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なかなか出発しなかった

 翌朝、朝食の後、天幕(テント)等を片付けた。

 今回は山頂に残る人がいないのだが、砕けた野菜なども含めると結構たくさんの荷物になったが、ここに捨てていくわけにも行かない。

 背負子に荷物を乗せ、竜の里に向かう準備が終わった頃、田中先輩が、


「昨日、蒼竜とも話したのだがな。

 今日は、まずは咲花村に出て、街道を歩いて湖月村に着いたら一泊しようと考えている。

 異論が有るやつがいたら意見を言ってくれ。」


(みんな)に話しかけた。

 雫様は、


「どうして、竜の里に直接行かんのや?」


と聞いた。すると、田中先輩は、


「部外者が入る時は、『力を示したもののみ里に入ることを許す』とかいう仕来りだか儀式だかがあってな。

 雫の里にもあっただろ?

 俺はもう免除だから良いとしても、山上たちは近くで一泊して体力を回復させておくことになってな。」


と言った。雫様は、


「そう言えば、そんなんあったな。

 そんな(おきて)、忘れとったわ。」


と懐かしそうに笑っていた。私は以前田中先輩から、儀式については蒼竜様に聞くようにと言われていたのを思い出して、


「里に入る前の儀式とは、どのようなものですか?」


と聞いた。すると蒼竜様は、


「田中、話しておらなんだのか?」


と田中先輩に確認した。田中先輩は、


「俺のときは何もしなかっただろ?

 だから、蒼竜から説明してもらえないか?」


と言って理由を話したが、蒼竜様は、


「まぁ、そうか。

 確か、田中は昔、国の使者の荷物持ちとしてだかで入ったと言っておったな。

 それなら、仕方あるまい。」


と少し面倒くさそうに言うと、私達に、


「里に入る前に、地竜という魔獣と戦ってもらう。

 一人につき1頭出て来るが、なに。

 形だけゆえ、軽く対峙するくらいで終わりになるであろう。」


と言って、簡単に説明をした。私は、


「それなら、体力を回復させるというのは不要になりませんか?

 そもそも、前に田中先輩から先に名付けをしてもらわないと死ぬかもしれないと脅されたのですが・・・。」


と確認した。すると蒼竜様は、


「万が一、山上がどの程度使えるか知りたいと言いだした者がいた場合、本当に戦うことになるやもしれぬと田中が言ったゆえな。

 実際、約束もなく来たものにはそうしておる。

 ただ、今回は招待状があるゆえ、問題あるまいよ。」


と言った。私は、


「そういうことでしたか。

 しかし、万が一があった場合は、地竜3頭が相手となるわけですか。

 何か、必勝法とかはありますか?」


と聞いてみた。すると蒼竜様は、


「そのようなものがあるなら、儀式に地竜は使わぬぞ。」


と、考えてみれば当たり前のことが返ってきた。私は、


「そうでうか。

 せめて、地竜の特徴とか、事前に教えていただけると助かるのですが・・・。」


と聞くと、蒼竜様は、


「そうであるな・・・。

 地竜は竜と付くが名ばかりで、トカゲに近いのだ。

 拙者達にとっては大したことはないが、人間からすれば、かなり速く動くように感じるであろうな。

 あと、(つめ)もそうだが(きば)も発達しておるゆえ、噛み付きには気をつけねばなるまい。

 魔法は使えぬが、元々、狂熊よりも体力があり腕力等も強いゆえ、おそらく山上では危険だろうな。」


と話した。私は心配になり、


「そうなのですか・・・。

 それが3頭も相手となれば、私など、イチコロですね。」


と苦笑いしながら言った。3頭というのは、横山さん、更科さん、私の3人分という意味だ。

 しかし蒼竜様は、


「なに。

 さっきも話したが、赤竜帝からの招待状があるゆえ、死ぬまで戦わせたりはせぬであろうよ。」


と楽観的に言った上で、


「それに、3対3ではなく、1対1だぞ?」


と言った。すると、今度は更科さんが震え上がった。横山さんは動じていない。

 私が、


「薫にそんな危険なことはさせたくないのですが・・・。」


と言うと、田中先輩が、


「本当に危なくなったら、飛び入り参加しても怒られないから、山上、行ってこい!」


と、(げき)を飛ばしてきた。私は蒼竜様に、


「最初から助太刀はありですか?」


と確認すると、蒼竜様は、


「ふむ。

 前例がなくもないが、止めたほうが良いぞ?

 昔、呼ばれもせぬのにどこかの貴族の子息が竜の里に訪ねて来たときか。

 最初から護衛が10人入ってな。

 一番強い地竜が放たれて、無残なことになったそうだ」。

 まぁ、様子を見てからが良かろう。」


と答えた。更科さんは、


「それなら、一応一人で向かうけど、」


と言ってから、私の目を見て


「地竜が出てきたら直ぐにお願いね。」


と頼まれた。すると田中先輩が例の少しいい声を作って、


実美佳(みみか)は俺が助太刀するから、一切の心配は不要ですよ。」


と格好をつけながら言った。だが横山さんは、


「一応、私も王立魔法研究所で部屋持ちなのよ?

 地竜なら、一人でも捌けるわよ。」


と、自信ありげだった。私は、横山さんがやらかし体質なだけに、その自信が心配でならなかった。

 すると、更科さんも私と同じように考えて自信の根拠を確認したかったらしく、


「ひょっとして、以前、地竜を討伐したことがあるのですか?」


と聞いた。すると横山さんは、


「ええ。

 研究者になりたての頃、他国の草原地帯に行った時に2〜3頭ほどね。

 あの頃は、大変だったのよ。」


と言った。私は、口には出さなかったが、横山さんが研究者になりたての頃というのなら、地竜と戦ってから既に20年以上経っているのではないかということに思い至った。失礼ではあるが、そこから歳を取って動きが悪くなっているのなら、ちょっと不味いのではないかと思った。

 が、しかし更科さんは私とは別の観点で、


「その時、何人がかりだったのですか?」


と質問した。

 確かに、一人で倒したと言っていないのだ。複数人で協力したのであれば、一対一でかなうとは思えない。

 しかし、そんな心配をよそに、横山さんは、


「盾職2名と、剣士1名を護衛に雇って、仲良し3人で調査しに行ってね。

 実際に戦ったのも、この6名よ。

 あの時は、本当に死ぬかと思ったわ。」


とあっさり説明した。

 当時、6人がかりで地竜を倒したのだとすると、1対1では話にならない気がするのだが、大丈夫なのだろうかと思った。

 すると雫様も同じように思ったようで、


「昔、6人で死にかけたんやろ?

 ほな、今、1人で倒せる理由が分からんやろ。

 なんか、必殺技でも持ったんか?」


と確認した。すると横山さんは、


「倒し方は、聞かれていなかったと思うのだけど・・・。」


と不満そうに言ってから、


「例えるなら、あの当時は駆け出しの冒険者みたいなものよ?

 今なら、いろいろな魔法も使えるし、倒せるに決まってるじゃないの。」


と言った。私は、ふと魔法を準備する時間はあるのだろうかと思い、


「蒼竜様、1対1とのことですが、最初はどのくらい距離が有るのですか?」


と聞いた。すると蒼竜様は、


「ふむ。

 確か、10間(18m)くらいだったはずだ。

 何もしなければ、瞬きする間に噛みつかれるであろうな。」


と言った。横山さんの余裕の表情が変わった。私は、


「そんなに近くですか!

 割り込む時間もないではありませんか!」


と驚いたのだが、蒼竜様は、


「なに。

 普通は、対面しても様子をうかがうものだ。

 その間に割り込めばよかろう。」


と言った。しかし、これには田中先輩が違和感を感じたらしく、


「昔は、その倍までは行かないにしても、それなりに距離があったと聞いたことがあるぞ。

 ひょっとして、儀式が厳しくなったのか?」


と確認した。蒼竜様は、


「いや、昔からそのくらいのはずだ。

 田中、別の里と勘違いしておらぬか?」


と言って、間違いないことを告げた。私は少し(あせ)って、


「それでは、薫が危険なのですが、もう少し距離は取れないものなのですか?」


と聞いた。すると蒼竜様は、


「お主らは赤竜帝の招待状を持っておるゆえ、殺すわけにはゆかぬ(はず)だ。

 ならば、そのようなことは起こさせぬので、心配もいるまいよ。」


と言って苦笑いした。そして、


「それよりも、そろそろここを出発せぬか?

 このような話なら、湖月に着いてからでもよかろう。

 特に、奥方の足は予想以上に遅いゆえ、早く出立しようぞ。」


と言って、また、苦笑いした。

 こうして、私達は竜の里に出発した。

 途中、咲花村に寄ったのだが、そこでお弁当を買いに走らされた。

 更科さんはお肉が好きなので、肉っぽいものが入っているお弁当はないか探したのだが、残念ながらそういう弁当は見つからなかった。でも、玉子焼きの入ったお弁当をみつけることは出来た。

 ちょっと彩りのあるおかずが入っただけで、お弁当も華やかに感じられる。

 他の人には何を買ったかは内緒にしたので、お昼、どんな反応をするのか楽しみに思えたのだった。


田中先輩:実美佳(みみか)は俺が助太刀するから、一切の心配は不要ですよ。

山上くん:(流石、先輩はかっこいいこと言うな。)

更科さん:(和人も見習ってほしいわ。)

横山さん:一応、私も王立魔法研究所で部屋持ちなのよ?地竜なら、一人でも捌けるわよ。

山上くん:(やらかし体質なのに、大丈夫かなぁ・・・。)

更科さん:(凄い!やっぱり、研究所で教えている人は違うわね。やっぱり、前に倒した事があるのかな?)

田中先輩:(折角、かっこよく決めたのに・・・。)


※更科さんはやらかし体質を心配して討伐したことがあるのか聞いたわけではありません。


〜〜〜王都 王立魔法研究所の渡り廊下にて

──廊下を歩きながら


ニコラさん:昨日は遅くまで有意義だった。

      今日も頼むぞ。

韮崎さん :はい。

      ただ、後少しと言いつつ、日が昇るまでというのは勘弁して下さい。

レモンさん:しかし、二人共toughnessだな。

韮崎さん :タフネスというのは?

レモンさん:あぁ。

      夜に強いということだ。

      俺なんか、子の刻(0時)には寝てたぞ。

韮崎さん :レモンさんは聞いているだけで、暇でしょうからね。

レモンさん:暇とは失礼な!

      ニコラ様の護衛をしているぞ!

韮崎さん :それが先に寝てては、意味をなしませんよね。

ニコラさん:まぁ、まぁ。

韮崎さん :しかし、そんなに無詠唱魔法は珍しいですか?

ニコラさん:そりゃ、詠唱魔法文化圏出身の俺からすれば、無詠唱魔法は極一部の才ある者しか使えぬからな。

韮崎さん :でも、ニコラ様も使えますよね?

ニコラさん:もちろん、俺も使えるが、process・・・工程が違うのだ。


※韮崎さんは、ニコラさんに一晩中研究(質疑応答)されていたようです。


〜〜〜王都 王立魔法研究所の所長室にて

所長   :そう言えば、ニコラ一行はどうしておじゃる?

秘書   :昨日は韮崎を朝方まで試していたようです。

所長   :あぁ、あのレモンとか()うておじゃったか?

秘書   :いえ、レモン殿は子の刻には寝ていたそうです。

所長   :ということは、あの翁が朝方までということでおじゃるか。

      なかなかに、業の深いことでおじゃるなぁ。


※所長には間違って伝わってしまったようです。



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