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晩御飯前に怒られた

 私は、山頂から煙が上がっていたのを思い出して、


「薫、晩御飯はもう作ってしまいましたか?」


と聞いた。すると更科さんは、


「えっと、(しずく)様が倒してくれたお肉の準備は出来ているわ。

 あと、御飯もそろそろ炊ける頃よ。」


と言った。すると安塚さんは、


「そうね。

 もうそろそろ飯盒をひっくり返しましょうか。」


と言った。雫様が、


「ひっくり返すって、そんな事したら折角(せっかく)の御飯がこぼれてまうやろ。」


と言った。安塚さんは、一瞬だけ眉間(みけん)(しわ)を寄せたがすぐに戻して、


飯盒(はんごう)は、(ふた)をしたままひっくり返します。

 そしたら、御飯は(こぼ)れないでしょう?」


と説明した。私はこれだけだと説明不足なので、


「そうやって、一回ひっくり返してから(しばら)く待ったほうが、御飯が()らされて美味しくなるのですよ。」


と付け加えた。安塚さんは早速、飯盒(はんごう)を火から下ろしてひっくり返していた。雫様は、


「そうなん?

 あんまり飯盒で御飯なんて炊かんから、知らんかったわ。」


(あご)に指を当てながら言った。更科さんが、


「雫様は、今まで食事はどのようにしていたのですか?」


と聞いた。私は出来ないことを聞いて機嫌を損ねないかとヒヤヒヤしたが、雫様は、


「そんなもん、狩って、血ぃ抜いて、焼いたら出来るやろ?」


と笑いながら返した。私は、機嫌が悪くならなくてよかったと思い安心した。

 蒼竜様が、


「まぁ、奥方がそうであるように、世の中には料理の出来ぬ女なぞ、いくらでもおるという事だ。」


と言った。雫様は、


「ちょっ!

 一応、少しは出来るようになったんやで?」


と反論した。更科さんも何か言いかけたが、遠慮したようだ。蒼竜様は、


「あの鍋が何よりの証拠であろう。」


と言って(ゆび)()した。私は何があるのだろうかと見ると、穴の空いた鍋があった。私は、


「なぜ、あれが証拠なのですか?」


と聞いた。すると蒼竜様は、


「ふむ。

 山上が()()見た者の中で、料理しても鍋に穴が開かない者の名を挙げてみよ。」


と言った。私は不思議な言い回しをするなと思いながら、


「安塚さんは、ちゃんと料理が作れましたよね。」


と答えた。

 安塚さんは大きく(うなず)いている。

 しかし、更科さんは、自分を指さして何か言いたそうにしていた。私は、更科さんも穴を空けるようなことはないと思ったのだが、そうすると残りは雫様しかいない。更科さんが自分を指さしているのは、『雫様の機嫌を(そこ)なうくらいなら、私が開けたと言って』という意味なのだと解釈した。

 なので私は、


「薫でしょうかね。」


と言った。すると更科さんは(ほほ)(ふく)らませ、


「ちょっと、和人!

 和人は私が料理しているところを見た事はあるわよね?

 なんで、私が鍋に穴を空けると思ったのよ!」


と怒られた。そして、更科さんの視線が背負子(しょいこ)に移り、


「だいたい、さっきは大きさにびっくりして()めたけど、なに?

 この大きい方の熊の顔、ところどころ穴が空いていて皮もボロボロじゃない。

 どうやったら、こんなに滅多刺しにして焦げまで出来るのよ。

 こんなに傷んじゃったら、価値がだだ下がりじゃないの。」


と言ってきた。私は、この熊の皮の件はやり過ごせたと思っていたが、更科さんに指摘されてしまったので気まずく思い、


「すみません。

 この狂熊があまりにも強くて、傷をつけないようにする余裕は、私にはありませんでした。」


と返した。すると更科さんは、


「そんなわけ無いでしょ?

 こっちの熊は雷熊だけど綺麗じゃないのよ。

 なのに、どうして格下の狂熊王の方が傷ついているのよ!

 おかしいでしょ?」


と言った。私は、


「雷熊って、そんなに強いんですか?」


と聞いた。すると安塚さんが、


「え?

 山上くん、知らずに倒したの?

 雷を(まと)っているから、打撃したらビリビリ(しび)れて死んでしまう凶悪な魔獣よ?

 まさか、知らずに倒したの?」


と驚いていた。私は、


「その・・・、雷を纏っているというのは気がついていましたが、どう考えてもこっちの狂熊王の方が強かったですよ?」


と言った。が、しかし言われてみればこの狂熊王は、私の魔法で顔から地面に突っ込んだ後まだ十分に戦える雰囲気だった。そして、雷熊の一撃で絶命したのだ。最初から、雷熊の方が強かったということなら、下剋上(げこくじょう)ではなく、初めから自然界の(ことわり)の通りだったということになる。更科さんが、


「和人、知らずに雷熊(これ)倒しちゃったの?」


と聞いてきた。私は、


「はい。」


と答えたところ、更科さんは、


「えっと・・・。

 和人の見立てでは、狂熊王の方が強かったの?」


と聞いてきた。私は自信を持って、


「はい。」


と答えた。しかし更科さんは、


「普通、ビリビリが来ないように、例えば棍棒(こんぼう)か何かで倒すそうよ?

 和人はいつも拳骨だけど、どうやって倒したの?」


と聞いてきた。なので私は正直に右手を拳骨にして胸まで上げて、


「体中の黄色い魔法を腕に集中させた雷熊が狂熊王に殴りかかって倒した後、体に黄色い魔法が戻る前に拳骨(げんこつ)で殴って気絶させました。」


と答えた。すると雫様が、


「なんやそれ!

 棚ぼたやないかぃ。」


と言って笑い出した後、


「あれ、狂熊王をあの大きさにするん、えろう大変だったんやで?

 それが雷熊かいな。

 あぁ、もう、ついてへんわ。」


と言った。私は、後で蒼竜様が対処する筈だからと思い、雫様が狂熊王を育てたことを認める発言を無視することにしたが、蒼竜様が、


「あぁ、そういえば温泉で狂熊と一緒に入ってた()ぅてたな。」


と言った。私はツッコミどころが満載の発言に眉をひそめたが、安塚さんが、


「蒼竜様、雫様の喋りが移ってますよ?」


と笑い始めた。私は、安塚さんに、


「蒼竜様に失礼ですよ?」


と言ったのだが、蒼竜様は顔を赤くしながら、


「そういうこともある。」


と言ったあと、


「あぁ、もうこの話わ終わりだ。

 飯にするぞ。」


と言った。微妙な発言もありヒヤッとしたが、この場はお互い大人の対応をしたということなのだろうと思った。更科さんが、


「分かりました。

 すぐに(よそお)わせていただきます。」


と言って、配膳の準備を初めた。

 とは言え、更科さんを鍋の穴を空けた犯人だと言った件については、問題を先送りにしただけに過ぎない。それに、更科さんはこういう話をよく覚えているように思う。

 なので、後で言い訳も交えて、しっかり謝っておこうと思ったのだった。


蒼竜様:まぁ、奥方がそうであるように、世の中には料理の出来ぬ女なぞ、いくらでもおるという事だ。

雫様:ちょっ!一応、少しは出来るようになったんやで?

更科さん:ちょ!(あーかぶった!というか、私も少しは料理できるのに心外よ!)

山上くん:(これは・・・。薫に『料理は作れるよね』とか何か言っておかないと、後で絶対に機嫌が悪くなるよな・・・。)

↑この後、山上くんは正反対の行動をとってしまいますが・・・。(^^;)


本年は拙い文章にもかかわらず読んでいただき、誠にありがとうございました。

そういえば、最初は『そのうち月1〜2回の投稿』に落ち着く予定でしたが、なぜか元気に休日更新が続いています。折角ここまで来たので、来年は話が完結するまでペースを守ることが目標です。

ということで、来年も引き続き読んでいただけると(さいわ)いです。

では、大晦日に読んでいるとは限りませんが、よいお年を。(^^)/


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