているようだ。
特に何事もなく順番は進んでいき、私の前の小野寺の番となった。ペアの相手はクジ係をやっていた遠山さんの取り巻きその一。いいのかな、遠山さんは小野寺が好きだと思っていたのだけど。
「広瀬さん、遠山さん!先行ってるな!」
「はいはい、あとでね」
「誠吾君、楽しんでね」
なんであいつは私に話しかけるのだろうか。私がここにいるのも、遠山さんに良く思われていないのもこいつのせいなのだ。
そういえば、小野寺は人に好かれるか嫌われるかとてもハッキリしていると思う。まるで何かに引き寄せられているように、小野寺に好意を抱く人もいれば、私のように嫌いな人がいる。好きか嫌いかの二つに分かれるのだ。でも、何故ここまでハッキリと分かれるのだろうか。人の感情に疎いところはあるけど、私が言えることではないが決して悪いやつではないのに。
「広瀬さん、私たちの番になったよ」
「ごめんなさい、少し考え事をしちゃって」
「ううん、考え事してたのにごめんね」
思考に没頭していたところを引き戻される。やっと私の番か。さっさと終わらせて帰りたいな。嫌な予感がするし、ナニカもいるし。
「じゃあ行こっか」
「ええ」
暗い森の中を小さな懐中電灯の明かりを頼りにして進む。明かりが小さいから少し足元が見にくい。ナニカがいるから転ばないように気をつけないといけないので、安全第一で行こう。
驚かしてくるお化けに変装したクラスメイトをスルーしつつ進んで行く。木の下にあった箱から問題を見て、遠山さんと二人で考える。少し手こずったが謎は解けたのでゴールに向かう。
「広瀬さん、ゴールはこっちだよ」
「遠山さんが道を知ってるから安心ね」
「あんまり迷うような道でもないんだけどね。暗いからほかの人は少し迷っちゃったかもしれないね。次やるときはもっと目印とかやるね」
次回もあるのかコレ。まあ、参加した人から好評だったらやるのかもしれない。そのときは欠席したい。
「広瀬さん、こっち来てちょっと見てくれる?」
「何かあったの?」
遠山さんに呼ばれ隣に行く。前は暗くよく見えない。懐中電灯は遠山さんが持っているけれど、今は明かりを切ってしまっている。目の前に広がる闇が、ナニカが大口を開けているように見えた。早くここから離れたい。
「ねえ遠山さん、早くゴールに」
「広瀬さんはさ、誠吾君に毎日誘われてるけど、どうして断ってるの?」
何だいきなり。別に今話すようなことじゃないだろう。あ、もしかして遠山さんは小野寺のことが好きだからいつも絡まれてる私が気に食わないのか。それを話すためにわざわざペアになったとか?
「面倒くさいからよ。部活とか入る気はないし、小野寺のは廃部決まってるしね」
「でも、あと二人入れば活動できるんだよ?どうして誠吾君を手伝ってあげないの?」
「部活に入る気はないって言ったでしょ。私にもいろいろあるのに、あいつは気にせずガンガン来るから嫌いなの」
「広瀬さん、ひどいよ…私は誠吾君にオカルト研究会入るよって言ったのに断られたんだよ?それなのに広瀬さんは誘い続けるってことは、誠吾君は広瀬さんが好きなんだよ。なのに誠吾君が嫌いって…」
いや、ひどいのは小野寺だろう。なんで遠山さんが入ってくれるって言ったのに断ったんだあいつ。すぐ廃部の問題解決するのに。
「遠山さんが断られてたのは知らなかったわ。別に小野寺も私が好きなんじゃなくって、好きな小説家の話ができるからちょっかい出してるだけよ」
「違うよ!誠吾君は広瀬さんが好きなんだ。広瀬さんがいるから誠吾君は私を見てくれないんだ!」
その言葉とともに、背中に軽い衝撃が走る。現状を理解する前に体を浮遊感が包み込み、私は崖に落ちていった。
遠山さんはちょっと痛い目にあえばいいな、という軽い気持ちで千香子を落としました。決して悪い子ではないのですが、後先は考えていませんでした。