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長谷川さんにも挨拶を

 大杉町に着いた時、昨日と同じ門番さんが立っていたいた。

 私が、


「おはようございます。

 昨日はお世話をおかけしました。」


と挨拶すると、門番さんも、


「これは昨日の。

 こちらこそ、偽物の侍なんぞ申し訳なかったな。」


と謝ってきた。私は、


「いえ、私だって自分が襲われていないのでしたら、見かけだけで信用すると思います。」


と返した。門番さんは、


「そう言ってもらえると助かる。」


と言って、門番が軽く頭を下げた。

 私はそれを見て慌てて、


「そんな、頭を下げるようなことは。」


と言って、こちらもお辞儀(おじぎ)した。


 まだ、約束のお昼までは時間があった。

 武器屋に行こうかとも考えたが、場所もわからないし、一人で行っても武器の良し()しも判からないので、そのうち田中先輩がいる時にでもしようかと思い直した。

 そう言えば昨日の事件を冒険者組合に報告していないなと思い、長谷川さんのところに顔を出そうと思った。

 冒険者組合の中に入ると、葛町よりも大きな町なだけあって受付の窓口も4つもあるのだが、時間帯のせいか、今は窓口が2つしか開いておらず、全部で2〜3人の冒険者の人が並んでいるだけだった。

 少し、ウロウロしてみたが、約束もしていないし迷惑だろうと思い直し、やはり一人でも武器屋に行こうかな思い直して外に出ようとしたところ、少し年上のお姉さんから、


「君、さっきから落ち着かないようだけど、何か用事なの?」


と声を掛けられた。(はた)から見れば挙動不審だったと思うので、それで声を掛けられたのだろう。私は、


「いえ、特に用事というわけでもございません。

 こちらで長谷川様を見かけたら、少しだけお話しようかと思ったのですが、流石(さすが)に普段から表に出てくる人でもありませんので、もう帰ろうかと考えていたところでして。」


と答えた。お姉さんは、


「長谷川さん?

 私が知らないくらいだから、有名な冒険者でもなさそうね。

 一緒に依頼をこなしているの?」


と聞いてきた。私は、


「いえ、私が言っている長谷川様は組合長の長谷川様です。

 以前、何度かお話をしたことがあるだけでなのですが、ちょっとご報告したい事があったので、お時間があるようなら、お話をしたかっただけです。」


と、自分でも要領を得ていないなと思いながら回答をした。お姉さんは、


「組合長とお知り合いなのですか?

 申し訳ありません。

 私は話など、したことがありませんでしたので、すぐに誰かわかりませんでした。」


と、あからさまに敬語になった。私は、


「いえ、その、私もちゃんと説明しませんでしたし。

 それに、やはりお忙しいと思いますので、今日は帰ろうと思います。」


と、年上の人が急に敬語に変わったので緊張しながら答えた。

 そこに、手が空いたのだろうか、20過ぎくらいの男性の職員さんがやってきて、


「えっと、君は山上くんですか?

 葛町の拳骨(げんこつ)の。」


と声を掛けられた。私は、


「はい。

 確かに私は山上ですが、その、『拳骨の』とは何でしょうか?」


と返事はしたものの、聞いたこともない通り名みたいなのが付いていたので確認してみた。職員さんは、


「あぁ、失礼しました。

 その、先日、葛町のみなさんが懇親会で、今年の新人に拳骨で狂熊を倒したのがいると言って自慢をしていまして、その話に出てきた背格好に似ていたもので、声を掛けました。

 ただ、場所も違いますし、和装と聞いていましたので、ひょっとしたら違うのではないかと半信半疑ではありましたが。」


と答えた。私は、


「あぁ、あの話が出回っていたのですね。

 私もまさか、狂熊が拳骨で気絶するなんてことがあるとは思っていませんでしたよ。」


と思い出しながら話した。職員さんは、


「あれは、実話なのですね。

 それにしても、狂熊はかなり大きでしょう?

 山上くんは背も高い方ではないと思いますが、よく頭まで手が届きましたね。」


と聞いてきた。私は、


「熊の基本姿勢は四つん這いですからね。

 その時も四つん這いだったから、拳骨が出来たんですよ。」


と答えた。職員さんは、


「あぁ、なるほど。

 そういうことでしたか。

 狂熊も走る時は四本足ですし、考えてみれば当然ですね。」


と言ったのだが、隣のお姉さんが怪訝(けげん)そうに私を見てきた。お姉さんは職員さんに、


「その、山田さん。

 この山上くんは、見た目によらず、かなりお強いのですか?」


と聞いてきた。すると、


「そうらしいのですよ、菅崎(すがさき)さん。

 なんでも、聞いた話では、講習を受ければ中級冒険者になれる実力なのだそうですよ。」


と答えた。どうも、この女性は菅崎さんと言うらしい。菅崎さんは、


「そんなにですか!

 私よりも年下に見えるのに、もう一人前の男子なのですね。」


と驚いていた。山田さんは、


「そうなのですよ。

 どうも、田中先生のお弟子さんらしくて。

 やはり物が違いますね。」


と説明した。私は一部、誤解が含まれているようだったので、


「確かに、田中先輩には先生をしてもらっていますが、あくまでも歩荷の指導をしていただいているのであって、冒険者として教えてもらっているわけではないのですが。」


と、()()()としての弟子ではないことを強調した。菅崎さんは、


「歩荷なのですか?

 それにしては、ついこの(あいだ)卒業したばかりの、駆け出しの冒険者のような身なりですが・・・。」


と言いながら、頭の天辺から足の指先まで凝視された。なんとなく視線がこそばゆい。

 菅崎さんは、


「それでも、ちょっと目を掛けただけでこの強さになるのですね。

 私も、ちょっと見てもらいたいですよ。」


(うらや)ましそうに言った。私はあまり謙遜しすぎても嫌味になるので、


「いえ、本当に私は運が良かったのだと思います。

 本来は、田中先輩も冒険者の人に教える方が世の中のためになるのでしょうが、今は先輩も歩荷ですので、私みたいな凡人で申し訳ない限りです。」


と控えめに話した。しかし菅崎さんは、


「凡人だなんて、狂熊を素手で倒せる人なんてそうそうおりませんし、謙遜しすぎというものですよ。」


とにこやかに話した。私は『失敗した』と思い、


「すみません。」


と謝って、頭を()いた。

 話も一区切り付いたところで山田さんが、


「それでは、山上さん、これから組合長の部屋に行きますか。」


と言ってくれた。どうも、さっきの菅崎さんと私の会話を聞いていたようだった。私は、


「お約束も取り付けていませんが、大丈夫ですか?」


と聞いたところ、


「いえ、今日は多分大丈夫ですよ。

 急ぎと言うほども案件もないはずですし。」


と答えた。私は、


「ありがとうございます。

 では、山田さんのお言葉に甘えさせていただきます。

 すみませんが、長谷川様のところまでよろしくお願いします。」


と言って、組合長室まで連れて行ってもらった。

山田さんは扉を叩き、


「失礼します。

 山上さんが来ていましたのでお連れしましたが、今、お時間は大丈夫でしょうか。」


と、部屋の中に声を掛けた。中から長谷川さんが、


「ふむ。

 入っていいぞ。」


と声がした。山田さんが扉を開けると、長谷川さんが自席で書類に目を通していた。机の上には、1〜2寸(だいたい5cm)くらいの書類の束が右に5〜6束、左に2束ほど積み上がっている。長谷川さんは、


「おや?一人か。

 まぁ、いい。

 更科の件か?

 あれは災難だったな。

 確か、昨日蒼竜様に助けていただいたのだったか。」


と言ってきた。どうやら長谷川さんは、既に昨日の事件とその顛末(てんまつ)を知っていたようだった。私は、


「はい。

 お陰様で、蒼竜様にもご助力いただき、解決することが出来ました。」


と話した。すると長谷川さんが、


「大杉町で起こった事件だから私にも報告と言ったところか。

 まぁ、大体の顛末は聞いている。

 更科は大変だったな。」


と言った。私は、


「はい。

 一応、薫も皆の前ではケロッとしていましたが、本心がどうだったかは気になるところです。

 私にも『遅い』と一言(ひとこと)あったのですが、それはもう、ぞっとしまして。」


と、思い出して思わず眉間にシワを寄せながら話した。長谷川さんは、


「えてして女は、こと貞操に関しては触らぬ神になんとやらだ。

 本人が話さない限り、あまり言わぬほうが良いだろう。」


と言った。私は、そうなのだろうかと疑問に思いながらも、


「そういたします。」


と答えた。

 その後、小鷹(おだか)さんという長谷川さんの秘書がお茶を持ってきてくれた。

 小鷹さんは40代の男性で、もう20年ほど長谷川さんの秘書をしているらしい。

 私は少しだけ雑談をした後、


「あまり長居してもご迷惑ですので、そろそろ帰らせていただきます。

 本日はお忙しいところありがとうございました。」


と長谷川さんに声を掛けた。長谷川さんも、


「いやなに。

 ちょうど、いい息抜きになった。」


と言って、気にしている様子ではなかった。私は、


「あと、更科さんと私は、今日から1ヶ月くらいの予定で蒼竜様に修行を見てもらうことになりまして、暫く戻らない予定です。

 もし、あの件の調査で用事があるようでしたら、すみませんが来月にお願いします。」


と話した。長谷川さんは、


「ふむ。

 公家から何か言って来るかもしれんが、蒼竜様が側にいると言えば問題ないか。」


と言った後、


「もし、何かあればどこに言えばいいか?」


と聞いてきた。私はあまり自信はなかったので、


「はっきりと聞いてはいませんが、田中先輩に(ことづ)けてもらえると、直ぐではないにせよ連絡は着くのではないかと思います。」


と答えた。長谷川さんは、


「分かった。

 竜人がどんな修行を付けてくれるかは分からんが、滅多にないことだから気張(きば)ってこいよ。」


激励(げきれい)してくれたので、私は、


「ありがとうございます。

 修行に精を出してこようと思います。」


と言って冒険者組合を後にし、更科屋に向かったのだった。


山上くん:こちらで長谷川様を見かけたら、少しだけお話しようかと思ったのですが、流石に普段から表に出てくる人でもありませんので、もう帰ろうかと考えていたところでして。

菅崎お姉さん:(表に出てこないって、裏稼業の人・・・なわけ無いか。)長谷川さん?私が知らないくらいだから、有名な冒険者でもなさそうね。一緒に依頼をこなしているの?(純朴なところが母性をくすぐるっていうか。。。相手がいないなら、ちょっと一緒に依頼を受けてもいいかも。)

山上くん:いえ、私が言っている長谷川様は組合長の長谷川様です。

菅崎お姉さん:(ヤバ!純朴な顔して、めちゃ偉い人の知り合いじゃないのよ!ひょっとしていいとこのボンだったりする?(^^;)今更でも、敬語とか使ったほうが印象いいよね?)


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