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手本としては上

 谷竜稲荷(ろくりょういなり)の社の中、子狐達との話し合いが続く。

 現在の話題は、子狐達の仲間と、それらに悪戯(いたずら)を指示しているという『巫女様』が誰かについて。

 私は狐講(きつねこう)に問題の巫女様がいるのではないかと(うたが)っていたのだが、氷川様はそれを完全に否定。

 私は、これらを誰に聞けば答えてくれるのかと、悩んでいた。


 一先ず、古川様に、


「何かご存じないか、竜の巫女様に聞いていただいても良ろしいでしょうか?」


とお願いしてみた。が、氷川様が、


「ここは、稲荷の巫女様に聞くが(すじ)じゃろう。」


と指摘した。言われてみれば、その通り。

 だが、私にとっては、竜の巫女様の方が(たの)(やす)い。

 私は、


「筋で言えば、その通りだと思います。

 ですが、竜の巫女様は私の事を、よく見ていらっしゃいます。

 ですので、この件も、既に見て下さっているかも知れませんので。」


と反論した。氷川様が、


「む。

 そうやもしれぬが、先に筋じゃ。」


(ゆず)らない様子。

 私は、遠回りになる予感はしたが、筋と言われては仕方がないので、


「分かりました。

 では、氷川様。

 稲荷の巫女様に、ご確認をお願いします。」


と頼む事にした。氷川様は、


「うむ。」


(うなづ)くと、目を(つむ)った。



 (しば)くして、氷川様が目を開ける。

 私は、


如何(いかが)でしたか?」


と聞いたが、氷川様は、


「確認して下さるそうじゃ。」


と返事。時間がかかるようだ。

 私は、その前にと考え、


「では、竜の巫女様に聞いてみましょう。」


と古川様に言ったのだが、氷川様が、


「いや、待て、待て、待て、待て、待て。

 答えを聞いてから動くが、筋じゃろうが。」


と待ったが掛かる。

 それもそうだと思った私は、


冗談(じょうだん)ですよ。」


調子(ちょうし)良く笑って誤魔化(ごまか)した。そして、


「それで、どのくらいで返事が来ると思いますか?」


と話を変える。氷川様は、


「恐らく、午後かのぅ。」


と言ったので、私は、


「では、その間に新年の準備でも行いますか。」


と声を掛け、氷川様も、


「そうじゃな。」


と同意した。



 (わら)の近くに移動し、亀の形のお守りを()み始める。

 古川様と氷川様は、1寸近くある厚さの書物から、何か文章を紙に書き写しており、佳央様は、紙垂(しで)を作っている。


 稲荷神の()御霊(みたま)が、『しっかり見て(おぼ)えるのじゃぞ』と言っていたので、時折(ときおり)、氷川様の様子を確認する。

 だが、氷川様は古川様と同じ事をやっているだけだ。

 何故、氷川様だけ名指しだったのか、不思議に思いながら作業を行う。


 暫くして、古川様から、


(たま)に、・・・こちらを見てるけど、・・・どうした・・・の?」


と聞いてきた。私は、


「稲荷神の分け御霊様から、氷川様の動きを覚えるようにと言われましたので。」


と答えると、古川様は少し考え、


「何をしているように、・・・見える?」


と聞いてきた。私は、少し不安になりながら、


「本から紙に、何か文章を書き写しているのですよね?」


と確認した。すると古川様は、


「そう・・・ね。」


と同意。そして、


「魔法の動きも、・・・見てる?」


と確認した。だが、そのような事は思いつきもしなかった。

 私は、


「いえ。」


と正直に答えると、古川様は、


「どう・・・かな?」


と確認する。これは、今、私が魔法を見ている前提での質問だろう。

 慌ててスキルで魔法を見ると、魔法を使っているのが見えた。

 私は、


呪い(紫魔法)ですか?」


と質問をすると、古川様は、


「ええ。」


と答えた。私は、


「ですが、何故、氷川様なのでしょうか?

 古川様も、同じように写していますのに。」


と疑問を口にすると、古川様は、

 

「氷川の方が・・・、良く見えるから・・・かな。」


と説明をした。私は、意図が解らず、


「良く見える?」


と氷川様の方を見ると、氷川様は、


「言っておくが、薄く均一(きんいつ)に書けた物の方が、上等じゃからな。」


と気まずそうに言った。これは、古川様よりも氷川様の方が下手糞(へたくそ)だと、自分で説明させた形となる。

 私は、


「申し訳ありません。」


と謝り、


「分かりました。」


(うなづ)いた。


──それにしても、下手なのに手本としては上と言うのは妙な話だ。


 私は、そんな事を考えながら、


「雑談はこの辺りにして、もう作業に戻りましょうかね。」


と伝え、止まっていた手を、私は動かし始めた。


 今回も短めです。

 あと、ネタも仕込み損ねたので、代わりにしょうもない話を一つ。


 本作では、「呪い(紫魔法)」がちょくちょく出てきますが、こちら、ルビに「紫魔法」と表記している都合上、読み方が書かれていません。(今更気づいた)

 この「呪い」、(ほとん)どは「まじない」と読んでいただく想定ですが、一部、例えば『置いてかれるばかりね』の回で更科さんが「(のろ)い」と言っていたように、「のろい」と読んでもらいたい場面もあります。

 このような、同じ漢字で、場合によっては送り仮名まで同じにも関わらず、複数の読み方が存在するものは、他にも(いく)つかあります。

 例えば、「市場」と書いて「いちば」「しじょう」とか、「怒る」と書いて「おこる」「いかる」と言った具合です。

 「市場」ならば規模が違う程度なのでまだ良いのですが、「呪い」はニュアンスも変わります。

 ですので、せめて後書きに残すなりすれば良かったなと思ったおっさんでした。(「怒る」はルビフリですね(^^;)


・呪い

 https://ja.wiktionary.org/w/index.php?title=%E5%91%AA%E3%81%84&oldid=2028789

・市場

 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%B8%82%E5%A0%B4

・怒る

 https://ja.wiktionary.org/w/index.php?title=%E6%80%92%E3%82%8B&oldid=1697020

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