日常
ちゃんとした小説を書くのは初めてです。
サクッと読めるコメディーホラーな感じでいけたらいいなと思っています。今回には特に年齢制限をするような描写は無いのですが、今後ありそうなので念の為。第一章は書き終わってるので毎日投稿します。よろしくお願いします。
朝の教室、まるで告白のような場面。私の目の前にいる男が口を開く。
「お願いだ広瀬さん!この通り!」
「嫌よ」
私、広瀬千香子は彼の懇願をバッサリと切ると、そのまま自分の席に座った。
「いや〜、今日も駄目だったか!」
そう言って頭を掻く男の名前は小野寺誠吾。背が高く、中学の時は陸上だかサッカーだかをしていたとかで健康的に日焼けをした活発な生徒だ。実家は寺だか神社で、四人の兄がおり、全員がこの香栗代高校の卒業生だと地元では有名だ。
「大体、誰が廃部が決まったオカルト研究会に入るっていうのよ」
さっきのは告白ではなく、小野寺による勧誘なのだ。ここ毎日言われているので、日課のようになりつつある。
この香栗代高校オカルト研究会は、小野寺が入ったとき三年生しかおらず、二年生はいなかった。そして、三年生が卒業したことで小野寺一人になってしまった。さらに一年生も入らならかった結果、廃部が決まっている。つまり、入るだけ無駄なのだ。
「いや、今年中に最低でもあと二人入部してくれれば、希望はある!」
「あっそ。じゃあどうして私なの?」
「広瀬さんが一番気が合うと思ってさ!『春日井灯』さんの本、よく読んでるし」
確かに、クラスの中で春日井灯の本を読んでいるのは私と小野寺だけだし、他の人が書いた本の趣味も合う。そのため、度々本の話題で盛り上がってはいた。
しかし、私は気が合うと思ったことは一度もない。それどころか、嫌ってすらいた。苦手な部類なのだ。人の心に土足で踏み込んでくるようなところが。
そもそも小野寺はクラスの中心的な存在で、隅の方で本を読んでいる私とは正反対のタイプだ。そのせいで女子の中心的存在で小野寺に好意を抱いている遠山さんに嫌われている。
「広瀬さん、俺は諦めないからな!」
「はいはい、絶対入らないけどね」
小野寺の話を適当に返して終わらせると、イヤホンをして外の音をシャットアウトする。
大体、寺か神社生まれってことは霊感バリバリありそうなくせして私に憑いているやつのことに気づいてないのに何がオカルト研究会か。こちとら、黒い犬のようなナニカに付き纏われているというのに。
私に犬のようなナニカが見えるようになったのは、ずっと昔のことだ。キッカケは分からないが、小学校低学年のときにはもう見えていたように思える。
大抵ナニカは日が暮れてから現れるが、昼間にもいるときがある。そして、一定の距離を保ってジッと見てくる。まるで監視されているようだ。もちろん、私だってただ怯えて暮らすだけではなく、神社に行ったり霊能力者に頼もうとしたり文献を読んだりして何とかしようとした。
結果は、この辺では有名な狐を祀っている神社に入ったときはいなくなったが神社を出ればまた現れた。霊能力者はまず見えていなかったので論外、唯一文献だけがナニカの正体を一応記していた。おそらくあれは「送り犬」だ。
送り犬、地域によっては送り狼とも言われる__とは、夜歩いていると後ろからついてくる妖怪で、普通にしていれば問題ないが、何かの拍子に転んでしまうとたちまち喰い殺されてしまう。しかし、転んでも座ったようにしたり、休むフリをすれば何もしてこない。無事に帰った後、お礼を言ったり食べ物をあげたら去っていくらしい。
もちろん、それを知った私はすぐにそれを実践し、お礼を言ったりご飯をあげありしたのだが、ナニカがいなくなる様子はない。ナニカがいるときは転ばないように気をつけているし、その努力が実ったのか一度もナニカの前で転んだこともなければ襲われたこともないのだが、怖いものは怖い。しかもずっとナニカがいたせいか、幽霊や妖怪のようなものまで偶に見えるようになる始末だ。私がなにをしたというのか。
そんなことを考えていると、チャイムが鳴った。ああ、今日もまた退屈な日常が始まる。