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話し合い

今週もブックマークしてくださった方がいらっしゃったようです。

この場を借りて、お礼申し上げます。

(勇者召喚された〜の短編の方がブックマーク数が多かっただけに・・・(--;))

 田中先輩と私は、葛町の集荷場を出発して、大杉町に着いた。

 更科屋の裏口に回り、飛び石を渡って沓脱(くつぬ)ぎ石のところに着くと、足袋(たび)が2足並んでいた。私は、


「ごめんください。

 薫はいますか?」


と少し大きめの声で呼びかけた。

 すると、今日はいつもとは違うふすまが開いて、中から弟君が出てきた。


「和人さん、こんにちは。

 薫なら、今お客様が来ていて接客中ですよ。

 なんでも、王立魔法研究所の先生で横山さんと安塚さんというそうです。」


と話した。私は、


「あぁ、横山さん達とは知り合いですので、大丈夫だと思いますよ。」


と返した。すると、いつものふすまが開いて、更科さんが顔を出した。


「和人・・・、と田中先輩、おはようございます。

 今、中で横山さんと安塚さんが来ているから上がって下さい。」


と更科さんが私たちを部屋に呼ぶと、


(おさむ)、悪いけど、桶に水を()んできて。」


と言って、弟君に用事を頼んだ。私は、


「分かりました。

 修、宜しくおねがいします。」


と言うと、弟君は、


「はい。

 和人さん。

 すぐに持ってきますね。」


と言って、沓脱ぎ石の所に置いてあった桶の水を取替えに行った。

 私は、


「何を話していたのですか?」


と聞くと、更科さんは、


「えっと、昨日もやってた、どうやったら竜の里に入れるかという話よ。」


と答えた。私は、


「田中先輩はどう思いますか?」


と聞いたのだが、田中先輩は、


「更科は着いてくれば入れるぞ。

 なんで、そんな話をしている?」


と質問で返されてしまった。私は、


「言葉足らずですみません。

 昨日、安塚さんがどうやったら入れるか思案していまして。

 おそらく、その話だと思います。」


と答えた。田中先輩は少し考えて、


「あぁ、安塚か。

 竜の里は、気安く入っていい場所ではないぞ?

 着いてくるなんて、もっての外だと思うが・・・。」


と言った。

 ここで弟君が戻ってきて、沓脱ぎ石に桶を置き、


「おまたせしました。

 こちらの手ぬぐいをお使い下さい。」


と言って、田中先輩と私に真新しい手ぬぐいを渡してきた。田中先輩は、


「うむ。」


と返事し、私は、


「ありがとうございます。」


とお礼を言った。すると女中さんが一人桶を持って出てきて、


「すみません。

 お二人でしたので、もう一つ持ってまいりました。

 こちらもお使い下さい。」


と言って沓脱ぎ石に置いた。私は、


「お気遣いありがとうございます。」


とお礼を言った。弟君も、


杉元(すぎもと)、助かる。」


と声をかけた。すると女中さんは、


「いえいえ。

 薫お嬢様の旦那様ですし。」


と言った。なんとなく、鼻がむず(がゆ)い。田中先輩は、


「山上、おまえ照れてるな?」


と指摘された。私も自分で照れているのは分かったので、


「それは、まぁ、旦那様という響きが私と不相応なのでなんとなくくすぐったいと言いますか・・・。」


と返しながら、靴を脱いで田中先輩とは別の桶ですすぎをした。田中先輩は、


「そっちか。

 ・・・まぁ、そうか。」


とつまらなさそうだったが、更科さんは、


「そっか。」


と少し嬉しそうだった。ここで私は、女中さんに照れたのではないかと疑われたことに気がついた。

 なので私は、


「そんなに信用ないですか?」


と聞いた所、更科さんは、


「それは、だって、杉元さん、綺麗な年上のお姉さんだもの。

 ちょっとくらい、心配になるわよ。

 それに、前にこそこそ何か、話していたじゃない?」


と、しっかり根に持たれていたようだった。私は、


「そんな、こそこそだなんてしていませんよ。

 あれは、重箱も風呂敷もあまりに立派だったので、驚いただけです。

 私には、薫が一番ですよ。」


と言っておいた。すると更科さんは、


「ふーん、やっぱり何を話したかだとかちゃんと覚えてるんだ。

 まぁ、いいわ。

 すすぎが終わったら、はやくこっちの部屋に入ってきてね。」


と嫌味の一歩手前のようなことを言った後、


「田中先輩も、すすぎが終わりましたら、こちらの部屋にお入り下さい。」


(うなが)した。

 田中先輩と私がすすぎを終えて部屋に入ると、横山さんと安塚さんが座って待っていた。

 私は、


「お待たせしてすみません。」


と謝ると、横山さんは、


「別にいいわよ。

 それより、竜の里に行くそうじゃない。」


と、早速本題に入ろうとした。しかし田中先輩は少しいい声を作りつつも真面目な顔で、


「そのことなんだがな。

 ひょっとすると、人質にされる可能性がある。

 今回は見送って、俺と山上、あと更科だけで行こうと思う。」


と先に釘を差した。横山さんは、


「人質ってどういう事?」


と、(いぶか)しげに田中先輩を見て言った。

 田中先輩は、


「あぁ。

 場合によってはだがな。」


と言ってから全員の顔を確認し、


「隣の赤竜帝とのいざこざが本格化した時、俺達を働かせるために保険を掛けるかもしれないという話だ。

 今の赤竜帝はそんな事をする奴じゃないが、側近がどうかは分からん。

 警戒するに越したことはないだろう。」


と説明した。すると更科さんが、


「では、私は着いていかないほうが宜しいですね。」


と言った。私は、あれっと思ったが、田中先輩は、


「更科の事は赤竜帝に伝わっているから、『伴侶がいるなら、連れてきても構わない』と書かれていたのだろう?

 こういう時、『構わない』というのは命令だからな。

 連れて行かない、という選択肢は無いぞ。」


と更科さんが一緒に行くのは確定事項だということを告げた。安塚さんは、


「私も着いていきたいのですが。

 恐らく、人質にされたとしても、『里から出てはいけない』とかそういう緩いものでしょうから、中の里を見て回って見聞を広める事はできそうですし。」


と言った。すると田中先輩は、


「そうか?

 赤竜帝の知らぬことなら、監禁するかもしれないぞ?」


と言った。すると安塚さんは、


「知らぬこと?

 ・・・あぁ、指示は別人ということね。

 その場合でも、脅すためには田中さんの耳に入りますよね。

 そうすれば、昔のよしみで赤竜帝と会って一件落着ではないかしら。

 向こうは伝わったらお(しま)いですし。

 そのような強硬手段は、取れないと思いますよ。

 そもそも、薫ちゃんの位置がだいたい分かる魔道具を借りていけば、概ね監禁場所も分かりますし。」


と言った。更科さんが、


「私の位置がわかる魔道具?」


と聞くと、安塚さんは、


「ほら。

 お兄様が持っているやつですよ。

 先日の事件で役に立ったと聞きましたよ?」


と言った。更科さんは何の事を言っているか分からないようだったので、


「お兄様が?」


と確認した。安塚さんは、


「ほら。

 袖に仕込んであるやつですよ。

 ・・・って、あれ?

 ひょっとして、秘密でした?」


と私に聞いてきた。私は、そもそもなんで安塚さんが知っているのだろうかと思っていたので、


「そういえば、そんな話がありましたね。

 ところで、安塚さんは誰から聞いたのですか?」


と確認した。すると安塚さんは、


「私は、横山教授から聞きましたよ?

 田中さんと一緒に飲んだ時に教えてもらったと聞きましたが。」


と話した。私が田中先輩を見ると、


「珍しい魔道具だから、知っているかと思ってな。」


とさらっと言った。更科さんは、


「この様子だと、私以外、ここにいる(みんな)、知っていたってことよね。

 どういう事?

 和人。」


と、私を名指で確認してきた。私は、


「あれ?

 薫、あの後、当然お義兄様から聞いていると思っていたのですが、聞いていませんか?」


(とぼ)けることにした。すると、更科さんは、


「多分、聞いていないけど・・・。」


と言ったかと思うと、


「お兄様?

 お兄様?」


と店の方まで確認しに行った。安塚さんが、


「話は()れましたが、いかがでしょうか。」


と、田中先輩に改めて確認をした。田中先輩は、


「どちらにしても、招待されていないので難しいと思うぞ。」


と返したのだが、安塚さんは、


「ポーターとかで入れませんか?」


と確認した。すると田中先輩は、


「職業がポーターならいざ知らず、研究職だったらすぐにバレると思うぞ。」


と返した。安塚さんが、


「山上くんが二人目を貰った、ということでも良いのですが。」


と話すと、田中先輩は、


「そもそも一般人は二人も結婚できないだろ。」


と言った。しかし、安塚さんは、


「でも、王様と同じ扱いがどうのとか言っていたと聞きましたが。」


と指摘した。しかし田中先輩は冷静で、


「まだ、その資格も得ないうちから駄目だろう。」


と反論した。そこで、安塚さんは、


「なら、奥の手で田中先輩とでも良いですよ。」


と言った。すると田中先輩は安塚さんを見て、


「いや、無いな。」


と眉をひそめながら回答した。私は以前、田中先輩は少しふくよかな女性の方が良いと聞いていたので、胸は大きいが、お腹がへっこんでいる安塚さんでは魅力的に見えないのだろうなと思った。安塚さんは、


「駄目ですか・・・。

 では、蒼竜様に聞いてみます。」


と言った。田中先輩は、


「駄目だと言うとは思うが、まぁ、頑張ってくれ。」


と言った。

 ここで更科さんが部屋に戻ってきた。そして、


「和人、お兄様から借りてきたから、これ、持ってて。」


と言って例の魔道具を私に渡そうとした。私は、


「これは、田中先輩に渡したほうが良いかもしれませんよ?

 竜同士の戦いでは、私では戦力にならないでしょうから、仮に薫が捕まったとするなら、私も一緒だと思いますし。」


と一旦断った。しかし更科さんは、


「別に良いのよ。

 気持ちの問題だから。」


と言ってにっこりした。始め、私は更科さんの意図を計りかねたのだが、考えてみれば田中先輩とは言え、薫のいる場所が概ね把握できるというのも気持ち悪いかと思い直して受け取ることにした。

 私は横山さんも足袋で来ているので、着いてくるつもりだろうと思っていたので話題に上がらないのは不自然だなと思っていたのだが、横山さんが、


「それじゃぁ、そろそろ春高山に出かけますか。

 安塚は留守番、お願いね。」


と言った。私は、


「横山さんも一緒に行くのですか?」


と聞くと、横山さんが田中先輩に向かって、


「以前、機会があれば竜の里まで連れて行ってくれると約束したわよね?」


とにっこりしながら言った。田中先輩はしまったという顔をして、


「今回は、やめた方が俺としても嬉しいのだが・・・。」


と言ったのだが、横山さんは、


「他の機会なんて、そうそう来ないわよね?」


と確認した。田中先輩は、渋々という感じで、


「時期が時期だけにお勧めはできんが・・・。

 ・・・よし。

 まだ付き合っている仲だがとか言って誤魔化すとするか。」


と言った後、


「苗字で呼び合うのも変だな。

 ひとまず、里では名前で呼ぶということで頼む。

 いいか?

 実美佳(みみか)。」


とやや嬉しそうな、複雑な顔をしながらも、早速名前で呼んでいた。すると横山さんは、


「良いわよ。

 で、私は・・・そうね。

 ゴンちゃんって呼んだので良いわね?」


と確認した。しかし田中先輩は、


「それはちょっと・・・。

 厳吉(ごんきち)か、主人で頼む。」


と断ったが、横山さんは、


「付き合いたてなら、甘甘でしょう

 良いじゃない、ゴンちゃんで。

 そっちのほうが、呼びやすいし。」


と、田中先輩を捕まえて、『ゴンちゃん』呼ばわりすることになったようだ。

 更科さんが、


「そういえば伴侶といば結婚だと思うのですが、結婚している設定でなくても大丈夫なのですか?」


と確認した。すると田中先輩は、


「どうせ、山上と更科も神社に行っていないんだろ?

 それと一緒だ。」


と言った。私は、


「神社に行かないといけないのですか?」


と聞くと、田中先輩は、


「やっぱりか。

 職業と同じだぞ?

 お前等、もう少し一般的な仕来(しきた)りとか、勉強しろよ?」


と怒られてしまった。私は、


「すみません。

 今度、まとめて神社に行きます。」


と答えた。すると横山さんが、


「そういうのは、まとめてやるものじゃないのよ。

 まぁ、最近はそういうのを軽視していて、正式な手続きを踏まない人は増えているそうだけどね。」


とため息を付いた。私は恥ずかしくなって、


「世間知らずですみません。

 そういうのも、そのうちご教授いただけると助かります。」


と返事をした。


 その後、更科家の皆さんに挨拶をし、背負子に荷物を積みなおしてから出発した。

 今回、ムーちゃんはお留守番である。世話は女中の杉本さんがやってくれるそうだが、今までも更科さんが家でごろごろしているときは面倒を見ていたそうなので安心である。

 それからは特に寄り道することもなく、春高山まで登った。

 山頂に着くと、蒼竜様と雫様が戦ったのか、地面のあちこちが(くぼ)んでいたが、既に終わったようで二人で仲良く夕食の準備をしていた。

 私は、何があったのだろうかと気になったのだった。


〜〜〜王都 王立魔法研究所にて

──所長室をノックして

韮崎さん :ニコラ様をお連れしました。

所長   :入りなさい。

ニコラさん:失礼する。

所長   :遠くからご苦労。

      麿(まろ)は、ここで所長をしておる濱滝(はまたき) 源次(げんじ)でおじゃる。

ニコラさん:いや、なに。

      物の(ついで)というやつよ。

所長   :(ほう、なかなか手強そうでおじゃるな)

      こちらでは、韮崎をつけるゆえ、好きに使うがよいでおじゃる。

韮崎さん :(好きにって・・・、桜咲みたいな扱いはしないでほしいな・・・。)

ニコラさん:それはありがたい。

      こっちには、無詠唱文化の視察も兼ねて来ている。

      適当に使わせてもらうぞ。

韮崎さん :(適当に使うって、あれのことよね・・・。言葉もがさつなら、やることもスケベ(ジジイ)ってことか。勘弁してほしいのだけど・・・。)

所長   :(使う・・・?好き者というこでおじゃるか。なら。)

      韮崎、そちに丗三(さんじゅうさん)号室の鍵をあずけてしんぜよう。

      仮眠室も付いておるゆえ、韮崎を調べるにもよいでおじゃろう。

韮崎さん :(これで、桜咲みたいな事をされるの、確定みたいね・・・。まぁ、もういいや。)

ニコラさん:(・・・?あぁ、韮崎さんを検体に泊まりで討論しても良いということか。)

      配慮、痛み入る。



〜〜〜

そういえば、このお話で山上くんの足元は、

 普段:草鞋(わらじ)+素足

 歩荷:足袋

 修行:靴+素足(靴下は履いていない)

 今回:靴+素足(靴下は履いていない)

となっています。

今の人から見れば、靴を脱いですすぎをするのは滑稽な様子に見えるかもしれませんが、このお話において靴はまだ冒険者にしか普及していない履物という設定なので、山上くんは草鞋(わらじ)を脱いで家に上がる時と同じくすすぎをするという描写にしました。

ちなみに、江戸時代において5月ころなら農民どころか武士も裸足だったという話もあり、普段、山上くんが草鞋を履いている設定も時代考証すればダウトと考えられますが、そういう世界ということで見逃してもらえればと思います。(^^;)


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