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赤竜帝からの出頭命令

 安塚さん、更科さん、私とムーちゃんの3人と1匹は、朝食を食べた後、葛町の冒険者組合に向かった。

 日が昇ってから1刻(2時間)かからずに出発したので、お昼をちょっと過ぎた頃に葛町についた。

 安塚さんが、


「お昼、大杉でも良かったんじゃないの?」


と文句を言った。私は、


「ほら、薫が外で食べていたら、会いたくない人と鉢合わせするかもしれませんし。」


と説明した。更科さんは、


「そういうつもりだったの?

 別に良かったのに。」


と言ってはいるものの、少し嬉しそうだ。私は、


「まぁ、もう着いてしまいましたし。

 お腹も空きましたから、飯屋に入りましょう。」


(うなが)した。すると安塚さんが、


「そう言えば、この町に飯屋って2軒あるけど、どっちに入るの?」


と聞いてきた。

 葛町には、味に品のある『伐り株』と、味は今一歩だが量が多くて安い『大森屋』の2軒ある。

 私は、


伐り株(きりかぶ)が私の行きつけなのですが、こちらで良いですか?」


と確認した。すると安塚さんが、


「へぇ、意外ね。

 こっちの方がちょっとだけ高いでしょ?」


と聞いてきた。私は、


「そうなのですか?

 私は、田中先輩も後藤先輩もこっちのほうが美味(うま)いと言っていましたので、それでいつもこっちを利用しています。」


と説明した。安塚さんは、


「まぁ、美味しいほうが良いわよね。」


と納得して、


「薫ちゃんはどっち派?」


と聞いた。すると更科さんは、


「私はどちらかと言うと、あっちの大森屋かな。

 確かに、細かい味付けは苦手みたいだけど、お肉の量が多くておすすめなのよ。」


と言った。これを聞いた安塚さんは、


「普通、女の人は量が食べられない分、質にこだわって、男の人は安くてもたくさん食べられる方がいいのよ。

 山上くんと薫ちゃんは、逆なのね。」


と笑った。私は恥ずかしくなったのだが、


「薫が肉食系で、私は草食系なので、仕方ありません。

 昨日や一昨日(おとつい)の食べっぷりを見れば、分かるじゃありませんか。」


と開き直った。安塚さんは、


「まぁ、食事の方はそう見えるわね。」


と言った。すると更科さんが、


「和人には、もう少し肉食系になってもらったほうが(うれ)しいのですがね。」


と私に困った顔を向けながら、安塚さんに話した。

 私は何の話やらと思いつつ、立ち話も邪魔になるので、


「とりあえず、御飯にしましょう。」


と促して、2対1ということで、いつもの飯屋に入った。



 昼食が終わり、葛町の冒険者組合に入ると、受付にいた里見さんが手を上げて、


「山上さん、私の列に並んで下さい。

 ちょっと、お話があります。」


と言って私を呼んだ。私は更科さんに、


「何かあったのでしょうかね。」


と聞いてみた。更科さんも事情は知らないので、


「さあ。

 山小屋の件とかじゃないの?」


と答えた。私は、山小屋で狂熊を3匹倒したのを思い出し、


「なるほど、それかもしれませんね。」


と相槌を打った。



 (しばら)くして、私の番になった。

 里見さんは挨拶(あいさつ)をした後、


丁度(ちょうど)よかったです。

 先生と山上さん宛にお手紙が届いていまして。

 山上さんは1ヶ月間、春高山で修行と言っていましたので、先生にお願いして手紙を届けてもらうとしていた所だったのですよ。」


と話した。私は、


「お手紙ですか。

 私はてっきり、春高山の山小屋のところで狂熊を仕留めたので、その話が伝わって、私を呼んだのかと思いました。」


と返した。すると里見さんは、


「そうでしたか。

 あの、後ろの荷物ですよね。

 でも、狂熊にしては大きすぎる気もします。

 ひょっとすると、他にも何か倒しましたか?」


と確認してきた。私は、


「ああ、あの大きいやつは狂熊王です。」


と言った。すると里見さんが、


「狂熊王・・・ですか。

 この辺りでは、あまり聞きませんね。

 ひとまず、前回もそうでしたが、今回も私では算定が出来ません。

 すみませんが、一旦預からせていただきますが、宜しいですか?」


と確認してきた。私は早く換金したいのにと思ったが、狂熊の討伐報酬もあるので、


「はい、問題ありません。

 あと、こちらの鼻もお願いします。」


と言って、狂熊3匹分の鼻を出した。すると里見さんは、


「3匹もですか!

 えっと、鼻は討伐報酬ですね。

 狂熊1匹が銀10(もんめ)で、これが3匹分ですので、30匁になります。」


と手早く書類を準備した。

 私は、前回は狂熊1匹で300匁だったので、ずいぶん少ない気がした。だが、冷静に考えれば、皮が無ければ冒険者組合で転売も出来ないので、報酬が少ないのも仕方がないのだろう。

 奥から沼田さんがやってきた。

 そして、里見さんが書いていた書類を後ろから覗き見したのだが、急に顔がぎょっとなった。

 沼田さんは、


「里見君、あれ、雷熊だから間違えないでね。

 値段、全然違うから。」


と注意した。すると里見さんは、


「あれが雷熊ですか!

 いや、初めてみました。

 冒険者の致死率が高いので、中級までは見かけたら逃げるように言われているやつですよね!」


と驚いた後、


「これを、どんな風にして倒したのですか?」


と聞いてきた。私は、


「簡単に説明しますとですね。

 まず、私が狂熊王に張った土魔法の罠が丁度良く炸裂して、顔からずっこけまして。

 それで、狂熊王が起き上がろうとしたのですが、間髪入れずに雷熊が一撃で仕留めたのですよ。

 でも、流石に雷熊も疲れていたようで、私が拳骨で殴ると気絶したので仕留められたというわけです。

 ものすごく、運が良かったのだと思います。」


と説明した。沼田さんはくすくす笑いながら、


「冒険者の人は説明ベタな人が多いけど、山上くんもやっぱり下手なのね。」


と話し、右手を握って持ち上げると、


「それに、やっぱり拳骨なのね。」


と面白そうに確認してきた。私は、


「いえ、その・・・、はい。

 薫からなるべく傷をつけないように頼まれていたもので・・・。」


と返事をした。沼田さんは少し真面目な顔の戻して、


「でも、拳骨だと(しび)れて死ぬこともあり、大変危険だと聞いています。

 何か対策を?」


と聞いてきた。なので私は、


「雷熊も狂熊王を倒すので精一杯で、ビリビリさせる余裕がなかったようです。」


と答えた。沼田さんは少し(まゆ)を寄せて、


「そんな事があるのですか?」


と確認してきた。なので私は、


「恐らく、たまたまなのだと思います。」


と答えた。すると、里見さんが、


「それは危険な()けでしたね。」


と言ったのだが、私は、


「実は倒した時、雷熊というものを知りませんで。

 運が良かっただけです。」


と話した。沼田さんは、


「まぁ、確信があって拳骨で行ったのだとすれば、冒険者組合としても他の方の安全のためにも倒し方を把握したいところですが、運ではしょうがないですね。」


と残念そうに言った。すると安塚さんが、


「山上くんはスキルを使ったそうなので、確信はあったのだと思いますが、他の人に真似は出来ないと思いますよ。」


と話した。すると沼田さんは、


「スキルですか。

 それでは、仕方ありませんね。」


と諦めたようだった。

 私は話も一区切り着いたと思ったのだが、更科さんが唐突に、


「沼田さん、すみません。

 普通、冒険者の手口はよほどのことがないと公開しないものですが、少し立ち入って聞きすぎでは?」


と抗議した。すると沼田さんは、


「里見君の質問に普通に答えていたので、話しても良い内容なのかなと思いまして。」


と受け流そうとした。しかし更科さんは、


「和人が話したのは状況ですよね?

 状況と手口は別物ではありませんか。」


と言ったところ、沼田さんは少し考えてから、渋々という感じで、


「わかりました。

 毛皮の買い取りは少し色をつけさせていただきます。

 これで良いですか?」


と聞いてきた。更科さんは、


「どのくらいの色がつくかは・・・、おまかせします。」


と言った。沼田さんは苦笑いしながら、


「はい。

 ちゃんとつけておきますので。」


と返事をした。沼田さんは、


「では山上くん、この後、野辺山副組合長の部屋まで案内しますので、ついて来てください。」


と言った。私は、


「こちらの二人は、一緒でも大丈夫でしょうか。」


と聞くと、沼田さんは、


「多分、大丈夫だと思います。」


と言って、私達を野辺山さんの部屋まで引率(いんそつ)した。

 沼田さんは、野辺山さんの部屋の前で立ち止まり、扉を(たた)いて、


「沼田です。

 山上くんを連れてきました。

 付き添いで更科さんと、あと横山さんのところの安塚さんが来ていますが、同席させて良いでしょうか。」


と声をかけた。すると部屋の中から野辺山さんが、


「本人が良いなら、問題ない。

 中に入れていいぞ。」


と返事をした。すると沼田さんは、


「問題ないそうですので、皆さん、お入りください。」


と言って、野辺山さんの部屋の扉を開け、中に入るように(うなが)した。

 部屋の中に入ると、野辺山さんが立ち上がり、


「山上、机の横に線が有るだろ。

 そこで立ってくれるか。」


と言って、線が引いているところを指を指した。野辺山さんが手紙を持って近づいてくる。

 そして開口一番、


「赤竜帝から、招待状が届いている。」


と言ってきた。

 私は以前、蒼竜様から竜族と同じ扱いにするかもしれないが、赤竜帝の想定外かもしれないので、どうなるかは分からないという話を聞いていた。だが、まさか直接会うことになるとは考えてもいなかったので、現実味を感じなかった。

 私は咄嗟(とっさ)に、


「それは、どこかの定食屋ですか?」


と聞いてしまった。しかし野辺山さんは眉間に(しわ)を作って少し考えてから、


「あぁ。

 赤竜()ではない。

 あの竜族の頂点に立つ、赤竜()だ。 

 というか、そのような名前の店があったら、不敬罪で(つぶ)されるんじゃないか?」


と、苦笑いした。安塚さんは、ツボに入ったようだ。私は、


「それもそうですね。

 すみません。

 あまりに日常とかけ離れていて、まだピンときません。」


と首を(かし)げながら返した。野辺山さんも、


「まぁ、普通は、俺達一般庶民が呼ばれることなんて生涯無いのだから、気持ちは分かる。」


と同意したのだが、


「しかし、ここに招待状がある以上、厳然(げんぜん)たる事実だ。」


と冗談ではないことを伝えてきた。私は、


「それの受取拒否は可能なのでしょうか。」


と念の為聞いてみた。

 野辺山さんは一瞬拳骨を作って腕を持ち上げかけた後、また腕を下げながら、


「拒否したら、どこまで被害が広がるかわからないから、勘弁してくれ。」


と苦笑いした割に、目が(するど)い。安塚さんも、


「そうよね。

 ここにいる私達はもちろん、親戚一同や、葛町冒険者組合の他の職員一同も処罰対象というか、処刑対象になりかねないわよね。」


と嫌な顔をしながら付け加えた。私は、野辺山さんの目がまだ鋭かったので、恐る恐る、


「すみません。

 行かないという選択肢がないことは分かりましたが、旅費とかはどうなるのでしょうか。」


と確認した。すると野辺山さんは、


「基本は自腹だが・・・。

 まぁ、餞別(せんべつ)くらいは集めてやる。」


と言ってくれた。私は、


「ありがとうございます。」


と感謝を述べたものの、


「でも、やはり、自腹になりますか。」


と、ため息をつきながら愚痴(ぐち)をこぼしてしまった。私は、


「期限とか滞在日数は聞いていますでしょうか。

 先程、下で狂熊王と雷熊の皮の売却を依頼したのですが、これが入った後でないと、財布が厳しいのですが・・・。」


と聞いてみた。すると、野辺山さんは、


「俺はそこまでの話は聞いていないから、手紙の中に書いてないか確認してくれ。」


と返事をしてきた。私は字が読めないので、手紙を更科さんに渡し、


「すみませんが読んでくれませんか。」


とお願いした。更科さんが開封し、中に目をとして、


「日程や滞在日数については、特に何も書いてないわね。」


と教えてくれた。それから、更科さんは、


「あ!

 ここ!

 『伴侶がいるなら、連れてきても構わない』と書いてある!」


と言って私に手紙を見せ、指でその場所を示した。私は文字が読めないので苦笑いしたものの、


「それなら、薫も来られるね。」


と答えた。ここで突然安塚さんが、


「和人くん、私、前から好きだったのよ。

 今すぐ、私と()結婚しない?

 薫ちゃんよりも、いろいろ出来るわよ?」


と言って、胸を強調してみせた。私は、


「すみませんが、一人で十分ですから。」


とお断りすると、安塚さんは、


「えっ?

 男って、一人じゃ足りないんじゃないの?

 蒼竜様も、人間は一人の男が複数の女性を囲っていて不可思議に思っていたって言ってたし、向こうがそういう認識なら、二人いても問題ないと思うし。」


と言った。私は、


「それ以前に、一般人が二人目を貰ったとなれば百叩きじゃ済まないだろうって言っていたのは安塚さんじゃありませんか。」


と指摘した。すると安塚さんは、


「大丈夫よ。

 竜の里の中でだけ、結婚したことにすればって話だから。」


と言った。私は、


「そんな、(たばか)るようなことは出来ませんよ。」


と断った。すると更科さんが、


「田中先輩も行くなら、そっちとくっつけばどうですか?」


と聞いてきた。すると、安塚さんは、


「そっちは、横山教授が行くでしょ?」


と言った。それを聞いた私は、研究者の人って、研究のためなら好きでなくても平然と結婚までしてしまうのかと驚いてしまい、


「結婚って、そんなのでいいのですか?」


と聞いてみた。すると、


「だから偽装って言ってるでしょ?

 どうせ、わざわざ本当に結婚したかなんて、調べたりしないわよ。」


と答えた。私は、


「赤竜帝の御前になるのですよね。

 それ、バレたら死罪とかになりませんか?」


と確認したところ、


「前にも言ったけど、冒険者が日々命を張っているほどではないにせよ、研究者だって多少は命を張っているのよ?

 多少のことはするわよ。」


と言った。私は、


「安塚さんは多少といいますが、これ、かなり致死率が高くありませんか?

 それに、私も一緒に死罪は御免(ごめん)なのですが・・・。」


と、もう一度拒否した。すると安塚さんは、


「だらしがないわね。

 でも、まぁ、薫ちゃんを残すことになっちゃうか。」


と諦めたようだった。だが、少し考えたかと思うと、


「薫ちゃんの替え玉で私というのはどう?」


と提案してきた。私は、


「もっと悪いですよね。」


と確認すると、安塚さんは、


「まぁ、そうよね。」


と、分かって言っているようだった。安塚さんは、


「蒼竜様に荷物持ちで入れないか、聞いてみるかなぁ・・・。」


と言って、引き続き竜の里まで付いていく方法を思案しているようであった。


更科さん:普通、冒険者の手口はよほどのことがないと公開しないものですが、少し立ち入って聞きすぎでは?

山上くん:(私は歩荷であって冒険者じゃないから、別にそんな事いいのに・・・。)

沼田さん:(何を今更。)里見君の質問に普通に答えていたので、話しても良い内容なのかなと思いまして。

更科さん:和人が話したのは状況ですよね?状況と手口は別物ではありませんか。

沼田さん:(確かにそうだけど、・・・って、これ、問題にされたくなかったら少し上乗せしろってことか!う〜ん、でも、めったに出回らないものだし、上乗せしたと言い張ればいいかな。)わかりました。毛皮の買い取りは少し色をつけさせていただきます。これで良いですか?

更科さん:どのくらいの色がつくかは・・・、おまかせします。(と言っておけば、沢山上乗せしてくれるよね♪)

山上くん:(なんで色がつくのだろう・・・。)

沼田さん:(そんな、念を押さなくても・・・。)はい。ちゃんとつけておきますので。(言うだけならタダだし。)


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