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天幕の割り振り

 夕食の後は、後片付けと天幕(テント)の割り振りが行われた。

 安塚さんは、


「今日は、ちゃんと私の天幕(テント)を張ったから、こっちで寝るわね。」


と言った。私は、


「今夜、雫様は向こうの山に戻られるのですか?」


と聞いてみた。すると蒼竜様が私を軽く(にら)みつけた後、


「いや、昨日隣の山で赤竜が飛んでいたゆえ、そうではないかと思ったということだ。」


と話した。雫様は、


「ん?

 今朝(けさ)来たとこやけど、誰かおんの?」


と聞いた。すると蒼竜様は、


「雫ではなかったのか?

 拙者もはっきりは見えなんだゆえ、てっきりそうなのだとばかり思っておったのだが。」


と返した。すると雫様は、


「この辺りは緩衝(かんしょう)地帯やで?

 わざわざ、竜化して騒ぎを起こしたりせんわ。」


と言った。私は、


「そうだったのですか。

 冒険者組合から奥の山で竜が頻繁に目撃されているから、狂熊がこっちの山まで来ていると聞かされていまして。

 なので、昨日見かけた竜がそうなのだろうと思っていたのですよ。

 その矢先に、今日雫様と会ったものですから、その迷惑な竜が雫様なのだとばかり思い込んでしまいました。

 本当に申し訳ありません。」


と雫様を見ながら謝った。すると雫様は、


「それ、さっきも聞いたで?

 でも、まぁ、そういう事情なら、しゃーない。

 うちでもそう思うわ。」


と言った。すると蒼竜様が、


「違っておったのか。

 何よりだな。

 拙者も、山の上で飛んでいた赤竜を見てすぐに雫に会ったゆえ、隣の国の尖兵(せんぺい)として、この辺りに陣取(じんど)っておったのかと思ったぞ。

 いや、隣の山の竜が雫でなくてよかった。

 よかった。」


と言った。なんとなく、雫様の顔が(くも)った気がした。雫様は、


「尖兵って。

 それで、うちが何をやってた思ぅたんや?」


と質問したところ、蒼竜様は、


「いや、なに。

 温泉で狂熊と仲睦(なかむつ)まじかったゆえ、てっきり狂熊を育てて狂熊王にしたのが雫ではないかと思っておったのだ。」


と返した。私はうっかり、


「蒼竜様、そんなものを育てて、いったい何に使うのですか?」


と聞いた。すると蒼竜様は、


「ふむ。

 育てた狂熊は、後で咲花の更に奥にある湖月(こげつ)村あたりを襲わせるのに使うのだ。

 あそこは王都からは距離があり、竜の里とは比較的近いゆえ、あそこで騒ぎが起きれば竜の里から戦力を割く可能性が高いのだ。

 さすれば、幾分(いくぶん)かは竜の里も攻めやすくなるであろうからな。」


と答えた。雫様は少し(さび)しそうに、


「へぇ。

 雅弘(まさひろ)の目に、うちはそんな風に映っとったんや。」


と言った。雫様が蒼竜様を名前で呼んでいるので、おそらく、思うところがあったのだろう。蒼竜様は、


「いや、すまぬ。

 が、拙者の勘違いだったのであろう?」


と返した。雫様は、


「そういうことやあらせん。

 うちを疑っとったんか、()うとるんや。」


と確認をした。私はこれから荒れるなと思ったので、


「お取り込み中、申し訳ありませんが、結局、雫様はどちらで寝られるのですか?」


とはぐらかした。すると雫様は、


「この雰囲気で、雅弘(まさひろ)と一緒に寝る思うか?」


と質問されてしまった。私は、まず無いなと思ったのだが、以前、田中先輩が同棲していた時の話を思い出し、


「仲直りのきっかけには使えますよ?」


と言った。そして、


「それに、こちらで寝るなら、天幕(テント)が足りませんので、蒼竜様と一緒でお願いします。」


と行って、渋々一緒に寝るという体裁が取れるように理由も準備した。しかし蒼竜様は、


「こっちで寝るなら、や・・・」


と言いかけた。そこで私は、


「今夜は、私は薫と一緒に寝ますので。」


と声をかぶせて宣言した。今朝、うっかり安塚さんと更科さんが使っていた天幕(テント)に入った後、安塚さんの寝袋を抱いて寝てしまっていたので、その埋め合わせをやっておきたいという打算でもあるが。それとなく更科さんの顔を見ると、旬を迎えた(いちご)のようになっていた。

 蒼竜様は、


「ふむ。」


と言って、少し慌てたようだった。代わりに雫様が、


「えらい強引やなぁ。

 まぁ、こっちはしゃーないか。

 蒼竜と同じで我慢したるわ。]


眉間(みけん)(しわ)を寄せながら言ったのだが、その後ニコニコしながら、


「ついでや。

 最初に山上と薫ちゃんで見張りしぃ。

 そしたら、後を気にせんでもええやろ?」


と気を利かされてしまった。

 安塚さんがおずおずと手を上げながら、


「それだと、私は一人で見張りになりますが、隣の山に他に竜がいらっしゃるようでしたら、私一人で見張りをするのは荷が重い気がするのですが・・・。」


と抗議してきた。私は、


「それもそうですね。

 昨日と同じでいかがですか?」


と言ったのだが、雫様は、


「うちが多恵(たえ)ちゃんと一緒に見張るで?」


と言って解決しようとした。しかし、更科さんが、


「それでは、蒼竜様と雫様がゆっくりお話を出来ないではありませんか。」


と指摘した。しかし蒼竜様は、


「明日、奥方殿は山上たちと一緒に狂熊王の素材を売りに行くのであろう?

 山には雫と拙者が残るゆえ、十分に時間もある。

 今夜、急いで話す必要もあるまいよ。」


と言った。更科さんは、


「そうでした。

 いらぬ心配をしてすみません。」


と謝った。雫様も、


「そういうことや。」


と言った後、


「まぁ、今夜、蒼竜がうちと仲良く出来へんかったら話は別やけどな。」


と言って頬を搔いた。雫様は、なんだか照れているようだ。安塚さんが、


「夜、交代の時間に起きられないと困りますので、あまり騒がないでくださいね。」


と苦笑いをしながら言った後、


「それはさておき、雫様、今夜はよろしくおねがいします。」


と付け加えた。蒼竜様は、


「では、今夜の見張りは最初に山上と奥方、次に拙者、最後に安塚と雫でよいな。」


と言って、その日の夜の見張りが決まった。

 こうして更科さんと私は焚き火の近くに残って見張りをし、他の三人は天幕(テント)に入っていったのだった。


蒼竜様:こっちで寝るなら、や・・・

山上くん:今夜は、私は薫と一緒に寝ますので。

更科さん:(えっ>うそっ!和人ったら、もう♡)

安塚さん:(あれ?珍しい。草食系なのに。)

蒼竜様:(先に逃げ道を塞いできたか。)ふむ。(これは、雫とヤらねばならぬのだろうか。。。)

雫様:(二人っきりにして話し合いの場を作るとか)えらい強引やなぁ。まぁ、こっちはしゃーないか。蒼竜と同じで我慢したるわ。(喧嘩別れでもないし、久しぶりに・・・。)

安塚さん:(蒼竜様と雫様、火種になるか、焼けぼっくりになるか・・・。)



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