大杉町の門でからまれた
本日は有給休暇を取ったので、ついでに投稿しちゃいました。
今年から1年に5日間の有給休暇を必ず消化することになったからですが、
そうじゃなかったら、休んでいなかっただろうなと思うわけで・・・。(^^;)
私は、葛町の冒険者組合で書類を書いた後、一旦集荷場に戻った。
昨日、『また明日ね』と言って挨拶をしたので、未の刻ころには更科さんが来ているのかと思ったが、いないようだった。
私は嫌な予感がしたので、大杉町まで更科さんに会いに行くことにした。
私は田中先輩に、
「すみません。
今日は薫が来ていないようなので、これから大杉まで行って更科さんを探そうかと思います。
昨日、私が襲われた原因が、更科さんを嫁にしようとしているお公家様の先輩だったらと思うと、どうにも悪い予感がしてなりません。」
と言った。田中先輩は、
「公家か?
どこから出てきた話かは判からんが、もし公家なら・・・なるほどな。
相手は裏の連中を雇うぐらいだからな。
日中は大丈夫とは思うが、気をつけて行けよ。
・・・いや、待て。
今回は俺もついていってやろう。
社長にも報告したいし、ついでというやつだ。」
と言って、田中先輩も大杉までついて来ることいなった。
私は心強く思い、
「ありがとうございます。
本当に助かります。」
と、お礼を言った。すると田中先輩が、
「蒼竜とうっかり鉢合わせはしたくないが、これから暫くごちゃつきそうだしな。」
と言った。ごちゃつくというのは、竜絡みのことなのか、それとも裏の話なのか。最近、色々とありすぎてよく分からなかった。しかし、私が一番気になるのは、更科さんが例の公家の息子にちょっかいをかけられていないかだ。
田中先輩と私は急いではいるのだが、手ぶらなのも印象が悪いので、先日の甘味処で豆大福を16個買ってから大杉町に向かった。
町に向かう途中、何かあるかもしれないと思い警戒しながら進んだのだが、特に何も起きずに、大杉町の門に差し掛かった。
門には、いつもの門番さんの他に、腰に刀を差した士族様と思われる人が二人いた。
この時間、いつもなら門番さんは素通りさせてくれるのだが、二人でこそこそと話をしている。
門を潜ろうとした時、士族様の一人が人相書きと顔を見比べながら、私の前に立ちふさがった。もう一人の門番さんは私の後ろに移動してきた。なんだか顔つきも怖い。前に立った士族様が、
「お主、山上だな。
昨晩、短刀によって二人が殺害されたのでござるが、身に覚えがあろう。」
と言って、強引に捕まえようとしてきた。私は軽く躱し、
「何を根拠に言っているのですか?」
と聞いた。すると後ろにいた士族様がニヤニヤしながら、
「公務執行妨害の現行犯にござる。」
と言ってきた。避けられた方の士族は、
「貴様、よくも避けやがったな!・・・でござる。
よもや、言い逃れをするわけでもあるまい?」
と言ってきた。私は本物の士族ではないのではないかと思ったが、どのように対処したらよいか分からず、田中先輩の方を見た。すると、嫌そうな顔をしながら、
「これから冒険者組合の長谷川殿に会いに行くのだが、二人にも同行していただいてもいいか?・・・よろしいでしょうか。」
と確認した。すると私に避けられた方の士族っぽい身なりをした人が、
「やかましいでござる。
お主に用はない!
貴様は黙ってついて来ぬか!」
と言った。すると田中先輩は、
「もし、何かの手違いだった場合、貴方方が無事では済まないかもしれませんが、大丈夫でしょうか。」
と聞いた。すると、
「士族に対して何たるも言いか。
貴様ら、覚悟は出来ておるのだろうな!」
と言って、刀を抜いてきた。さっきニヤついていたもう一人の士族っぽい身なりの人も抜刀している。
最初に刀を抜いたほうが、
「いざ!」
と言って田中先輩に斬りかかってきたが相手が悪い。田中先輩に簡単に避けられていた。後ろからもう一人が私に斬りかかってきたのだが、私も軽く避けた。状況から察するに、田中先輩と私を分担して斬り殺す手はずになっていたのかもしれない。
と、ここで門番が
「手向かいするとは卑劣な!」
と言って、自身番の人を呼ぶために笛を吹いた。
すると、士族っぽい身なりをした人たちが急に逃げていった。
この結果には、門番さんの方が驚いているようだった。
私は成り済ましだと確信したので、
「門番さん、ありがとうございます。
士族の変装をするだなんて、悪い連中もいたものですね。」
と声を掛けた。すると門番さんは、
「な!
あれは成り済ましなのか?
もう半年以上もたまに見回りに来ていた士族様たちだぞ?
いや、・・・でも、普通は笛でなんて逃げないわけだし・・・。
いや、・・・、いやでも、・・・なんという・・・。」
と、混乱しているようだった。自身番からの応援に、1人の立派な身なりの士族様と、数人の岡っ引きがやって来た。
この立派な身なりの士族様は岡本 慎之介と名乗った。
『同心』という職なのだそうで、この辺りに逃げ込んだ盗賊を捕まえるために王都から出張ってきたとのことだった。
番屋に移動し、さっきの出来事を話したところ、苦虫を噛み潰したような顔で、
「そんなことがあったのでござるか。
そもそも士族は『避けやがった』などという下品な言い回しは使わぬゆえ、成り済ましで間違いなかろう。」
と言っていた。私はちょうどいいと思い、盗賊の仲間かもしれないという体で、昨日襲われた時の事を話した。
話している途中、田中先輩がそわそわし始めたなと思ったのだが、番屋の前を蒼竜様が通りかかったのを感じた。本人はかなり抑えているつもりなのかもしれないが、外にいても尋常ならざる気配を感じる。私は、
「田中先輩、蒼竜様ですね。」
と言うと、田中先輩は、
「しっ!
そんなことは分かっている。」
と小声で言ったが、むこうも気配で感づいているのは自明のこと。今更言っても詮無いことだろう。番屋の引き戸が開き、
「邪魔するぞ!」
と、蒼竜様が入ってきた。私は、
「蒼竜様、こんにちは。
このようなところで会うなんて奇遇ですね。」
と言った。すると、岡本様もお知り合いだったようで、慌てて頭を下げてひれ伏し、
「こ、こ、こ、」
と、言葉もままならないようだった。私は、
「岡本様?」
と声をかけたのだが、
「こら!
お前も頭を下げんか。
首が飛ぶぞ!」
と言って、私の頭を岡村様が直々に鷲掴みにして下げさせられた。蒼竜様は、
「よい。
というか、面倒だ。
面を上げよ。」
と言った。昨日と少し雰囲気が違う気がしたが、おそらく士族の方がいるからなのだろう。
岡本様は、
「ありがたき幸せにござる。」
と言って、顔を上げた。そして、横を見て終始頭を下げなかった田中先輩を睨みつけていた。
「田中、久しいな。」
と蒼竜様が言うと、田中先輩は笑いを噛み殺しながら、
「おう、久しぶりだな。
というか、なんだ?
そんな物言いのキャラだったか?」
と聞いてきた。私は『キャラ』とは何なのだろうかと思った。横を見ると、岡本様も同じように思ったようで、視線が空に泳いで考えているようだった。
蒼竜様は、
「あ〜、こら。
それなりの喋りをしないと、格好がつかんだろうが。」
と言っていたので、本来の喋り方ではないらしかった。岡本様も顔の表情が少し緩んでいるので、身に覚えがあるのかもしれない。私は、
「実は、昨晩、大杉町から葛町に帰る途中で何者かに襲われまして、苦無を投げつけられたのですよ。
それで今朝は葛町の冒険者組合で届けを出したのですが、今度はまた大杉町の門で士族の身なりをした人たちに襲われまして、今、番屋で事情をお話しているという次第です。」
と話した。すると、
「昨日言っていた『人間の内輪揉め』というやつだな。」
と言ったので、私は、
「すみません。
まだ、その内輪揉めが原因かさえもわからない状況でして・・・。」
と、素直に状況を話した。つづけて、
「あと、昨日私も聞いて驚いた話なのですが、どうも更科家では薫と私はとっくに結婚させていたつもりだったそうで、昨日お願いした件は、・・・」
と言いかけたところで、蒼竜様は、
「あぁ、分かった。
結婚したと証言してやろう。
めでたい話ゆえ、一向に構わぬぞ。」
と言って、喜んでいた。田中先輩は、
「おい、山上。
えらく蒼竜に気に入られたもんだな。」
と言うと、岡本様が青い顔をして、蒼竜様と田中先輩を見比べていた。
蒼竜様は岡本様に、
「別に気にしなくても良いぞ。
拙者と田中は旧知の仲でな。
身分的に言えば、田中の方は最底辺らしいが、なに。
身分で親友になるわけではないからな。
そこは些事というやつである。」
と機嫌よく説明した。田中先輩は、
「とは言え、黒竜の件で来たそうじゃないか。
今回は、赤竜帝から何か言われて来たんじゃないのか?」
と言った。すると、蒼竜様は、
「そうだ。
厄介な話なのだがな、隣の赤竜帝が色々とちょっかいを出そうとしているらしいのだ。
場合によっては、田中に力を借りようと思っているのだというのが一点。」
と言った。私は、蒼竜様に、
「一点ということは、まだあるのですか?」
と聞いた。すると、蒼竜様は、
「うむ。」
と頷いて、私を見ながら、
「これは、山上にも関係する話だな。
まず、前提となる話なのだがな、竜族の中でも上位の者は、死ぬ間際に魂の継承先を指定することが出来るのだ。
それで赤竜帝が直々に、『もし、黒山が魂の継承先を指定していた場合、それが人間だとしても竜族の扱いにしようと考えておる』と言ったのだ。
恐らく田中を想定して、隣の赤竜帝との戦いに参加させようというお考えでの物言いなのだがな、他の者を指定していたとなると、赤竜帝も再考するかもしれぬ。
拙者は、状況から見て山上、お主、恐らく黒山に継承先として指定されたのではないかと考えておる。
今はまだ魂の融合中のようだが、恐らくレベルが不足しているか、職業が仮のままになっているからなのだろう。」
と説明した。私は、
「それで、先日は『赤竜帝がどうしたいかは別だ』とおっしゃっていたのですね。」
と昨日の会話を思い出しながら話した。岡本様は、
「ちょっと、お待ちください。
そのような事をなさると、この少年が王族と同じ身分ということになりますれば、少々、問題がござりまして。」
と言った。すると蒼竜様は、
「人間の事情はよく分からんが、この少年が身分だけ王と同格になったとして何か問題でもあるのか?
別に国を治める権利を渡せとか、そういうことを言っているのではないぞ?」
と聞いてきた。岡本様は、
「そうなのかもしれませんが、序列の問題がござります。
それに、身分に相応しい役目や振る舞いがござ候えど、そのように急には準備は出来ませぬ。」
と言った。すると蒼竜様は、
「別に、身分が高かろうと、今の仕事を続ければよいのではないか?
職業は農家のようだが、特に不都合もなかろう。」
と言い切った。私は、自分の話だと言うのに、ほとんどピンと来ていない状態だ。
と、田中先輩が、
「ちょっと待て。
山上、ちゃんと神社に行って、職業変更をしてもらったのか?」
と聞いてきた。私は、
「職業変更とは何ですか?」
と聞くと、田中先輩は呆れたように、
「山上。
普通は職業が変わったら、祈祷をしてもらうものなのだぞ?
そうすると、その職種の仕事が手に馴染みやすくなる効果があるのだそうだ。」
と言った。
ふと、田中先輩は伝聞型で話をしているのに気がついた。
そう言えば田中先輩の職業はポーターで固定になっているから、実感したことがないのだろうという事に思い至り、私は苦笑いしたのだった。
田中先輩:山上、ちゃんと神社に行って、職業変更をしたのか?
山上くん:(神社になんて、初詣くらいにしか行かないけどな。)職業変更とは何ですか?
岡本様:(そこからか。)(苦笑)
蒼竜様:(これは面白い遊びが出来るかもしれんぞ?拙者が名付けをして・・・ふふ。楽しみだ。)
田中先輩:山上。普通は職業が変わったら、祈祷をしてもらうものなのだぞ?




