説得した
蒼竜様と私は、春高山の山頂に向かって登っていた。
山頂の方を見ると、煙が上がっている。
おそらく、晩御飯を作っているのだろう。
私は頭では別の可能性もチラつきはしたが、
「蒼竜様、煙が登っているところからすると、私の取り越し苦労だったようです。」
と自分を安心させるために話した。すると蒼竜様は、
「そうであろう?
竜人が約束したのだ。
よほどのことがなければ、違えたりはせぬよ。」
と言った。私は、
「人同士でしたら、易易と約束を違える人もいますが、やはり竜人は人格者が多いということなのですね。」
と安堵して言った。しかし蒼竜様は、
「そうでもないぞ?
人がそれぞれであるように、竜もそれぞれだ。
やはり、少しは約束を違える者もおる。」
と、顎に指を当てて話した。私は思わず眉間に皺を寄せたのだが、その様子を見ていたのだろう。蒼竜様は、
「なに。
雫は柄の悪い連中とは違うゆえ、安心せい。」
と付け加えた。私は、
「敵対しているかもしれないのにですか?」
と聞いたのだが、蒼竜様は、
「大きな枠組みで敵対していようとも、そう易易と個人の繋がりが断たれるというものでもあるまい。
第一、それで断たれるようであれば、そもそも浅い付き合いだったということであろう。
拙者らは、浅からぬ関係であるしな。」
と言った。私はさっきも似たような話をしたなと思いながら、
「そのようなものなのですか?」
と聞いた。すると蒼竜様は、
「昨日まで親友だったのに、上から『今日から敵同士です』と言われて、『はいそうですか』と言って親友をすぐ殺しに行くような輩もおるまい?」
と返事をした。私もなるほどと思い、
「確かに、私もそのような立場でしたら、すぐに殺せたとしても渋ると思います。
ひとまず、今夜は大丈夫だという見立てなのですね。」
と聞くと、蒼竜様は、
「ふむ。」
とだけ答えた。
しばらく歩いて山頂についた時、開口一番、更科さんが、
「それ、大っきい!
和人、凄ーい!」
と言って、背負子の熊を指さして褒めてくれた。私は、
「薫、ありがとうございます。
これを倒すときは、もう、死ぬかと思いましたよ。」
と返した。ちらっと雫様の方を見たところ、少し爪を噛もうとして止めたようにも見えたが、私がそういう疑いの目を持って見ているからだろうと思うことにした。そして、
「明日なのですが、この素材を売りに行きたいので、葛町の冒険者組合まで戻ろうと思っています。
ついでなので、薫と安塚さんも行きませんか?」
と誘った。すると、安塚さんが、
「薫ちゃんはともかく、なんで私にも来てほしいのかしら?」
と聞いてきた。なので私は、
「山小屋のところで狂熊を3匹倒しましたが、一応、一緒に行動しましたので、討伐報酬を3分割しようかと思いまして。
さすがにこちらの狂熊王の方は、私一人で倒しましたし、ちょっと物入りの用事もあるので全部いただこうと思いますが。」
と答えながら、更科さんの顔をチラ見した。すると更科さんは、
「わかったわ。
でも、『ちょっと物入りの用事』って、毎日お弁当を買わされるくらいで大げさなんだから。」
と答えた。しかし安塚さんは、
「薫ちゃんはもらうのね。
でも、私はただ居ただけなので、ちょっと気が引けるわね。」
と言った。なので私は、
「私もよくは知りませんが、冒険者という職業はそういうものなのだそうですよ。
先日、冒険者組合の人にも釘を刺されましたし。
なので、遠慮しなくても構いません。」
と、もうひと押しした。すると安塚さんは、
「それなら、蒼竜様も一緒にいましたよね。」
と言った。すると蒼竜様は、
「竜人が冒険者組合で換金したとあっては、示しがつかぬ。
皆で分けるがよかろう。」
と言った。これでようやく安塚さんも、
「蒼竜様がそう仰られるのでしたら。」
と納得してくれた。しかし、安塚さんは、
「でも、どうして咲花村で換金しないの?
確か、小さいけど冒険者組合は有ったはずよ?
そうでなくても、途中、大杉町もあるじゃないの。」
と聞いてきた。私は、咲花村だと朝行って昼過ぎに戻ってこれてしまうので、話がこじれたならば蒼竜様と雫様が戦っている最中かもしれないと思った。なので、
「すみません。
一応、薫も私も葛町の冒険者組合に登録しています。
他のところで換金すると、いろいろと手間が増えるかなと思いまして。
ほら、咲花村から葛町に、私が本当に登録されているか確認しないといけませんし。
大杉なら、私を知っている窓口の人もいますが、薫の方でちょっと事情がありまして・・・。」
と答えた。すると更科さんも、
「そうね。
大杉だと、ちょっと顔を合わせたくない冒険者の人とかと鉢合わせするかもしれませんし・・・。」
と複雑な顔つきで頷いた。安塚さんは、
「それなら、仕方ないわね。
ちょっと遠いけど、葛町まで行ってあげるわ。」
と言った。私は、
「そういうことなので、蒼竜様。
すみませんが、明日から修行をお休みして、葛町まで行ってきます。
ただ、葛町まで戻ると、1泊することになると思いますので、すみませんが、2日ほどお休みしても良いでしょうか。」
と聞いた。すると雫様が、
「なんや?
気ぃ遣って、夜も二人きりにしよう思ってんのか?」
と聞いてきた。私は、雫様がこちらの考えを察するのではないかとも思っていたが、そういう雰囲気でもなかったので、
「いえ、そういうわけではありません。
でも、確かに旧知の間柄なのでしたら、私達はお邪魔ですね。」
と、少し茶化すように答えた。雫様は、
「いや、そんな事ないで。
ちゅーか、あれや。
その・・・、蒼竜とは、昔、付き合とってん。
むしろ、めっちゃ気まずいねんけど・・・。」
と明後日の方を向いた。私は、
「あー。
そ、そうだったのですか?
申し訳ありません。
できるだけ早く戻って来ようとは思います。
が・・・、私達の足ではどうしても1泊になります。
その・・・、ご、ご容赦いただけませんか?」
と素で返した。雫様は、
「ま・・・、まぁしゃーない。
今回だけな?
次があるかは、知らんけど。」
と、少し頬を引きつらせながら了承してくれた。私は、
「なんか、すみません・・・。」
と謝った。蒼竜様も、
「まぁ、こちらはなんとかするゆえ、行くが良かろう。」
と困り顔をした。
私は、こんな調子で蒼竜様はちゃんと雫様と話し合いが出来るのだろうかと考えてしまったのだった。
蒼竜様:拙者らは、(男女の間だったゆえ)浅からぬ関係であるしな。
山上くん:(さっきも似た話、していたな。)そのようなものなのですか?
蒼竜様:(雫とは自然消滅したが、相変わらず仲は良いゆえ、親友でよかろうか。)昨日まで親友だったのに、上から『今日から敵同士です』と言われて、『はいそうですか』と言って親友をすぐ殺しに行くような輩もおるまい?
年末年始、長くなっていたら、現実逃避していると思ってください。(^^;)




