今夜は
朝食が終わり、雑談の時間となる。
佳央様が、
「そういえば昨日、紅野様が来てね。
面白いものを貰ったって見せてくれたのよ。」
と話し始めた。私は、
「どのような物を見せて貰ったのですか?」
と確認すると、佳央様は、
「『湯たんぽ』って言ってね。」
と名称を教えてくれた。私は聞いた事がなかったので、
「ゆたんぽですか?」
と合いの手を入れると、佳央様は、
「ええ。
銅で出来た円筒状の瓶でね。
お湯を注いで布団に入れておくと、1〜2刻くらい暖かいんだって。」
と答えてくれた。私は、
「佳織、知ってますか?」
と聞いてみたが、更科さんも、
「いえ。
でも、お湯を入れておくなら、暖かそうね。」
と知らない様子。佳央様が、
「人間は寒さに弱いから、使ったらどうかって。」
と話した。私は、
「『使ったらどうか』ということは、貸していただけるので?」
と確認すると、佳央様は、
「ええ。
でも、1つしかないから仲良く使えって言ってたわ。」
と答えた。更科さんが、
「なら、今夜から一緒に使おっか。」
と乗り気の様子。一緒に寝る様子を想像して、私は恥ずかしくなった。
返事の仕方によっては助平と思われないかと思い、そうしようかと黙って考えていると、佳央様から、
「私と別の部屋になったんだから、一緒に寝てるんじゃないの?」
と小首を傾げた。
更科さんが、
「それが、一向にね。」
と苦笑い。佳央様から、
「あぁ、そうなんだ・・・。」
と可哀想な者を見る目を向けられた。
私は、
「何ですか?」
と聞くと、更科さんは、
「一緒の方が温かいし、良いわよね?」
と確認してきた。私は、
「勿論でしゅ。」
と噛むと、更科さんから、
「ふふっ。」
と笑われたのだった。
時間となったため、着替えを行い、神社に出発をする。
本日は、大半が真っ青な空。
佳央様が空を見上げながら、
「今日だったら、余裕だったのに。」
と愚痴をこぼしていた。
神社に着き、社の中に入る。
鏡に向かって祝詞を唱えた後、佳央様に昨日取ってきてもらった稲藁を出して貰う。
先ずは、藁叩きの作業を行う。
この作業が雑だと、藁が綺麗に纏まらない。
なので、本当は私一人でやりたかったのだが、何せ、藁塚1つ分だ。
4人で分担をする。
この作業には、横槌という道具を使うのだが、こちらは古川様と佳央様が準備してくれていた。
更科さんが、
「このくらい叩けば良い?」
と確認を入れる。私は、叩かれた藁を手にとると少ししならせ、
「もっと叩いた方が良さそうですよ。」
と言うと、更科さんは、
「どの位?」
と質問した。私は、自分が叩いた藁を渡し、
「この位です。
判りますか?」
と見本として見せると、更科さんは、
「かなり、叩くのね。」
と渋い顔になる。私は、
「はい。
かなり、重労働です。」
と同意すると、更科さんは、
「頑張ってみるけど、仕上げはお願いできる?」
と聞いてきた。私は、
「勿論です。」
と了承すると、更科さんは、
「宜しくね。」
と言って、先程の藁をもう一度ど、横槌で叩き始めた。
暫くして、佳央様が、
「どう?」
と言って藁を見せに来た。私は手にとると、
「流石、佳央様ですね。
しっかりと叩けています。」
と感心してみせた。ただ、よく見ると叩き方にむらがある。
私は、
「この辺りや、この辺りを見ると少し膨らんでいますから、そこももう少し叩きましょう。
そうしたら、完璧です。」
と指摘すると、佳央様は、
「本当ね。
もう少し、均一に叩くわ。」
と私の意図を汲んでくれた。
私は、
「宜しくお願いします。」
と声を掛け、また自分の作業に戻った。
古川様の方はと言うと、ちらりと見た限りでは、きちんと藁叩きが出来ていた。
私は、流石だなと思いながら、自分の分と、更科さんの仕上げの分をこなして行った。
ひたすら、藁を叩く作業が続く。
もう、始めてから2刻くらいだろうか。
そろそろ、お腹が空いてきた。
私は、
「お昼は、如何しますか?」
と質問すると、古川様は、
「もう、・・・そんな時間なの・・・ね。」
とまだ気にしていなかった様子。私は、
「やはり、粥でしょうか?」
と聞くと、古川様は、
「そう・・・ね。」
と同意。佳央様に、
「だそうです。」
と言うと、佳央様は、
「今朝、もう手配したわよ。」
と返し、
「行き当たりばったりじゃなくて、一日の計画を立てて行動した方が良いわよ。」
と言われてしまった。私は、
「仰るとおりです。」
と返すと、古川様から、
「それは、・・・仕方がないと思うわ・・・よ。
本来は、・・・そういった手配も含めて・・・下積みをする物だから・・・ね。」
と慰めの言葉。私は、やはり古川様は出来た人だなと思いながら、
「そう言っていただけると助かります。」
と返したのだった。
本日も短めです。
作中、「湯たんぽ」が出てきますが、こちらは皆様ご存知の方も多いと思いますが、タンクの中にお湯を入れて布団の中に入れ、暖を取る道具となります。今回は、銅製の湯たんぽを想定しています。
日本には室町時代に伝わってきたそうですが、金属製だったため、高価で江戸時代の頃は庶民に普及しなかったのだそうです。
ちなみに、犬公方で有名な徳川綱吉は、犬型の湯たんぽを使っていたのだとか。
もう一つ、作中、横槌という物が出てきますが、こちらは円柱状の木に棒状の取っ手が着いたような形状の木槌の一種となります。
藁に対して棍棒のよう叩いて使ったのだそうですが、藁が柔らかくなるまでは、結構叩かなければいけなかったのだそうです。
・湯たんぽ
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・槌
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