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早めに周知した方が良いかも

 (かわや)での用を済ませた後は、自室に戻るべく移動を始める。

 日が昇る前なので、晴れていれば星空が広がっている(はず)なのだが、今朝(けさ)生憎(あいにく)(くも)り空。

 真っ暗な中、温度を見るスキルを(たよ)りに飛び石を(わた)る。


 古川様が水を()み出してくれている井戸の近くを通り、そのままお勝手に移動。

 お勝手に入ると、今朝は(めずら)しく、お勝手の人が(かまど)に火を入れていた。

 お陰で、いつもよりもほんの少しだけだが温かい。


 私が、


「おはようございます。」


挨拶(あいさつ)をすると、お勝手の人も、


(おど)りのかい。」


と挨拶を返す。私は、


今朝(けさ)は、いつもよりも早いのですね。」


と質問すると、お勝手の人は、


「今朝は、偶々(たまたま)、早く目が()めてね。」


と答えた。私は、そのような訳がないだろうと思い、


「そうなのですね。

 私はてっきり、手が込んだ料理でも仕込(しこ)むのかと思いました。」


と笑いかけてみたのだが、お勝手の人は、


「いえいえ。」


と苦笑い。話すつもりはない模様。

 私は、


「そうなのですね。」


と軽く返し、お勝手の人も、


「はい。」


と頷いた。


 お勝手から、廊下に出る。

 下女の人がいない事を確認し、腕を軽く(さす)りながらつま先立ちで冷たい廊下を歩く。

 部屋に戻ったら、白装束に着替えをする。

 途中で更科さんが起きてきて、手伝ってくれた。

 私は、


「いつも有難うございます。」


とお礼を言った後、そう言えばと思い、


「そういえば、先程、紅野様とお会いしまして。

 丁度よいので養子の件を聞きましたが、まだ(しばら)くは、時間がかかるのだそうです。」


と情報共有した。更科さんは、


「そうなんだ。」


と返し、


「良い子が見つかると良いわね。」


とあまり表情を感じない笑顔。やはり、自分で生みたいのだろうか。

 だが、これは私が原因で、禍津日神(まがつひのかみ)()御霊(みたま)から、子を残せないようにされたのだ。

 更科さんは、悪くない。

 私は、


「そうですね。」


と返したが、申し訳無さで胸が一杯になった。



 白装束に着替えた後は、例によって井戸まで移動する。

 先に古川様と、佳央様が待っていて、佳央様から、


「遅いわよ。」


と言われてしまった。私が、


「申し訳ありません。」


と謝ると、古川様が、


「それは・・・いいから・・・ね。

 始める・・・わよ。」


と井戸から水を()み上げた。

 祝詞を上げて、水を(かぶ)ってを繰り返す。

 禊が終わった時、佳央様が、


「佳織がいないと、直ぐに終わるわね。」


と指摘した。私は、


「そうですか?」


と確認したが、心当たりしかない。

 私は、これからからかわれるのだろうと思ったが、佳央様は、


「まぁ、良いけど。」


と軽く流した。こういう事もあるようだ。

 私は、


「それよりも、今朝はお勝手の人が早起きしていました。

 何が出てくるのでしょうね。」


と話を変えると、佳央様は、


「さあ?」


と首を(ひね)ったのみ。私は、


「美味しい物が出てくると良いですね。」


と言うと、佳央様も、


「そうね。」


と同意した。



 一旦、自分達の部屋に戻った後、朝食の時間となったので、いつもの座敷に集まる。

 私が、再び今朝の事を引き合いに出して、


「今日は何でしょうね。」


と話していると、障子(しょうじ)の外から下女の人から、


朝餉(あさげ)をお持ちしました。」


と声がかかった。佳央様が許可を出し、(ぜん)が運び込まれてくる。

 その膳の上には、朝にしては珍しく、お刺し身が乗っていた。

 他は、紅白膾(こうはくなます)と白菜のお漬物、大根と人参のお味噌(みそ)汁と、白米。代わり映えがない。

 私は、


「煮物のような、時間の掛かる料理はないのですね。」


と言うと、下女の人は、困った顔をしながら、


「お勝手に伝えておきます。」


と返した。が、勿論(もちろん)、これは苦情の申立ではない。

 私は、


「いえ、結構です。」


と慌てて否定すると、下女の人は、


「分かりました。」


と引いてくれた。



 食事が終わり、雑談の時間となる。

 私は、


「古川様。

 昨晩、里が出来た当初から瘴気の発生する中心が変わっているので、呪い(紫魔法)も変えたほうが良いと聞きました。

 もう、検討は始まっているのでしょうか?」


と聞いてみた。古川様は、


「中心・・・?」


と困った顔になり、


「変えた方が・・・良いの・・・ね?」


と逆に確認された。私は、


「そう、聞きました。」


と答えると、古川様は、


「後で、・・・聞いてみるわ・・・ね。」


と返したものの、困惑顔。私が、


「竜の巫女様が、既に気づいているのだそうでございます。」


と説明したが、古川様は、


「えっと・・・。」


と眉根を寄せた。そして、


「そうなの・・・ね。」


と返事はしたものの困り顔。古川様は、全く聞いていなかったようだ。

 私は、


「竜の巫女様に、早めに周知した方が良いかもしれませんねとお伝えください。」


とお願いすると、古川様は、


「解った・・・わ。」


と了承したのだった。


 本日は、投票に出掛けてきたのもあって、かなり短めです。


 作中のお刺し身は、ワニの刺し身を想定しています。このワニの刺し身、広島県の一部(備北地域)の伝統料理なのだそうで、サメを生食する地域は、ここの他は宮崎くらいにしかないのだそうです。

 ただ、同地域でも、一般家庭でワニの刺し身が食べられるようになったのは明治以降なのだそうなので、江戸時代風と銘打っている本作では時代考証的にはNGの可能性が高いようです。

 例によって、この世界では食べられていたという事でお願いします。(^^;)


・ワニの刺身 広島県

 https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/42_1_hiroshima.html

・ワニ料理

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%83%AF%E3%83%8B%E6%96%99%E7%90%86&oldid=103570217

・みんなでつなぐ水 火の国 水の国 熊本

 https://www.mizu.gr.jp/kikanshi/no70/15.html

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