炊事が出来る男の人は良いらしい
更科さんと私は、夜が白けてもうすぐ日が出てくる頃、焚き火のところにい行った。
雫様が、
「なんや、もう起きてきたんか。
昨日はゆっくり寝れたか?」
と聞いてきた。すると更科さんが、
「はい。
思ったよりも、ず〜っとゆっくり寝れました。」
と返事をした。安塚さんは飯盒の火に薪を焚べていたので、これから火力を上げて炊いていくのだろう。雫様が、
「そりゃ・・・、災難だったなぁ。
でも、まぁ、その顔つきだと、今朝はなんかしたんやろ?
表情で丸わかりやで。」
と聞いてきた。私は苦笑するしかなかったが、更科さんが、
「和人に、無理やり恥ずかしいことを言わされまして・・・。」
と顔を赤らめていた。私はその表情を見て、小さいと言われたことを思い出し、思わず眉間に指を当て、
「そういう話は、外で話さないで欲しいです。」
と言った。すると安塚さんがお味噌を溶きながら、
「山上くんも、冴えない顔をしてても、男の子なのね。」
と言われた。更に、更科さんからも、
「和人は、基本的にはいい人よ?
田舎顔だけど。」
といじられてしまったので、私は、
「どうせ、私は顔もいまいちな小さい男ですから・・・。」
と拗ねてみせた。すると安塚さんが、
「まぁ、こうやっていちいち反応して、可愛いのは本当よね。」
と笑いながら言ってきた。更科さんは、
「はい。
なので、安塚さんもどうせ結婚するなら、和人みたいな人が良いですよ?」
と言った。すると安塚さんも、
「そうね。
私も山上くんと同い年なら、お願いしたいわね。
まぁ、私には、いくら15歳で成人していても、ちょっとお子様だけどね。
あ。
でも、それはそれで、守ってあげたくなるかしらね。」
と言われた。たしかに、私は次兄ならともかく、一兄みたいな大人ではない。
私は、
「先程から心に棘が刺さっていたたまれないので、そろそろ私をいじるのは止めて欲しいのですが・・・。」
とお願いした。すると安塚さんが、
「別にいいじゃないの。
皆で、山上くんのことを褒めてるのよ?」
と不思議そうに言った。私は、
「いえいえ。
先程も、かわいいとか、子供っぽいとか、守ってあげたくなるとか、それは確かに、私もまだまだですが、やはりはっきり言われると凹んでしまいますよ。」
と返した。すると、更科さんが、
「じゃぁ、少し回復するおまじないするね?」
と言って、私の頭を腕で包み込んで、頭を撫でてきた。私は、
「そういうのが、子供扱いしていると言っているのですが・・・。」
と不満を口にしたのだが、更科さんは、
「えっとね、和人。
家ではみんなやってるのよ?」
と言った。すると安塚さんが、
「いえ、私はやっていないわよ?
というか、この話はお家の事情だし、ちょっと置いておいたほうが良さそうね。」
と話しを打ち切ろうとしたのだが、うっかり雫様と私の目が合ったせいで、雫様は、
「へ?
雅弘も好きやで?」
と言った。すると蒼竜様が飛んできて、
「こら!
雫!
そういうことを軽々しく言うでない!」
と雫様の口をふさぎながら怒った。雫様は少し照れながら、塞がれた口の隙間から
「あぁ、気安ぅてうっかりしとったわ。」
と言った後、腕をほどくと私達に向かって、
「まぁ、ここだけの話ということにしたってな。」
と言った。すると蒼竜様が、
「それでは、まるで他人事ではないか。」
と言った。しかし雫様は、
「別に、知られても困らんで?」
と言った。すると蒼竜様は、
「拙者は困るのだ。」
と言った。そこで雫様はぽんと手を打って、
「まぁ、面子なんて吹けば飛ぶようなもんや。
むしろ、こういうんは周りに周知されたほうがええこともあるで?」
と言った。すると蒼竜様は、
「何を周知するつもりだ?」
と恐る恐る聞いていた。雫様は、
「そりゃ、復縁したことや。
そのまま、結婚してくれるんやろ?」
と言った。蒼竜様は困った顔をして、
「・・・ふむ。
その・・・。
そういう事だ。」
と、照れながら雫様の頭を抱き寄せた。私は、
「薫、ああいうのは、私もいいなと思います。
でも、外で女の人に撫でられて喜ぶと子供っぽく見られますので、そろそろ勘弁してください。」
と言った。すると更科さんは、少し不満そうな顔をしながら、
「分かったわ。
でも、その割に、顔は赤いわよ?」
と言って、ようやく私の頭を開放した。私は誤魔化そうと、
「安塚さん、もう御飯は良いのではないでしょうか。
あと、お味噌汁は火から降ろさないと煮詰まってしまいますよ。」
と言った。すると安塚さんは飯盒を火から降ろして引っくり返しながら、
「炊事が出来る男の人って、良いわよね。」
と言った。更科さんが、
「でも、末男だから、オシメとかは無理じゃないかしら。」
と言った。私は、
「いえ、そのくらいちゃんと替えられますよ。
というか、田舎なんて、隣近所も含めて家族みたいなものですよ?
私が末男でも、近所に赤ちゃんがいればオシメだって替えますよ。」
と説明した。すると安塚さんが、
「じゃぁ、薫ちゃんは、子供だけ産んでおけば、後は山上くんに炊事も子育ても丸投げ出来るってことね。」
と言った。私は家事全般を丸投げされてはかなわないので慌てて、
「いえ、いえ、いえ、いえ、いえ。
私は歩荷ですが、外に何日も出かける仕事ですよ?
私が家にいれば、当然面倒は見ますが、泊まりの仕事に日は、ちゃんと子供の面倒を見てもらわないと困ります。」
と否定した。しかし、この受け答えに更科さんが、
「女中さんを雇えば大丈夫よ?」
と反応した。さすがは良い所の娘さんなだけあって、一般の人と金銭感覚が普通とずれているなと思った。すかさず安塚さんが、
「普通の家に女中さんはいませんよ?」
と言うと、『え?』っと言った感じでかなり驚いていた。
雫様が、
「そろそろ朝食にせんか?
もう、ええんちゃう?」
と言って蒸らしていた飯盒を指さした。そこで更科さんが、
「そ、そうですね。
御飯にしましょう。」
と言って、安塚さんと二人で配膳を始めた。
こうして私達は朝食を摂った。
御飯を食べた後は、朝食の後片付けをしていた。
それから、持って変えるものを選別して、背負子を背負い、
「それでは蒼竜様、雫様、そろそろ下山いたします。
また、明日午後に戻りますので、宜しくおねがいします。」
と挨拶をしてから、狂熊王と雷熊を換金すべく、葛町の冒険者組合に向かったのだった。




