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付いて来ることになった

* 2021/09/16

 誤記の修正と、内容が変わらない範囲で微修正しました。

 更科屋に向かう途中、どこかで聞いた女性の声がした。


「あ、いた!

 なんとか間に合ったわね。」


 私がその声の方を見ると、そこには明らかに旅の準備をした安塚さんがいた。相変わらず胸が大きいので、つい目が行ってしまうが、なんとか顔の方に視線を軌道修正した。私は、


「安塚さん、こんにちは。

 その、『間に合った』とはどういうことでしょうか?」


と聞いたところ、安塚さんは、


「今朝、横山教授から山上くんが竜人の修行をすると聞きまして。

 料理でも、洗濯でも、何でもしますので、是非、見学をさせていただけないでしょうか!

 それで論文を1本、書かせていただきたいのです。」


と答えた。私は急の申し出で頭の整理が付かないまま、


「一応、修行に本来、門外不出のものが含まれる可能性もありますので、蒼竜様に許可を取っていただけないでしょうか。

 あと、今回薫も同伴しますので、家事担当は要りませんよ?」


と、事実はともかく、断るための口実を言った。しかし安塚さんは、


「また、また。

 いいとこのお嬢さんの薫ちゃんが家事なんて出来るわけないじゃない。

 ちょっと夢見すぎよ?

 その点、私は良家じゃなくて普通の平民の()だから、安心していいからね!」


と、更科さんが家事が出来ない事はだいたいバレていた。しかし、本人が実演できる状況でもないので、


「薫の味噌汁を超えるようなら、考えますよ。」


と、お醤油を使った味噌汁を思い出しながら言った。これなら、全部(うそ)というわけでもない。それにしても、いつから『ちゃん』付けで呼ぶほど仲良くなったのだろうかと不思議に思う。

 安塚さんは、


「本当に作れちゃったりするんですか?」


と恐る恐る聞いてきたので、私は真実味を持たせるために、


「簡単な料理だけですが、なかなかですよ?」


と説明した。安塚さんは、


「う〜ん。

 でも、まぁ、得意料理がかぶっているとも限らないし、作れる人は多いほうがよくない?

 それに、私、たまに野外調査とかもやるから、食べられる野草とか詳しいわよ?」


と言った。分室とは言え、流石(さすが)は王立魔法研究所の研究員だと思った。それに、ご飯の種類が豊富になるのは、それだけで楽しみが増えるのでありがたい。私は、


「それなら、蒼竜様に掛け合ってみましょう。

 実質、田中先輩の差し金ですし。

 ただ、それでも論文には出来ないかもしれませんよ?」


と聞いてみた。すると、


「そんなのは、バレなきゃいいのよ。竜人が竜人の論文を二六時中観察しているわけでもあるまいし、数年後なら大丈夫に違いないわ。」


と言っていたので、私は横山さんではないが、何かやらかすんじゃないかと思い、今から冷や汗が出てきた。私は、


「その、そういう事なら論文の許可が降りなかった段階で帰ってもらってもいいですか?」


と釘を差した。安塚さんは、


「そんな、殺生なことは言わないでくださいよ。

 薫ちゃんには、山上くんが私の胸を凝視していたことは黙っていてあげますから〜。」


と、上目遣いで甘えるように言ってきた。私は、つい安塚さんの胸元を見てから目線を上げ、


「それはそれ、これはこれです。

 第一、私が連れてきたせいで秘密がバレたとなっては、私どころか薫まで害が及びかねません。

 それに胸を凝視したくらいなら、薫なら私のことは許してくれると思いますし。」


と返した。安塚さんは、


「それは男の側の勝手な言い草よ。

 心の内にそういうのが積み重なっていくと、だんだんと心が離れて最後には別れることになるのよ?

 もちろん、薫ちゃんは今は山上くんに()れているから、すぐには問題は起きないと思うけどね。」


と、恐ろしいことを言ってきた。確かに、後々の火種になるかもしれないと思った。しかし、程度の問題で言えば、竜人様から何かされる方が怖い。私は、


「それでも、竜人様がその気になれば私はハエや蚊と変わらない程度の力でしょうから、そちらのほうが怖いです。

 安塚さんは怖くないのですか?」


と聞いてみた。すると、安塚さんは、


「冒険者が日々命を張っているほどではないにせよ、研究者だって多少は命を張っているのよ?

 害があるからって研究を()めたのでは、学問も文化も大して発展はしないのだからね。」


と言った。私は研究者は安全なところで研究していると思っていたのだが、どうもそうとは限らないのかなと薄っすらと考えながら、


「覚悟は分かりましたが、これ以上ここで話をしても仕方がありませんので、一先ず蒼竜様と合流しましょう。

 後は、蒼竜様がどのように言うか次第(しだい)です。」


と返した。安塚さんは、少し複雑な表情を浮かべながら、


「分かりました。

 今はそれで、・・・仕方がないです。」


と少し下を向きながら言った。私は、


「命あっての物種(ものだね)ですし、なるべく安全第一で生きましょう。」


と答えた。



 二人で更科屋に到着したのだが、安塚さんと一緒だったので何となく後ろめたくて、


「ちょっと、ここで待ってもらってもいいですか?

 もし、蒼竜様が来ているなら、お話してみます。」


と言って安塚さんに外で待ってもらって、私だけ中に入った。更科屋は営業時間中なので、入り口が開いている。

 中に入ると、


「思ったよりも遅かったな。

 薫はもう準備ができているようだぞ。」


と、お兄様が声をかけてきた。私は、


「こんにちは、お兄様。

 約束はお昼頃だったので、まだちょっと早いかなとも思って時間を潰して来たのですが、気にしなくても良かったようですね。

 ひょっとして、蒼竜様も、もうお越しですか?」


と聞いたのだが、お兄様は、


「それはまだだが、蒼竜様が来た後なら、それこそ切腹ものだぞ?」


と言われた。私もそう思ったので、


「そうですよね。

 蒼竜様をお待たせできるのは、人間では田中先輩くらいでしょうから。」


と答えた。お兄様は、


「いやいや、流石(さすがに)にそれは・・・。」


と言ったが、私が苦笑しながら、


「旧知と言っていましたし。」


と言うと、お兄様は、


「そうなのか?」


と聞いてきた。そこに蒼竜様がやってきて、


「なんだ?

 田中の話か?」


と聞いてきた。私は、


「これは蒼竜様。

 はい。

 普通、目上の人を待たせるのは良くないので、先に来るものですが、蒼竜様と田中先輩に限っては、田中先輩が遅れてきそうだという話をしていました。」


と言うと、蒼竜様は、


「あぁ、そういう話か。

 なるほど。

 田中はたまに約束をすっぽかしたりするな。

 そのせいで、雪の中を1日待たされたことがあるぞ。

 後で話を聞いたら、雪が降ってきたから今日は来ないだろうと、勝手に決めつけていたそうだ。」


と、当時を思い出したのか、苦笑いをしていた。私は、


「これが笑い話で済むというのは、やはり、仲がよいのですね。」


と言ったのだが、蒼竜様は、


「前にも話したかもしれんが、田中のせいで強制的に反逆者にされたから妙な連帯感があってな。

 まぁ、そのせいだろうな。」


とはっきりと肯定はしなかった。

 そこで待ちかねたのか、安塚さんが入ってきた。

 そして、


「あの、山上くん。

 そろそろ話はついた?」


と声を掛けてきた。私は慌てて安塚さんに、


「えっと、すみません。

 忘れていたわけではありませんが・・・、」


と言い訳してから、蒼竜様に、


「こちらは安塚さんと言いまして、王立研究者の分室で働いています。

 今回、田中先輩の知り合いから私の修行の話を聞いたそうで、黒竜帝の研究の一環で見学したいと言っているのですが、問題ないでしょうか?」


と確認をした。すると、


「黒竜帝のか?

 いや、修行は黒竜帝とは関係ないし、見ていてもつまらんぞ?

 それに山での修行だが、そうだな・・・。 

 ちゃんと付いて来られるなら考えてもよいぞ。」


と少し心配そうに言った。安塚さんは、


「私は、野外調査でそこそこ山歩きをしていますので、更科さんも同行するのでしたら問題ないかと思います。

 なので、是非お願いします。」


と答えた。すると蒼竜様は、


「ふむ。

 よし、よかろう。

 人数が増えてきて(にぎ)やかになるな。」


と嬉しそうに言った。安塚さんも、


「ありがとうございます。

 山上くんへの『名付け』というのも楽しみです。」


と喜んでいた。どうやら安塚さんは名付けの話も聞いていたようだ。蒼竜様は、


「あぁ、なるほど、修行と言うよりもそっちか。

 確かに、研究者なら興味を()かれるか。

 安塚と言ったか。

 鑑定は出来るのか?」


と確認をした。すると安塚さんは、


「はい。

 私自身は鑑定は出来ませんが、そのための魔道具をちゃんと持ってきました。」


と自信満々に言った。蒼竜様は、


「魔道具か。

 まぁ良いが、確かこの手の魔道具は精密機器でかつ、高価だったと記憶しておる。

 場所が山なだけに、間違っても壊さないように注意しろよ。」


と言った。安塚さんは、


勿論(もちろん)です。」


と言ってから、少し自信なさげに上目遣いで、


「ところで蒼竜様?

 修行や名付けを論文にまとめたいのですが、宜しいでしょうか。」


と聞いた。すると蒼竜様は、


「1ヶ月では、どうせ大したこともできん。

 まぁ、特に問題ないだろう。」


と許可したのだが、


「ただ、一部で王族が制限を掛けている情報もあると聞く。

 触れて処分されないようには気をつけろよ?」


と脅していた。安塚さんは、


「それは大丈夫です。

 『蒼竜様が教えてくださった』の一言で押し切りますから。」


と言ったのだが、蒼竜様は、


「人間の側の話だからな。

 それが通用するかは保証はできんぞ?」


と返した。安塚さんは、


「まぁ、その時は運がなかったと思って(あきら)めます。」


と、きっぱり言い切った。そして安塚さんは、


「今日から暫くお世話になりますが、よろしくお願いします。」


と挨拶をした。

 こうして、安塚さんも修行についてくることになったのだった。


蒼竜様:修行なんて見ていてもつまらんぞ?それと山での修行だが、ちゃんと付いて来られるならよいぞ。

安塚さん:私は野外調査でそこそそ山歩きはしていますので、更科さんも同行するのでしたら問題ないかと思います。なので、是非お願いします。

山上くん:(あれ?昨日の自身番では更科さんが行くという話は無かったはずなのだが・・・。)

蒼竜様:(更科が付いていく話は山上がしたのだろうか。)よし、よかろう。人数が増えてきて賑やかになるな。


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