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もう帰ってきていた

久しぶりで、ブックマークして下さった方がいらっしゃいました。

この場を借りて、御礼申し上げます。


 結局、大滝魔道具店では手持ちが心許(こころもと)なかったので、短剣を買うことなく店を出て、更科屋まで更科さんを送った。

 店の前を通って、裏から入ろうと思ったのだが、店先で田中先輩がお義父様と世間話をしているところだった。

 後藤先輩の話から、田中先輩は明日戻ってくると思っていたので、私はそのままお店に入って、


「お義父様、ご無沙汰しております。

 田中先輩、もう戻られていたのですね。」


と声をかけた。するとお義父様と田中先輩は渋い顔をした。田中先輩は、


「お前、こんなところで遊び(ほう)けて、修行が辛くて逃げ出したのか?

 まだ2日くらいだろ。

 逃げ出すにしても、せめて1週間位は(ねば)れよ。」


と怒ってきた。私は、


「そんな、逃げ出すだなんて。

 雫様という蒼竜様のお知り合いと山頂の方でお会いしまして。

 お邪魔な私達は、今日明日の二日間だけお休みということになったのですよ。」


と説明した。すると田中先輩は、


「あぁ、雫かぁ。

 彼奴等(あいつら)、ひょっとして、また()りを(もど)したのか?」


と聞いてきた。更科さんが、


「はい。

 昨晩から、早速、仲良さそうにしていました。」


と言った。私は、


「昨晩から?

 今朝からでは?」


と聞いたのだが、更科さんは、


「和人。

 昨晩、何かがあったから、今朝、撚りが戻っていたのよ。

 ほら、天幕(テント)からすぐ出てこなかったでしょ?」


と言ったので、


「出てこなかったことと、どんな関係があるのですか?」


と質問した。更科さんは一つため息をついて、


「今度、その辺も話してあげるわね。」


(あき)れたようだった。田中先輩が、


「更科、こいつ、だめだな。

 大丈夫か?」


と聞くと、更科さんは、


純朴(じゅんぼく)なのが和人の良いところだし、仕方ないわよ。」


と言った。私は『仕方ない』と言われて黙っていられず、


「薫、()めるか(けな)すか、どっちかにしてください。」


と言うと、更科さんは、


「えっと・・・、ごめんね。

 一つも()めてないのよ。」


と、目を泳がせていた。私も察しはついていたので、


「あ、やっぱりそうですよね。」


と苦笑いした。更科さんは、


「蒼竜様の件はいいとして、手紙は?」


と私に聞いてきた。私は、


「手紙は失くすといけないので、荷物を降ろした時に、一緒に置いてきました。」


と説明した。田中先輩は、


「俺宛か?」


と確認してきたのだが、更科さんが、


「田中先輩と和人宛でした。

 和人は漢字が読めないので、私が読ませていただいたのですが・・・。

 ここでは人も多いので、(うち)に入ってから続きをお話してもいいでしょうか。」


と確認した後、更科家の床の間に場所を替えた。

 更科さんは、


「私も細かい内容までは覚えていないから、後でちゃんと手紙を呼んでほしいのですが、」


と前置きをし、手紙の概要を話し始めた。


「まず、差出人は代筆ではありますが、赤竜帝でした。

 最初は、田中先輩が黒山様を倒したことについてのお小言が書かれていました。」


と話すと、田中先輩がバツの悪い顔をした。更科さんは、


「次に、田中先輩に竜の里まで来るように書かれていました。」


と言った。『私も呼ばれたのでは?』と思ったが、更科さんは続けて、


「後、蒼竜様の報告を受けて、和人も来るように追加で指示があったわ。」


と、ちゃんと私も呼ばれている事が書いてあったことも話した。

 更科さんは、


「最後に、田中先輩には、里の警護を頼みたいそうよ。

 なんでも、向こうからふっかけたとは言え、我が国の五指(ごし)に入る黒山様を殺ったせいで、近隣の竜の里が進行する気配が生まれたのだから、そのくらいは責任を取れとのことでした。」


と話した。田中先輩は、


「それだけか?」


と聞いた。すると更科さんは、


「えっと、竜の里の来る時、伴侶がいるなら連れてきてもいいと書いてあったわ。」


と言った。田中先輩は、


「『連れてきてもいい』だったんだな?」


と確認した。私は、


「どういうことですか?」


と確認したのだが、田中先輩から、


「・・・何を聞きたい?」


と、逆に質問されたしまった。私は、


「言葉足らずですみません。

 どうして、『連れてきてもいい』という部分を確認したのですか?」


と聞き直した。すると田中先輩は、


「命令なら、監禁する可能性もあるだろうと思ってな。

 まぁ、今の赤竜帝はそういう奴ではないのだが、代筆なら、一筆書き加えることも出来るだろ?

 そういう、万が一の可能性もありうるという話だ。」


と言って、難しい顔をした。

 私は、


「念の為、赤竜帝に手紙を直接渡して確認してもらうというのはいかがでしょうか。」


と聞いたのだが、田中先輩は、


「お前な。

 いくら昔なじみでも、どこで接触するんだ?

 少しは考えろよ?

 里に入る時に、何か理由をつけて回収されるかもしれないしな?」


と指摘した。安塚さんは、


「これ、そこまで危ない話なの?」


と聞いたのだが、田中先輩は、


「いや、可能性の話だ。

 ひょっとしたら、歓待されるかもしれんしな。」


と言った。私は、


「流石に、私達を歓待する理由はないと思うのですが。」


と言うと、更科さんが、


「お小言はいっぱい書いてあったけど、好意的な文面にも見えました。

 田中先輩は、どちらの可能性が高いと考えていますか?」


と確認した。すると田中先輩は、


「まぁ、歓待は無いとしても、最悪の事態になる可能性も低いとは思うぞ。」


と言った。更科さんが、


「私もついていこうと思うのですが、大丈夫ですかね。」


と聞くと、田中先輩は、


「あまり勧めはせんが、まぁ、大丈夫じゃないか?」


と返事をした。安塚さんが、


「私も荷物持ちでもいいので、連れて行ってほしいのですが・・・。」


と恐る恐る聞くと、田中先輩は、


「まぁ、蒼竜が良いと言ったらな。」


と返した。

 私は、最初に田中先輩が想像したとおりなら、更科さんや安塚さん、あと、私も戦力外だろうから人質にされてしまう可能性もあるのだろうと思うと、なんだか心配になってきた。


 その後、田中先輩は会社に休暇届を出して明日から竜の里に向かうことになった。

 そして私は、更科家で夕食をごちそうになってから、更科さんに、明日、家まで迎えに行く約束をした。

 夕食を頂いた後は、お義父様にだけ『他言無用』と念押しして簡単に事情を説明しておいた。

 その日、葛町の私の部屋まで戻ったのは戌の刻(20時)半刻(1時間)ほど過ぎていたので、簡単に荷物を整理した後で明日に備えて寝たのだった。

更科さん:えっと、竜の里の来る時、伴侶がいるなら連れてきてもいいと書いてあったわ。

田中先輩:『連れてきてもいい』だったんだな?(命令なら、そのまま監禁か?いや、しかし広重(ひろしげ)はそのようなやつではないし・・・。)

山上くん:どういうことですか?

田中先輩:(あ、考え中で、聞いてなかった。)・・・何を聞きたい?

山上くん:言葉足らずですみません。どうして、『連れてきてもいい』という部分を確認したのですか?

田中先輩:(そんなことか。)

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