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出発の朝

 朝、目が覚めて下に降りると、御飯が炊ける良い匂いがした。

 今朝も、千代ばあさんが飯を炊いているのだろう。

 私は、


「おはようございます。」


と声をかけた。すると、千代ばあさんは、


「おはようさん。

 昨日、早速帰ってきていたんだって?」


と、もう昨日の情報を知っていたようだ。私は、


「はい。

 狂熊王と雷熊の皮を売りに、一旦、冒険者組合まで戻ってきました。

 また、今日から春高山とかに行ってきます。」


と、竜の里に行くのは伏せて説明した。すると千代ばあさんは、


「狂熊王とか雷熊とか、ここいらじゃ聞かないが、そいつは強いのかい?」


と確認してきたので、私は、


「強いなんてものではありませんでしたよ。

 まともに戦っていたら、絶対に死んでいましたよ。

 今、ここにいるのは、本当に運が良かっただけです。」


と肩を(すぼ)める仕草をしながら説明した。すると千代ばあさんは、


「そりゃ、狂熊だっておっかねぇのに、それ以上ってことかい!

 よく生きていたねぇ。

 歩荷だけやってりゃ、危険もないんだろ。

 冒険者の真似事なんて、もう止めたほうが良くないかい?」


と、心配してくれた。だが、私は、


「確かにその通りなのですが、どうも、そういう訳にも行かないようでして。」


と言った。千代ばあさんが、


「そりゃ、どうしてだい?」


と理由を聞いた。私は、


「私も、人に言われてなるほどと思ったのですが、私は、隣町の更科屋の娘さんを貰ったじゃないですか。

 それで、少なくとも高級冒険者にはなっておかないと、後で矢の催促(さいそく)をされると言われまして。」


と理由を言った。すると千代ばあさんは、


「あぁ、釣り合いの問題か。

 そりゃ、世間一般的にはそうだろうがね、長生きするほうが勝ちという考えもあるだろうよ。

 堅実に生きるんが、一番じゃね。」


と私を(さと)した。私は、


「私も、危険なのは御免(ごめん)なので、初級冒険者で十分と思っていますよ。

 でも、どうも世の中はまかりならないようなのです。」


とため息を付いた。すると、千代ばあさんは、


「大げさだねぇ。

 まかりならないってのは、にっちもさっちもいかなくなる時に使うもんだよ。

 他にも、やりようはあるだろうに。」


と、少し呆れた物言いだった。私は、


「確かにそうかもしれませんが、今の私では、どうすればいいか思いつきません。」


と言って苦笑いした。

 千代ばあさんは少し笑って、


「まぁ、誰でもそんな風に思うことはあるもんさね。」


と笑った後、


「それはそうと、これからもちょくちょく戻ってくるのかい?」


と確認してきた。私は、


「そんなにしょっちゅうにはならない予定ですが、期間が1ヶ月から変わることはあるかもしれません。

 ただ、今回はたまたまです。」


と返した。すると千代ばあさんは、


「なんだい。

 たまに話するのが楽しみだってのに、残念だねぇ。」


とやや残念そうだった。本当に楽しみだったようだ。私は、


「えっと、早かれ遅かれ戻ってきますので、楽しみはその時まで取っておいて下さい。

 どうせ、1ヶ月そこそこの筈ですし。」


と言って、頭を掻いた。千代ばあさんは、


「そうだと良いがねぇ。」


と言って、少し味噌汁をかき混ぜ、


「なぁ。

 言っても、命有ってのものだねだからね。

 無茶な修行なら逃げ出すなりして、ちゃんと帰っておいでよ?」


とまた心配された。私も、


「そうします。

 千代ばあさんも、達者でいて下さいね。」


と挨拶をして、集荷場で掃除を始めた。


 しばらくすると、後藤先輩がやってきた。

 私は、


「おはようございます。」


と挨拶をすると、後藤先輩は、


「おう、おはよう。

 山上、やってくれるのは助かるが、休職中だから掃除はいいぞ?」


と指摘した。私は、


「いえ、折角ですし、隅の方に(ほこり)も溜まってきていましたので。」


と説明すると、


「少しくらいはいいんだよ。

 山上はいれば掃除をやってくれていたが、本来は週一(しゅういち)だからな。」


と話した。私は週一なんて初めて聞いたので、


「後藤先輩、それ初耳なのですが、どういうことですか?」


と聞いた。すると後藤先輩は、


「そうだったか?

 一応、あそこにも張り紙があるぞ?」


と言ってきた。私は、


「すみませんが、私は漢字は駄目ですので知りませんでした。

 教えてくれても、良かったのではないですか?」


と苦情を言った。すると後藤先輩は、


「いや、担当は田中さんだから、苦情はそっちに言ってくれ。」


と、目を(そら)しながら言った。私は、


「そうします。」


と言ったのだが、目の前で掃除しているのだから教えてくれればいいのにと思った。

 田中先輩が来たので、


「おはようございます。

 すみませんが・・・、」


と文句を言おうとしたところ、田中先輩は面倒臭そうに、


「あぁ。

 すまんが、例の手紙を持ってきてくれないか?」


と、話を途中で遮った。私は文句を言いたいところだったが、赤竜帝に呼ばれた件は優先順が違うので、仕方なく集荷場に置いていた今日持っていく荷物の中から、手紙を取り出して田中先輩に手渡した。


 田中先輩が、手紙を読み始める。

 暫く沈黙(ちんもく)が続く。

 途中、何度か田中先輩の表情が悪くなっていたので、状況は(かんば)しくないのかもしれない。

 田中先輩は一度頷いた後で、


「山上。

 今日、蒼竜と話をしたら、明日、早速里に出かけるぞ。

 あと、お前、名付けを先にやってもらえ。

 今のままだと、おそらく里に入る前の儀式で死ぬかもしれん。」


と言った。私は掃除の話しどころではない雰囲気になったので、文句を言うのは諦めて、


「分かりました。

 ところで、儀式とはどんな事をするのでしょうか。」


と質問をした。すると田中先輩は、


「ここではあれだからな。

 蒼竜に話してもらえ。

 まぁ、簡単に言うと試練を超えたもののみが里に入れるということだ。」


と答えた。私は、


「薫も受けることになるのでしょうか。」


と聞いた所、田中先輩は、


「赤竜帝からの招待状だぞ?

 おそらく、問題ないはずだ。」


と答えた。私が、


「それは良かったです。

 でも、それならどうして、私に試練があるのですか?」


と聞いたのだが、田中先輩は、


「では、すぐに出発するぞ。」


とはぐらかして出発を促した。田中先輩は、どういう理由(わけ)なのか教えてくれなさそうだったので、不服ではあったが山頂で蒼竜様に聞くことにし、さっき解いた荷物を背負子(しょいこ)に乗せ直しながら、


「分かりました。」


と言って、あまり気乗りはしなかったが、竜の里に出かける準備を急いだのだった。


山上くん:ところで、儀式とはどんな事をするのでしょうか。

田中先輩:ここではあれだからな。(後藤がいるし面倒だから)蒼竜に話してもらえ。まぁ、簡単に言うと試練を超えたもののみが里に入れるということだ。

後藤先輩:(試練って、どんなところに行くんだ?)



〜〜〜所変わって王都にて

ニコラさん:ここが王立魔法研究所か。

久堅さん:ああ。

レモンさん:待ち合わせはこの辺りで良いのか?

久堅さん:そのはずだ。案内の若い女が来るそうだぞ。

レモンさん:それは楽しみだ。

韮崎(にらざき)さん:(見慣れない風体だし、合ってるわよね・・・。)あのぅ、すみません。

久堅さん:なにか用か?

レモンさん:えっと、久堅がすまん。

韮崎(にらざき)さん:ええっと、ニコラ様ご一行でいらっしゃいますか?

久堅さん:ああそうだ。案内の女か?

韮崎(にらざき)さん:はい。(なんか、柄悪くて怖いのだけど大丈夫かなぁ)その・・・、本日の館内の案内は、私がいたします。質問がありましたら、適任と思われる人を探しますので、お申し付け下さい。

ニコラさん:ああ、分かった。頼むぞ、韮崎。

韮崎(にらざき)さん:(品の良い感じのおじいさんなのに、なんだか言葉使いががさつね。)まずは、所長の部屋に案内しますので、付いてきて下さい。

ニコラさん:行けば良いんだな。


※韮崎さんは、桜咲が連れていた女性の一人です。

 韮崎さん自身は奉行所にしょっぴかれた段階で死罪を覚悟しましたが、大杉藩家老の真田様が『蟄居は本人だけで、家を取り潰すという話は無かった』との証言を行い、忖度(拡大解釈)して桜咲本人以外は無罪という事になったので、3日の勾留で釈放されました。

 一応無罪放免なので、研究所を辞めさせられることはありませんでしたが、研究所内での研究室の立場が悪くなり、その中でも気も弱い韮崎さんは雑用係同然の扱いにされていたので、今回、ニコラ御一行の案内を命じられることになりました。


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