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更科さんの家族と会った

せっかくの三連休なのに、台風でどこにも行けません。(/_;)

 途中色々あったが、ようやく更科さんの家の裏戸まで送ることができた。

 私は一般的な晩御飯の時間帯は過ぎているとは言え、まだ更科さんが食べていないのでこれからということも考えられる。急な来客はご迷惑になるので、更科さんにお土産の団子を渡して、大杉の町の店に入って何か食べてから帰るつもりでいた。

 だが、更科さんに、


「ここまで来たんだし、軽く挨拶だけでもしていって?」


と言われた。どこからともなくムーちゃんがやってきて、


「キュィ!」


と鳴きながら私の肩に乗った。おそらく、ムーちゃんも『寄ってけ』と言っているのだろう。

 私は大丈夫だろうかと思いながらも、更科家の裏戸をくぐった。

 以前、更科さんが、『学校は出してもらったけど次女だし、そんなに大きな商家でもないし、まぁ、一緒に頭を下げれば割と簡単にできるんじゃないか』と言っていたけど、とんでもない。

 御用商人と聞いたときから、『あれ?』っとは思っていたが、田んぼが出来るくらいの庭だった。


 ―――確か、飛び石の上を歩くのだったっけ。


 私は、親と一緒に庄屋さんの家に連れて行かれた時の仕来(しきた)りを一生懸命思い出していた。

 ふと見ると、にじり戸と言ったかな。茶室もあるようだ。確か、普通の庄屋にはないと言って自慢していたっけ。

 カポーンと音が聞こえてくる。私は、


「あの音は、何なのでしょうか。」


と聞くと、更科さんが、


「あれは『ししおどし』と言って、元々は動物避けだったのだそうだけど、何か有名な人が庭において音を楽しむようになったのだそうよ。」


と説明してくれた。私は、


「音を楽しむものなのですか。

 でも、寝ている時は小さな音も気になることがあるのに、夜とか大丈夫ですか?」


と聞いた。すると、更科さんは、


「気にしたこともなかったけど、まぁ、確かに大きな音ね。

 でも、慣れだと思うわよ?

 ほら、虫の声と同じよ。」


と言った。今はまだ梅雨前なので思いつかなかったが、秋の虫は確かに(うるさ)いのに、それでもぐっすりと眠っている。私は、


「なるほど、確かに慣れますね。」


と言いながら、足元の飛び石を踏み外さないように気をつけて歩いた。

 少し歩くと、家の縁側の方に出た。

 更科さんは家の人だから良いが、私は玄関から入ったほうが良いのではないかと思った。

 だが、そんなことはお構いなしに、更科さんは沓脱(くつぬ)ぎ石の横においてある桶で足を(すす)いで手ぬぐいで拭って縁側に上がってしまった。

 更科さんは、


「和人も上がって?」


と言ってきたが、私は、


「その、大きな家では、家長が招かないと上がってはいけないのでは?」


と聞き返した。すると、すぐそこの障子がサッと開いて、


「外で声が聞こえると思ったら、薫、帰ったのか。」


と、男の人が出てきた。おそらく、この人が更科さんのお父様なのだろう。雰囲気から、もうお酒も入っているようだ。

 私は、


「その、はじめまして。

 私は、山上 和人と申します。

 このようなところでの挨拶で、大変申し訳ありません。」


と言って、一先(ひとま)ず謝っておいた。

 男の人は、


「あぁ、薫のいい人と言っていたのは君か。

 (わし)は薫の父の更科 (しげる)だ。

 折角来たんだ。

 上がりなさい。」


と言ってきた。私は、


「夜分遅くにお訪ねする形になってしまっているので、ご迷惑ではありませんか?」


と聞いた。しかし、更科さんのお父様が


「いや、ちょうど話もあったので上がっていきなさい。

 そこの沓脱ぎ石から上がったのでよい。」


と言われたので、断るのも失礼に当たるかと思い直した。


「では、このようなところからですみませんが、上がらせていただきます。」


と言った。一先ず背中の背負子を降ろし、更科さんに大福を渡した。そして、種の入った大袋を全部廊下においてから足を(すす)いで縁側に上がった。

 お父様が、


「ついてきなさい。」


と言って、先程出てきた部屋に入った。更科さんが続いてその部屋に入ったので、私も敷居や畳の端を踏まないように気をつけながらついていった。

 お父様は、


「おい、すまぬがもう一膳(いちぜん)出してもらえぬか?」


と、女中さんに指示をしてから、私に、


「そこに座りなさい。

 なに、家族だけの席だ。

 無礼講で良いぞ。」


と言って下座の方を指差した。私は、畳の端に足がかからないように気をつけながら畳の上に座ろうとしたのだが、


「あぁ、気が付かなくてすまん。

 誰か、座布団を持て。」


と言って、別の女中さんに座布団を出すように頼んだ。女中さんは来客があるのを想定していたようで、すぐ隣の部屋から1枚取ってきて、先ほど私が座ろうとした下座に座布団を敷いた。

 私はそのまま座布団に座ろうと思ったのだが、その前に一番上座に座っている祖父様に挨拶をしていないことに思い至った。なのでお父様に、


「恐れ入ります。

 その、奥のお祖父様にもご挨拶をいたしたいのですが、よろしいでしょうか。」


と聞いた。す、


(わし)にか?

 いいぞ。

 しかし、なかなかどうして農家の(せがれ)と聞いておったが、ちゃんと(しつけ)が出来ているようじゃ。

 薫にはもったいないわい。」


と言った。私は、座布団だと高くなってしまうので、一旦座布団の横に正座して、


「恐れ入ります。

 もう、薫さんからお聞きになっているとは思いますが、私は山上 和人と申します。

 これから色々とお世話になるとおもいますが、よろしくお願いいたします。」


と言って、挨拶をした。すると、お祖父様は、


「おう。

 なかなか丁寧じゃが、すでに隠居の身ゆえ座布団の上で良いぞ?

 (わし)は更科 孝司(たかし)じゃ。

 まぁ、薫の祖父(そふ)に当たる。

 あれは礼儀もなっていないし、変な男にちょくちょく絡まれているようじゃが、よろしく頼むぞ。」


と、こちらからは何も言っていないのに、暗に結婚のお許しを改めていただけたようだった。

 お父様も、


「あぁ、今朝も失礼なやつがいたな。

 どこの大商人の(せがれ)かは知らんが、いきなり来て『薫を出せ』とか言ってきて大変だったぞ。

 一昨日、嫁に出したと言ったら、真っ青な顔でどこかに走っていったがな。」


と言っていた。更科さんが、


「恐らくその(かた)は、王立魔法研究所の桜咲(おうさき)先輩で、実家は従六位上の次男と思います。」


と説明した。更科さんは、やはり家の中では敬語のようだ。するとお父様は青い顔になって、


「公家か。

 それはまずいな。

 お母様、どういたしましょうか。」


と、お父様はお祖母様にお伺いを立てた。が、お祖母様は、


「それは自分で考えな!」


と一蹴した。私は、今日のことを報告しておこうと思い、


「一応、今日、冒険者組合の長谷川組合長に結婚の約束をしていることを証言するようにお願いをしたのですが、やはり公家だと握りつぶされると言っていました。」


と言った。すると、お父様は、


「あの長谷川組合長と知り合いなのか。

 なかなかに気難しい人だが、よくそんな約束を取り付けたな。」


と言って驚いていた。しかし、お祖母様は、


「何、言ってんだい。

 あれは気難しいんじゃなくて、単に人見知りで几帳面なだけだろ?

 私に言わせてみれば、組合長なんて器じゃないね。

 優柔不断だから、決まることもなかなか決まりやしない。

 薫の件だって、きっと片付くのは3ヶ月は先だろうさ。」


と、毒舌だった。

 ここで更科さんが、


「でも和人、長谷川さんは身分が足りないと言っていたけど、青竜の蒼竜(そうりゅう)様にもお願いしていたじゃない?

 なので、大丈夫と思うけどだめなの?」


と聞いた。更科さんは、どうやら私に対しては家族の前でも敬語ではないらしい。お祖母様は慌てて、


「青竜って、竜人かい?

 あんた、なんて知り合いがいるんだい!

 そもそもこの国の王家ってのは、赤竜帝から権力を借りて国を治めているんだ。

 言ってみれば、王宮は赤竜帝を頂点とする組織の下っ端って(てい)さ。

 だから、知性のない竜は置いておくとして、竜人は王族と対等かそれ以上の身分になるって話だよ!」


と言って、驚いていた。私は、初めて聞いた話だったので、


「それは・・・私が無知でした。

 よく私の首が繋がっていたものです。」


と、背中に冷や汗が流れるのを感じながら話した。が、更科さんが恐ろしいことを言い出した。


「今の所、どのようになるのかは判りかねますが、蒼竜様は和人に好意的でした。

 ひょっとすると和人は、実質お公家様とか貴族様よりも上の立ち位置になるかもしれませんよ。」


 更科さんはにこにこしている。私は絶対にそれはないと思ったので更科さんに、


「いくら何でも、好意的に(とら)えすぎというか、話が飛躍しすぎですよ。

 単に、田中先輩の知り合いだから見逃してくれただけで、ちょっと間違えば私の胴と首は繋がっていなかったはずだと思いますよ。

 そして、少しでも事情が変わったらきっとフゥですよ、フゥ。」


と言った。

 ここで、最初に出ていった女中さんがお膳を二段に重ねて運んできて、


「お話のところ、失礼します。

 お膳の準備が整いましたので、置かせていただきます。」


と言って、更科さんと私の前においた。

 私は、『フゥ』されないか心配になってきて食事どころではなかったが、更科さんは、


「和人、今考えても、きっと考え損よ?

 成るようにしかならないんだから、ご飯にしましょう?」


と言って、ご飯を食べ始めたのだった。


山上くん:それよりも、田中先輩の知り合いだから見逃してくれただけで、

     ちょっと間違えば私の胴と首は繋がっていなかったはずだと思いますよ。

     そして、少しでも事情が変わったらきっとフゥですよ、フゥ。

更科さん:(考えすぎね。)

お祖父様:(竜人なら悪いようにはせぬか。)

お祖母様:(山上 和人、どういう交友関係を持ってるんだい。)

お父様:(田中先輩って、たらしの厳吉が?)

お母様:(厳吉かぁ。そういえば昔、萬屋(よろずや)のお清ちゃん、入れあげてたわね。)

お姉様:(そんな風に見えないけど、これが本当なら薫を預けても安心ね。)

お兄様:(命の灯火がフゥってやつか。)

弟:(最近、薫と関わったやつは不運になるとかいう噂もあるしな。フゥもあり得るかもな。)

女中②:(この話を外で喋ったら、私の命もフゥなんだろうな・・・。)

女中①:(戻ってきたら空気が悪いんですけど、これ、話に割り込んでいいのかな・・・。)

    お話のところ、失礼します。お膳の準備が整いましたので、置かせていただきます。


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