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更科さんを家まで送った

先週に引き続き、今週もブックマークのご登録が1件ありました。

ブックマークして下さる方はあまりいないので、ありがたい限りです。

この場を借りて、御礼申し上げます。


 大杉のお城を出た後、私達は更科屋に帰った。

 帰り道では、更科さんに弟君が無事だということを伝えたり、はじめてお殿様のお屋敷に入ったことを話した。

 更科屋につくと、店は既に閉まっていたが、中から明かりが漏れていたので、まだバタバタしているようだった。

 私は、引き戸を軽く叩いて、


「こんばんは。

 ただ今戻りました。」


と中に声を掛けた。するとお兄様が、


「和人か?

 入りなさい。」


と返事をしたので、引き戸を開けて、私、更科さん、岡本様、蒼竜様の順に中に入った。

 お兄様は更科さんを見て駆け寄ろうとしたが、岡本様や蒼竜様の姿を見て慌てて土下座し、


「この度は色々とご尽力いただき、誠に感謝いたします。

 妹が無事に帰ってこられたのも、蒼竜様や岡本様のお力添えがあってのこと考えております。

 本当に、どのようにお礼を申し上げたらよいかわかりません。」


と、少し早口で言った。今すぐにでも更科さんに駆け寄りたいのを()し殺しているのが丸分かりだ。と、そこに、店先が騒がしかったので、私たちが帰ってきたことを察したのだろう、お父様がやってきた。お父様は、更科さんの姿を見るなり、慌てて駆け寄り、


「薫、無事で何より。」


と言って、肩を両手で(つか)んだ。そして、


「何かされなかったか?」


と聞いてきた。すると更科さんは、


「されました。

 でも、もう蒼竜様が釘を刺してくださったので大丈夫のはずです。」


と苦笑いしながら言った。お父様は動揺するも、そこで蒼竜様が来ていることに気がついたようで、慌てて頭を下げて、


「この度は娘を連れ戻していただき、お礼のしようもございません。」


と感謝を伝えた。蒼竜様は、


「なに、拙者も急ぎの用事もなかったし、乗りかかった船だったからな。

 大したことではない。

 ただちょっと・・・、いや、何でもない。」


と言って口ごもった。私には蒼竜様は一体何を口ごもったのかは分からなかったが、先程の『想定外』が今も尾を引いているのかもしれない。お父様が、


「その、途中まで言いかけて()められると、少々気になってしまうのですが・・・。」


と言った。蒼竜様は、


「いや、なんでもない。

 忘れてくれ。」


と言って、ちらっと更科さんを見てからため息をついた後、私に、


「奥方は強いな。」


と一言だけ言った。私は、ここで何か言っても、更科さんの不興(ふきょう)を買うと思い、(うなず)くにとどめた。

 私は、お父様に、


「今日、大変なことがあったばかりなのですが、明日から1ヶ月の(あいだ)、蒼竜様に連れられて修行をすることになりました。

 薫さんも連れていくことになったのですが、宜しいでしょうか。」


と聞いた。するとお父様に、


「和人くん、薫は今日大変だったのは分かっているね?

 少しは気遣いをしてはどうだね。」


と怒られた。すると、更科さんが、


「いえ、大したことはありませんので、準備ができれば、今すぐにでも出かけられます。」


と言った。更科さんは続けて、蒼竜様に、


「ただ、午前中は荷物をまとめたいので、出発はできれば午後からにしていただいてもよいでしょうか。」


とお願いした。蒼竜様は、


「別段急ぐわけでもなし。

 問題なかろう。」


と言ってくれた。私は、


「では、蒼竜様もいらっしゃるので、お昼頃にこちらで待ち合わせということでよいでしょうか。」


と確認すると、蒼竜様も、


「良きに計らったのでよいぞ。」


と言った。私はこれで明日の朝はゆっくりできるかなと思った。

 が、しかし、そう言えば田中先輩が会社に休職を届けると言って別れた後、了承されたか聞いていない事に思い至った。私は冷や汗が出たが、蒼竜様との約束なので、もし駄目だったと言われても行くしかないときっと思った。

 この後は蒼竜様を交え、宴会することになった。

 ただ、昨晩は私が来るという事で高級品のお刺身を準備していたが、今回はそういう手筈(てはず)が整うはずもなく、お父様の(いわ)く、


「折角、蒼竜様と酒宴の席が囲えるというのに、準備が(おろそ)かで大変申し訳ありません。」


と謝っていたのだが。


―――だし巻き卵、きんぴらごぼう、昆布巻き、鮎の塩焼き、香の物は山芋の塩麹漬けにお味噌汁。


 まず、私の実家では出せないだろうなと思った。

 更科さんは、『お肉がない』と言って文句を言いながら食べていたが、他の人たちは蒼竜様に遠慮してか、昨日に比べてお酒は控えている様だった。私は、宴の席なのに更科さんが物怖(ものお)じもせずに今日の出来事の愚痴ばかりを話していたので、蒼竜様の気分が悪くならないか心配になり、話題を変えようと田中先輩との出会いについて聞いてみた。


「蒼竜様は、田中先輩とお知り合いなのだそうですが、一体どのような出会いだったのですか?」


 すると、蒼竜様は、


「そうだな・・・。

 拙者の前に現れるまでの経緯は田中本人に聞いたほうが良いのだがな、大雑把に言うと赤竜帝に嫌がらせで命を狙われて逃げ回っていた時に、偶然拙者と会ったのだよ。」


と、話した。私は、


「田中先輩が逃げ回っていたというのは、何かピンと来ませんが・・・。」


と率直に言った。蒼竜様は、


「田中は、あの頃でもかなりのステータスだったのだがな。

 流石に、複数の竜人を一人で相手に出来るほどではなくてな。」


と言った。私は、


「と言うことは、当時でも、竜人でも一人が相手なら互角に戦えたということですね?」


と聞いた。蒼竜様は一つ(うなず)いて、


「人の身で恐ろしいことよ。

 拙者が最初に田中を見かけたのも、赤竜帝の刺客に追われている真っ只中でな。

 当時の拙者は穏健派だったのもあって、事情もよく知らなんでな。

 拙者は、

  『人間一人相手に、竜人三人がかりとはなんと恥さらしな!』

 と言って間に割って助太刀(すけだち)したのよ。

 そうしたら、向こうの竜人が、

  『我らは、赤竜帝の勅命(ちょくめい)で動いておる。

   そこを退()いて、その人間を差し出せい!』

 と来たものだ。

 拙者は、

  『こやつが何をやらかしたかは知らんが、そんな勅命なぞ出す筈もあるまい!

   赤竜帝が、そんな小さな器なわけなかろう!』

 と言って返したのだがな、それが不味かったのだな。

  『青竜の分際で、赤竜帝になんたる暴言!

   貴様も一緒に成敗してくれる!』

 と怒鳴られて、三対二で戦うことになったのよ。」


と言った。私は、


「それでも、まだ分が悪そうですね。」


と神妙な面持ちで言うと、蒼竜様は、


「拙者もそう思ったのだがな、今まで三対一で押され気味だったわけだ。

 それが一人抜けて二対一になったとたんに、あっという間に田中に尻尾を落とされてな。

 これで勝負ありというわけだ。

 その後、田中から、

  『助太刀には感謝するが、これで御仁(ごじん)もお尋ね者だな。』

 と言われてな。

 仕方なく、田中と一緒に逃げ回らざるを得なくなったというわけだ。

 ・・・なんか、思い出すと腹が立ってきたわ。」


と、楽しそうに笑いながら話していた。


 このような話をしているうちに時間が流れ、戌の刻(20時)の鐘がなった頃、田中先輩が迎えにやってきた。田中先輩からも酒精の臭がするので、誰かと少し飲んできたようだった。

 田中先輩は、


「ちゃんと1ヶ月間、休みにしておいてやったから、存分に(しぼ)られてこいよ。」


と言った。私は田中先輩もついて来るのかと思っていたので、


「田中先輩は来ないのですか?」


と聞いた。しかし、


「俺が行っても仕方ないだろ。

 山上、お前を鍛えるんだぞ?

 その間、山小屋の荷物は俺が運んでおいてやるから安心して逝けよ?」


と言った。私は、


「『行く』ではないのですか?」


と聞いたのだが、田中先輩は、


「まぁ、そのくらいキツくシゴイてくれるはずだ。

 ほら、蒼竜は人間の限界がわからないからな。」


と、ニヤニヤしながら言った。

 そんなことを言われると、明日から生きていられるのか心配になってくる。

 私は、


「そんな・・・。

 なんとか、ならないのですか?」


と聞くと、田中先輩は、


「まぁ、頑張りすぎないのがコツだな。

 ただ、あまりに手を抜くと、()ねるので気をつけろよ?」


と言った。

 私は、どんな拗ね方をするのか気にはなったが、そうなると面倒になるかもしれないので、気をつけようと思った。蒼竜様は、


「田中、拙者がいつ()ねたのだ?」


と聞いたので、田中先輩は、


「覚えていないか?

 ほら、俺が風邪で1日寝込んだ後、翌日、黙って抜け出して町まで行って酒を買って帰ってきたことがあっただろ?

 その時、お前、屋根の上で風見鶏(かざみどり)になっていたじゃないか。」


と言った。蒼竜様は、


「そうだったか?」


と言って、なんとなく誤魔化しているようだった。私は、もう時間かなと思ったので、


「すみません。

 そろそろ帰りませんと、門が閉まるといけません。

 申し訳ありませんが、そろそろ失礼いたします。」


と皆さんに言った後、更科さんに、


「薫さん、明日から1ヶ月間よろしくお願いします。

 では、また明日。」


と挨拶をした。更科さんも、


「うん。

 また明日ね。」


と返事をした。田中先輩も、


「俺もこの辺りで失礼する。

 蒼竜、未熟者だが、山上をよろしく鍛えてやってくれ。

 ではな。」


と挨拶をした。

 こうして、私は田中先輩と葛町の集荷場に帰り始めたのだった。


暗殺者A:(先生、よろしくお願いします。)

暗殺者C:(あれは田中か?)

暗殺者B:(・・・?有名なのですか?)

暗殺者C:(あぁ。俺じゃ話にならんくらいの強者さ。やめだ、やめ。お前ら、よく命があったな。)

暗殺者A:(え?そんなに凄い相手なのですか・・・。おい、取り消しするぞ。)

暗殺者B:(うぅ、違約金はかかっても命には変えられんか・・・。)



作中の「お礼のしようもございません」は「どのようにお礼をすれば いただいた恩に報いることが出来るのか見当もつかないほど感謝しています」という最上級の謝辞を込めた言葉となりますが、今時は「〜のしようもない」のような表現に違和感があるだとか、そもそも違う意味で捉えられてしまう事があると聞きました。

世代で使う言葉が違う問題、どう扱うのがよいものやら。(--;)


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