昔はモテたらしい
若干シモの話があります。
苦手な人はすみません。
今日の平村への配達も終わり、明日葛町に持っていく荷物の確認も終わり、先輩と一献傾けていた。
村で酒を飲むと言えば、ほとんどが家飲みなので、居酒屋は1件しかない。
田中先輩と私は、村唯一の居酒屋で小松菜を湯がいた後冷水で締め、ほぐした梅干しと一緒にだし汁にぶっこんで混ぜた後、鰹節をかけたような小鉢をつつきながら白く濁ったどぶろくを飲んでいた。酒も進んだ頃、私は
「先輩は横山さんのような人が好みなのですか?」
と聞いた。田中先輩は、
「おまえ、そう言う質問は数年来の友とやるものだ。」
と前置きをしたうえで、話し始めた。
「あれはポーターになってしばらくの頃だったか。
6人組だったかな。女性冒険者のポーターをした時の話だ。
寸胴よりすこしお腹が出ているような魔法使いがいてな。
あの頃は、まだ無理やりポーターにさせられてすぐだったから大変だったんだ。」
私は、
「何が大変だったのですか?」
と合いの手を入れると、田中先輩はお酒のせいで意味を取り違えたようで、
「まず、実家が襲われただろ、それでポーターにされた後はやたら重い荷物の運搬だろ、ポーターで売られた先の親方が目の前で暗殺されただろ。あぁ、いやそいつは死んで当然のことをやってたんだからいい気味だとも思ったんだが、やっぱり人が目の前で死なれるのはキツくてな。
それから、なんやかやで組織から着の身着のままで逃げだしただろ、金なんて持っていないから、冒険者組合に登録したは良かったが、右も左も分からないのをいいことに、冒険者からいろんな手当てをとられただろ。
あの頃、金は手元にはほとんど残らなくて大変だったなぁ。」
と、その当時大変に感じていた事を話していた。私は、
「手当ては貰うものではないのですか?」
と聞いた。すると、田中先輩は嫌な顔をしながら、
「やつら、冒険者組合の見ていないところだったんだがな。
わざと俺の方に行くように魔物と戦って、俺をかばったということで、救出手当てと称してポーターの費用を値引きさせたりな。
わざとたくさんの素材を採って、俺がもう持てないと音を上げたら、一部、冒険者自身が持って帰ってくれてな。優しい人達だと思ったら、半分は俺たちが運んだから運送手当てとか言って半額にされたりな。
いろいろといちゃもんをつけては銭をちょろまかされてな。
それが不正だと知って冒険者組合に言ったら、証拠を出せと言われてな。
あの頃は本当に大変だったんだ。」
と言った。私は田中先輩に、
「それはおかしいですよね。
冒険者組合は冒険者を紹介したくせに、人物の保証はしてくれないのですか?」
と聞いた。田中先輩は、
「冒険者のほとんどは荒くれ者だぞ。
そんなこといちいち気にしていられないだろう。」
と答えた。私は、
「なんか、無責任ですね。」
と言うと、目を逸らしながら田中先輩は、
「俺だって職員だったら同じ事を言うぞ。
なんせ面倒ごとは御免だ。」
と被害者のはずなのに冒険者組合を擁護した。私はこの辺で話が脱線している事に気がついたものの、先輩の女性関係を根掘り葉掘り聞くのも後輩として無礼が過ぎるだろうと思ったので、
「この頃はどのくらい手元に残ったのですか?」
と聞いた。すると、田中先輩は
「お前、それはさすがに聞いていい話ではないだろう。
女の話と金の話は、数年来の友とやるものだ。」
と私は怒られた。が、それで田中先輩はさっき話しかけていたことを思いだしたようで、
「それで、女性冒険者のポーターをやっていた時にな。
夜、襲われたんだよ。」
と言った。私は、
「どんな魔物だったのですか?」
と聞いた所、田中先輩はニヤニヤしながら、
「あぁ、あれは魔物だったな。
冒険者自身が襲ってきて、腕力に物を言わせてきてな。
あの時は身ぐるみはがされて、冒険者に追い剥ぎをされていると思って本当に怖かったんだ。
で、どうなったかくらい分かるだろ。」
と話した。
私は何があったかまだピンと来ていなかった。
田中先輩はにやけながら何かを思い出すように少し間を開け、続けて
「そういうことがあってな。
以来、そういう好みになってしまったんだ。」
と普段よりも饒舌な感じで話した。私は、どういう事があったのか分らず、
「それは遣る瀬無いですね。」
と言ってみた。すると田中先輩は、私が分っていると思ってか、つづけて、
「別の日に、この時とは別の魔法使いからな。
やっぱり襲われてな。
その時に『おまえ、どんだけ魔法を隠し持ってるのさ。全然効かんじゃないのさ』と言われてな。
相手に魔力を流すと体が反応してしまう事を聞いてな。
コツをつかんでからは、相性が良かろうが悪かろうがお構いなしの時期があってな。」
と田中先輩はドヤ顔で話した。私はようやく『女性冒険者に襲われた』という事の意味が分り、
「先輩はよほどモテたのですね。
でも、お構いなしはダメじゃ無いですか?」
と聞くと、田中先輩は、
「あのころは相手の事なんて考える余裕が無いほど病んでてな。
まぁ、あれだ。
あの頃のストレス解消はそれしか無くてな。」
とやや苦笑いしながら返した。私は、ストレス解消で抱かれた女性にとっては、大変迷惑な話しだと思った。ふと、飲み会の事が頭をよぎり、
「横山さんはどうするんですか?」
と聞いてみた。すると田中先輩は、
「さすがに今はこの歳だ。
相手の事もちゃんと考えるぞ?
そういう雰囲気になったらだな。」
と言った。
どうやら若い頃はやんちゃしていたが、今は落ち着いたということらしい。
ちなみにこの後、どうしても気になって田中先輩に女性に魔法を流す方法を聞いたのだが、
「山上が女たらしになっちゃならん。」
と言って、教えてくれなかった。
田中先輩は独身の設定です。