湖月村まで
* 2020/04/12
誤記の修正と、内容が変わらない範囲で微修正しました。
咲花村を出た後、田植えが終わった田園地帯を抜けると、私達は畑が広がる一帯に出た。
もちろん、平村にも畑はあるし両親も畑作をやっているので畑自体は珍しいものではない。しかし、平村では水場から離れた水田に適さない土地を畑として活用しているのだが、平村のある盆地自体がそれほど大きくはないので、壮観に感じたのだ。
私は、
「この辺りには、こんなに沢山の畑があるのですね。
まるで、見渡す限り畑ではないですか。」
と言った。すると田中先輩は、
「別に珍しいものでもないだろう。
それよりも、これからこの道を通って仕事をするかもしれないからな。
ちゃんと道を覚えておけよ・・・、と言いたいところだが、湖月村までは一本道みたいなものだからな。
覚えるようなこともないか。」
と言った。私は、
「道は覚えますが、このように広々とした畑は見たことがありませんでしたもので、つい。」
と興奮を伝えようとした。すると更科さんが、
「和人も、農家の出だから、こういうのが気になるのね。」
と話に入ってきた。私は、
「はい。
今年は、実家で空豆を作っていますが、他の年には別の作物を育てます。
なので、実家で作っていた野菜の畑を見ると、あの畑ではどんな工夫をしているのかと気になってしまうのです。
上手いやり方なら、実家の両親にも教えたいですし。」
と言った。すると蒼竜様が、
「山上は、孝行息子だな。」
と言い、雫様も、
「そやな。
雅弘も何年実家に帰ってへんか分からん、言うてたしな。
うちも似たようなもんや。
こういうところはうちらも人間を見習わんとあかんな。」
と言った。がしかし、横山さんも、
「私も、昨年から、実家には帰っていないわね。
たまに帰っても、孫はまだかとか言われて、なんか、帰り辛いのよね。」
と同じようなものだったらしい。横山さんは続けて、
「ゴンちゃんはどうなの?」
と聞いた。どうやら、横山さんは田中先輩の実家の事情は知らないようだ。田中先輩は、
「俺の両親は賊に殺られたからな。
まだ生きているうちに、ちゃんと孝行してやれよ?」
と少し羨ましそうだった。田中先輩は、両親を無理やり殺させられたという話だったが、やはりこの話は、何度思い出しても気分が悪くなる。
横山さんが、
「もうお亡くなりだったのね。
ごめんなさい。
お墓参りには行っているの?」
と質問を変えた。すると田中先輩は、
「いや、俺は遠くに売り飛ばされてこの地にやってきたからな。
今は墓どころか、実家があった場所がどうなっているのかさえも分からずだ。
まぁ、帰れることになったとしても、1年がかりになるだろうし、今更帰ったところで、どのくらい俺のことを覚えている奴らがいるのかも怪しい。
10代の頃ならともかく、今はもう、帰りたいとも思わなくなったな。」
と話した。すると、横山さんが、
「そう。
でも、1年以上かかるって、どんな辺鄙なところなのよ。」
と言った。すると田中先輩は、
「辺鄙どころか、王都よりも都会だからな。
そのくせ、肥溜めがなくてな。
二階から道に糞をばら撒いていたっけ。
夏の臭さと言ったら、1週間放置された馬小屋以上だったぞ。」
と苦笑いした。横山さんは、
「そんな適当なことを言っても駄目よ。
そんなひどい衛生状態の大都市なんて、あるわけないじゃないの。」
と笑った。そして横山さんは、
「ゴンちゃんはお酒を飲んで子供の頃の話をする時は、ちょくちょく冗談みたいな話をするけど、飲んでなくてもするのね。」
と楽しげだ。田中先輩は、
「いや、本当だぞ?
もっと近ければ、連れて行くんだがな。」
と懐かしげに話していた。
こんな馬鹿な話をしていると、両脇が畑の道から上り坂の道に変わった。
更科さんが、
「そろそろお昼にしませんか?
よい頃合いです。」
と言った。すると蒼竜様が、
「ふむ。
そろそろ午の刻であるか。」
と空を見上げながら返事をした。田中先輩も、
「そうだな。
昼にするには、よい頃合いだろう。」
と同意した。雫様が、
「山上、さっき、何の弁当を買ってたんや?」
と質問してきたので、私は、
「開けてみてのお楽しみです。」
と言った。すると、雫様は、
「なんや、ケチやなぁ。」
と文句を言ってきた。私が背負子を降ろして弁当を取り出して渡すと、雫様は、
「ん?
なんや、これ。
米と野菜ばっかりやないか。
肉ないんか?」
と不満そうだった。私は、
「村ですよ?
そんな、贅沢品は弁当に詰めませんよ。」
と返した。すると更科さんもあからさまにがっかりして、
「和人、本当になかったの?」
と聞いてきた。私は、
「もしあれば、私だって薫がお肉を好きなのは知っていますから買いましたよ。
でも、探してもありませんでしたので、仕方なくこれにしました。」
と返事した。そして、
「だけど、このお弁当、見て下さい。
卵焼きが入っているんですよ!
卵なら、育てば鶏ですから、肉みたいなものですよ。
それに、彩りも綺麗ですよ?」
と言い訳をした。すると更科さんは、
「えっと、卵焼きも確かに美味しいけど、やっぱり力不足なのよね。」
と、しょぼんと言った。雫様も、
「分かるわぁ。
やっぱり、肉がないと、気分が上がらんからなぁ。」
と、同じ意見のようだった。一方、横山さんは、
「別に、卵焼きでもいいじゃない。
前、安塚に買ってきてもらったら、梅干しとお漬物の入ったおむすびだけだったのよ。
それに比べれば、ずっと気が利いているわ。」
と肯定的だった。田中先輩も、
「そうだな。
卵焼きのようなものが1品あるだけで、彩りも良くなるからな。」
と同様だった。私は、
「そう言ってもらえると助かります。
やはり、おむすびの白一色よりも、彩りがあったほうが美味しいですしね。」
と言った。しかし更科さんは、
「彩りではお腹は膨れないのよ?
次からは、なにか1品、肉料理を作っておいたほうがよさそうね。」
と提案してきた。ここまでお肉に執着されると、返す言葉もない。
とは言え、本当に何も言わないわけにも行かないので、私は、
「時間的にも余裕があれば、その方が良さそうですね。」
と苦笑いしながら返した。
が、こんなやり取りが合ったにもかかわらず、雫様も、更科さんも卵焼きを美味しそうに食べていた。
お弁当を食べた後は、峠を超えて盆地に入った。
大きな湖がある。しばらく湖の辺りを歩くと、村が見えてきた。
更科さんが、
「あれが湖月村ですか?」
と田中先輩に確認した。すると田中先輩は、
「ああ。
湖で漁をしたり、田んぼを作ったりしているが、藍を育てていてな。
藍染も盛んな土地柄だ。」
と説明した。私は、
「なるほど。
ということは、うちで運ぶのも藍染めというわけですね。」
と返した。田中先輩は、
「そういうことだ。
まぁ、そのうち職人とも顔合わせするからな。」
と言った。
更科さんは、
「仕事の話はそのくらいにして、今夜はどこに泊まるのですか?」
と聞いた。田中先輩は、
「この村には一軒しかないからな。
空いていなけりゃ、野宿だ。
それと、せっかく材料だけはあるからな。
晩飯も自分たちで作るから、そのつもりでな。」
と、信じられないことを言った。
私は、宿屋の人には悪いが、他に人が泊まっていないことを祈りながら湖月村に入ったのだった。
〜〜〜王都からの道すがら
久堅さん :おう、ニコラ様。
また、旅か?
今度は葛町までだったか。
ニコラさん:あぁ。
なんでも、魔法を色で見ることが出来る少年がいるとかでな。
ちょっと見に行くことにしたのだ。
久堅さん :葛町まで2日半ってところか。
だが、まぁ、ハプスニルからここまでと比べたら、大したことないか。
韮崎さん :これから暫く、宜しくおねがいします。
久堅さん :あんたは、王立魔法研究所で案内をすると言っていた嬢ちゃんか。
韮崎さん :その、韮崎と言います。
嬢ちゃんはちょっと・・・。
久堅さん :あぁ、悪かった、韮崎。
レモンさん:それで、今日はどこまで行くんだ?
久堅さん :今日は大宮まで行く。
レモンさん:大宮というのは、どのようなところだ?
久堅さん :まぁ、あれだ。
大きな街だな。
韮崎さん :久堅さん、それでは解りませんよ。
大宮には大きな神社がありまして、そこを中心に発展した門前町です。
全国から参拝客が来るので、いろいろなお土産物屋さんや食べ物屋さんが並んでいるのが特徴です。
久堅さん :あぁ、それそれ。
後、そういうところだからいい置屋とか、、、
韮崎さん :久堅さん?
そういうのは隠れて説明して下さい。(まったく、男は本当に!)
レモンさん:置屋というのは?
韮崎さん :レモンさん?
レモンさん:あ、いや、スミマセンでした・・・。
※置屋は芸者さんや遊女さんを派遣するところです
※大杉町まで移動する様子を後書きに書くことにしました。




