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窪みが出来たのは

* 2020/01/29

 後書きに改行を入れて微修正しました。

 私は、山頂に着いて蒼竜様を見かけるとすぐ、


「すみません、蒼竜様。

 一体何があったのですか?」


とあちこちに出来ていた窪みを(ゆび)さしながら質問をした。

 蒼竜様は、


「いや、なに。

 ちょっと痴話喧嘩(ちわげんか)をな。」


と答えた。雫様が目をそらした。

 私はさすがは竜人、痴話喧嘩の規模も違うと思いながら、


「痴話喧嘩なら仕方ないですね。」


と返したのだが、大杉町からずっと少しいい声の田中先輩がその声を崩して、


「いや、いくら竜人の力が強いからと言っても、普通は痴話喧嘩でこのようにはならないぞ。」


とつっこんだ。蒼竜様は、


「いや、ちょっとな。」


と、苦笑いした。雫様が、


「久しぶりやな、田中。

 15年ぶりか。」


と田中先輩に声をかけた。田中先輩は、


赤石(あかし)か。

 なんだ。

 蒼竜と()りを戻したのか。」


と返した。すると雫様は、


「まぁ、どついたったけどな。」


と照れ隠しの一言だ。田中先輩は、


「お前ら、本当に手荒いな。

 前に付き合ってた時も、あっちこっちで地形を変えてたよな。」


と苦笑いした。すると蒼竜様が、


「そんなことはあらぬ。

 人聞きの悪いことを言うでない。」


と文句を言った。しかし田中先輩は、


「そうか?

 昔、ここみたいな(くぼ)みをあちこちで見かけたぞ?」


とからかうように言った。

 蒼竜様は旗色が悪いとばかりに、


「ところで、そちらの女性は?」


と話を変えた。すると田中先輩は少しいい声に変えて、


「彼女は、王立魔法研究所の横山 実美佳(みみか)だ。

 竜の里に滞在する間は、俺の伴侶という事にするから、覚えておいてくれ。」


と紹介した。蒼竜様は、里への案内状の話は初耳だったようで、


「竜の里に行くのか?」


と聞いてきた。田中先輩は、


「俺と山上宛に手紙が届いてな。」


と返した。蒼竜様は手紙を受け取り、中を確認すると、


「そういうことか。」


と納得した後、


「ところで、お前な。

 そういう女が趣味なのは知っているが、その女にそそのかされたにせよ、よりによって赤竜帝を(だま)すような真似をするのは駄目だろう。」


(あき)れながら話した。雫様も私も頷いたが、横山さんはそんな事はどうでも良いとばかりに、


「はじめまして、蒼竜様、雫様。

 先日は弟子の安塚がお世話になったそうで、ありがとうございました。

 この度は、私の我儘(わがまま)でついていくことになり、申し訳ありません。

 蒼竜様にも、雫様にもご迷惑を掛けるとは思いますが、今後共、宜しくお願いします。」


と自己紹介した。雫様が、


「基本的には、田中は、あんまり我儘は言わん方やからな。

 まぁ、面白(おもろ)いことになりそうやし、うちはかまんで。」


とにこやかに言った。すると蒼竜様も、


「まぁ、田中だからな。

 ばれる前に、こっそりとでも良いから、赤竜帝には話をしておけよ?」


と言った。この話から察するに、田中先輩は赤竜帝とも話が出来る間柄らしい。田中先輩の人脈、いったいどこまで広いのだろうか。

 田中先輩は、


「あぁ。

 まぁ、そうしておくか。」


と返した。そして何か思いついたようで、田中先輩は、


「蒼竜も一緒に里帰りしてみてはどうだ。

 どうせ、復縁したことも家族に連絡してないんだろ?」


と言った。すると蒼竜様は、


「まぁ、そうだが・・・、」


と言いかけた時、雫様が、


「竜人には親に紹介する習慣はあれせんけど、雅弘(まさひろ)の兄弟とかに会えるんやったら、行ってみたいわ。」


とかぶせ気味に話した。蒼竜様を困らせて楽しもうとしているのかもしれない。蒼竜様は、


「いや、それはちょっと・・・。」


と言葉を濁したが、雫様は、


「あかんの?」


と聞いた。蒼竜様は、


「その・・・、恥ずかしいゆえ・・・。」


と目をそらした。田中先輩が、


「蒼竜。

 人に会わせると恥ずかしい兄弟なのか?」


(あお)る。雫様も、


「そや、そや。

 会わせられへんような兄弟なんか?」


と畳み込んだ。蒼竜様は、


「今は時期が悪いゆえ・・・。」


と言ったのだが、横山さんが、


「都合の悪い時期なのですか?」


と聞き返した。蒼竜様は、


「いや、その・・・。

 雫が噂のある里出身ゆえ、今はいらぬ波風を立てたくないゆえな。

 もう少し、この件が収まるまで、(おおやけ)にはしたくないのだ。」


と説明した。雫様は、


「そのくらい、男やったらなんとかして、ちゃんと紹介したらええやろ。

 滞在中に戦争になったら、ちゃんと捕虜になったるで。」


と呆れるように言ったのだが、蒼竜様は慌てて、


「雫を捕虜になどさせはせぬ。

 その時は出奔(しゅっぽん)するゆえ、二人で逃げようぞ。」


と言った。更科さんが、


「それ、素敵ね!

 和人、私もそうなったら連れて逃げてくれる?」


とキラキラした目で言ったので、


「薫に落ち度がなければ、隣の国どころか、海の向こうにだって連れて逃げて見せますよ。」


と、後半は次兄(つぎにい)に聞いた悲恋の話を思い出して格好をつけてみた。しかし更科さんは眉間に(しわ)を寄せ、


「条件付きなんだ。

 和人、いつも肝心な時に防波堤作るわよね。」


と残念そうに言った。私は(あせ)って、


「防波堤だなんて、そんなつもりでは・・・。

 ほら、常識の範疇(はんちゅう)って、有るじゃないですか。」


と言ったのだが、また一言余計だったようで、更科さんは、


「それだと、私が常識はずれのことしちゃう、残念な()みたいじゃないのよ。」


とご立腹だ。私は、


「おっしゃるとおりです。

 ごめんなさい。」


と、しっかり頭を下げて許してもらった。

 田中先輩は、


「まぁ、こういう時、『余程のことがない限り』とか、禁句だな。」


と言うと、蒼竜様も以前、誰かに言ってしまったのか、頷いて同意していた。雫様と横山さんの目が冷たい。どうやら、誰でも通る道のようだ。

 私は、


「話が()れてしまいましたが、結局蒼竜様は竜の里まで来るのですか?」


と聞いた。すると蒼竜様は、


「ここまで言ったのだ。

 二言(にごん)はない。

 雫と一緒に里帰りしようではないか。」


と言った。雫様は、


「なんや、言い回しが気になるが、いざって時は、しっかり守ってな。

 雅弘(まさひろ)、頼りにしてるでぇ。」


と蒼竜様にしなだれかかっていた。田中先輩は、


「あっちもこっちも、ベタベタと。

 まぁ、(みんな)行くということだな。

 ひとまず天幕(テント)を張ったら飯にするか。」


と言った。蒼竜様は、


「ふむ。

 一同、今日は概ね拙者が・・・、と雫の二人で作ったゆえ、安心して食べるが良いぞ。」


と、やや危ない発言をし雫様の目がギロッとしたが、言い直してなんとか雫様の機嫌を損ねずに済んだようだった。

 その後は何事もなく、食事を終え、就寝した。

 夜、見張りの時に田中先輩がこっそりと白髪染めをしているのを目撃してしまったのは、(気配でバレていたかもしれないが)秘密である。


〜〜〜王都 王立魔法研究所にて

──丗三(さんじゅうさん)号室にて


ニコラさん:つまり、この国の魔法は竜人が分類し、体系化したということか。

韮崎さん :はい。

      竜人には魔法を視覚的に見る能力があるそうです。

      例えばこのように光を出したとすると、金色に見えるのだそうですよ。

レモンさん:いや、我々にも光っておるのだから、金色に見えるが。

韮崎さん :(例が悪かったわね。でも、ここで使える魔法は・・・、後は水かなぁ。茶碗は・・・、どうせすぐ消えるし良いわよね。)

     では、このように水を出すと、・・・

レモンさん:やっ、馬鹿か!

      床が濡れるだろうが!

      拭くものはどこだ!

韮崎さん :?

      あぁ、大丈夫ですよ。

      あまり魔力は込めていませんから。


──濡れたはずの木張りの床がスーッっと乾いていく


ニコラさん:・・・?

      ぉお?!

      水が消えたのか!

      何か、別の魔法でも使ったのか?

韮崎さん :・・・?

      いえ。

      普通、魔力を込めなければこうなると思うのですが・・・。

ニコラさん:あぁ、攻撃系の魔法ということか。

      が、しかし、このようにゆっくりと出せるものなのか?

      ・・・いや、しかし・・・。

韮崎さん :えっと、ニコラ様はどうやって水を出すのですか?

      あ、ちょっと待って下さい。

      茶碗を取ってまいりますので。


──韮崎さんが隣の部屋に行って小さめの(かめ)を持ってくる


韮崎さん :丁度いいのが見つかりました。

      この瓶にお願いします。

ニコラさん:ああ。

      では行くぞ。

      【Create Water!】


──瓶に水が満たされていく。


韮崎さん :(これが詠唱魔法か。)

      えっと、ありがとうございます。

      これは、飲める水ですか?

レモンさん:水なら飲めるのは当たり前だろうが。

韮崎さん :?

      (なんかまだ噛み合っていないけど・・・。そう言えばさっきニコラさんが。)

      では、攻撃魔法の水は飲めますか?

レモンさん:・・・!

      なるほど、我々も飲めない水を出していたな!

ニコラさん:そういうことだな。

      ・・・よし。

      では、続けろ。

韮崎さん :(やっと納得してくれた。)

      えっと、脱線しましたが改めまして、このように水を出す時は、竜人には水色に見えるそうなのですよ。

レモンさん:水が水色なのは・・・

ニコラさん:レモン、少し黙っていてくれ。

      水色というのは、青を薄くしたあの水色ということか?

韮崎さん :はい。

      そのように聞いております。

ニコラさん:それは、竜人にしか見えないものなのか?

韮崎さん :(言ったら行こうと言われそうだから、あんまり気乗りしないけど・・・)

      つい先週、本当に偶然なのですが、ここから離れた大杉という町で魔法の色を見ることができる少年がいると聞きました。

ニコラさん:なぬっ!

      それは是非とも会わねばなるまい!

韮崎さん :(あぁ、やっぱり・・・。)

      では、私は大杉に行けるよう、手続きをしてまいりますので、今日はこのくらいでお開きで良いでしょうか。

      (そして、今日は逃げるのよ。)

ニコラさん:?

      何を言ってるんだ?

      韮崎が戻ってきたら晩飯でも食って、後は夜の部だ。

韮崎さん :(逃してくれないんだ・・・。)

      ・・・分かりました。

      では、後ほど。


〜〜〜

前回、今回と後書きが後書きでなくなっていますが・・・、一応、第六章へのプロローグとなっています。

もう一話、後書きに投稿予定です。



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