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大雪狼の牙の話

* 2019/08/11

 長さの単位を変更しまいた。

* 2019/09/08

 誤記の修正をしました。

 私が歩荷(ぼっか)の仕事を始めてもう2週間が過ぎた。


 今は、日の出にはまだ半刻(1時間)くらいあるが、新人の勤めとして、集荷場で掃除をしている。

 先週は筋肉痛で動くのも辛かったが、体が仕事に慣れてきたようで、『一昨日(おとつい)平村(たいらむら)への荷物は7尺(2m)に達したというのに特に筋肉痛どころか筋が張るようなこともなかったな』などと考えながら床を掃き掃除していた。

 入り口の引き分け戸の所は特に念入りに掃いた。

 座敷なら(ろう)を塗って滑りを良くするのだろうが、集荷場には土足で上がるので蝋を塗ったところで、あまり意味が無い。それよりも溝のところに土がつまると動かなくなるので、しっかりと土を取り除くのが肝心だ。


 次に、雑巾をよく絞り、机の掃除を始めた。

 ここは平村の他にも町や村に荷を運ぶ人が使うが、いつも全員いるわけでは無いので、机は共用で4台だけだった。2台目を拭き掃除していたとき、後藤先輩が出社した。後藤先輩は、


「山上、ご苦労さん。

 そう言えば昨日、冒険者組合の早瀬さんという人から『ステータスの確認をしたいので冒険者組合まで来てくれ』と伝言があったぞ。

 ひとまず仕事もあるので明後日の午後にしてもらったがよかったか?」


と聞いてきた。私は


「早瀬さんという人は存じませんが、職員さんなのでしょうか。

 ・・・えっと、書類が不安ですが、午後一番、、、はまだ書けていないかなぁ。

 夕方まではかからないと思いますので、(さる・16時)の刻を目標にしたいと思います。

 日が登れば平村まで行かないといけないので、申し訳ありませんが、早瀬さんという方に『山上が明後日の申の刻ころ伺う』と申していたとお伝えしていただけないでしょうか?」


とお願いした。すると、後藤先輩から


「まぁ、伝えておくよ。

 酒1本な。」


と言われた。私は好き好んでお願いしたわけではなく、相手が()()()来たから仕方なく返事を言付けたというのに、酒まで盗られて理不尽だなと思いながらも、


「仕方ないですね。

 安酒かどぶろくでも探しておきます。」


と返した。後藤先輩は


「それで充分だ。」


と返事が来たかと思うと、少し間をあけて


「ところで、お前は何をしでかしたんだ?」


と聞いてきた。私は田中先輩から黒竜の件は内緒にするように言われているので、


「先週、田中先輩に冒険者組合に連れていかれた時、ひょんな事からステータスを見てもらえる事になったんですよ。

 まぁ、田中先輩のおかげです。」


と言ってごまかした。後藤先輩は


「あぁ、田中さん絡みか。。。」


と言ったので納得してくれたようだ。

すると、田中先輩が出社してきた。


「掃除の途中じゃないのか?

 無駄口なんか叩いていないで手を動かせ。」


と怒られた。私は田中先輩に、


「すみません。

 後藤先輩から明後日、冒険者組合に行くように言付けがあったと聞いていました。」


とお詫びと事情を話した。すると、田中先輩は後藤先輩に、


「山上だけか?

 俺は呼ばれていたか?」


と聞いた。後藤先輩は、


「えっと、特に聞いていません。」


と返した。田中先輩は(いぶか)しげな表情で、


「本当か?」


と確認した。どうも後藤先輩は以前に伝言の内容を中途半端に忘れて肝心な所を伝えなかった()()があるそうで、田中先輩は、


「信用するぞ?」


と言って、今回は私に一人で冒険者組合に行くように伝えた。

 私は田中先輩と後藤先輩のやりとりの間に掃除を終えた。


 その後、朝の打ち合わせを終え、今日も田中先輩と平村に向けて出発してた。

 町を出てしばらく続く平坦な道が続いている。

 私は、前から気になっていた事を田中先輩に聞いた。


「田中先輩は以前、野辺山さんに世話になったと言っていましたが、どんな縁だったんですか?」


 すると田中先輩は、


「もう10年くらい前か。

 野辺山が白雪山という、北の山まで大雪狼の牙を取りに行ったことがあってな。

 俺はポーターとしてに雇われたわけだ。」


と答えてくれた。私は、


「大雪狼は聞いたことがありませんが、やはり強力な魔獣なのでしょうか。」


と聞いた。すると先輩は、


「ああ。

 用心深い魔獣でな、探し始めて1ヶ月しても何も出てこなかったんだ。

 それで諦めかけたとき、偶然、大きな糞を埋めた跡が見つかったんだ。

 糞を見るに違う魔物の物だろうと説明したんだが、手ぶらで町まで帰るのでは次に出掛ける時の予算が心許ないということで、是が非でもこの糞の主を捕まえようということになったんだ。

 それで痕跡をたどって行った所、食性の違う別の糞に行き当たってな。

 最初に追いかけていた糞の主は僅かに植物を含む雑食性だったのだけれども、後から見つかった方は肉食の糞でな。

 これがお目当ての大雪狼の可能性が高いということで、こっちを追うことになったんだ。」


と語った。私は、


「それで?」


と合いの手を入れると、先輩は、


「いろいろあったぞ?

 湖で一度痕跡が途絶えて別の痕跡を探すのに2週間を費やしたり、谷で痕跡が途切れたかと思ったら、10間(18m)以上はあろうかという谷の向こう側で次の痕跡が見つかったり、糞を見つけてから1ヶ月ほどかかって、ようやく巣を発見したんだ。

 そこで罠を張ってな、さらに2週間粘ってようやく4間(7m)はあろうかという巨大な大雪狼に会うことが出来てな。

 そいつを激闘の末、なんとか捕まえて牙を切ってから逃したといういうことがあったんだ。

 以来、野辺山とたまに組むようになった訳だ。」


と話してくれた。

 私はその冒険譚をドキドキしながら聞き終え、先輩も野辺山さんもすごい人だったんだなと感じた。

 私はそんな人の後ろについて歩いていると思うと、不思議な感覚になったのだった。


この世界で六曜が一般的なので、1週間は6日となります。

あと、時間は十二時辰が採用されていますので、今回出てきた時刻は

 午の刻:12時(正午)

 未の刻:14時

 申の刻:16時

と読み替えて下さい。


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