結局昼飯は
本日、短めです。
橋を落とした費用の話が終り、私は、いよいよ昼食が出るのだろうと期待していた。
だが、赤竜帝は、
「ではな。」
と言って座布団から立ち上がった。
私は、念の為、昼食が出ないか確認すべく、
「この後は、もう解散で?」
と声を掛けてみた。坂倉様も頷いている。
大月様から、
「恐れ多いぞ!」
と怒られる。だが、赤竜帝は笑いながら、
「そうだな・・・。」
と少し考え、そして、
「昼は付き合えぬが、夜、軽く酒でも飲みに行くか。」
と誘われた。どうやら赤竜帝は、私が昼食を一緒に食べないかと誘ったのだと勘違いしたようだ。
私は、尋ね直すわけにも行かないので、
「はい。
喜んで参ります。」
と返事をした。赤竜帝が、
「ならば、蒼竜。
頼んだぞ。」
と蒼竜様に席を設けるように依頼する。
蒼竜様は、
「分かりました。
細かな話は後で。」
と返事をする。私が、
「細かな話と言いますと?」
と確認すると、蒼竜様は、
「それこそ、聞くものではない。」
と困った顔で返したのだった。
赤竜帝の退出後、
「坂倉様。
今夜は、お時間はございますか?」
と確認すると、坂倉様は、
「今夜は色々あっての。」
と言った。蒼竜様が、
「では、清川様や古川様も。」
と確認すると、清川様は行きたそうな顔をしているが、坂倉様は、
「今日は、清川も用事じゃ。」
と答え、
「古川はどうする?」
と話を振った。古川様は、
「私は・・・、参加するわ・・・ね。」
と返事をする。少しだけ、清川様が羨ましそうな顔をする。
蒼竜様は、
「承知しました。」
と答え、私の方を見て、
「さて。
山上は行くとして、佳央と奥方殿はどうする?」
と確認した。すると、佳央様は、
「行くわ。
監視役だし。」
と、更科さんも、
「私も行きます。
多分、和人が酔い潰れちゃうから・・・。」
と答えた。飲みに行く度に潰れている自覚があったので、否定できない。
私は少し情けないが、
「すみません。
助かります。」
とお礼を言った。
蒼竜様が、
「山上。
明日はどうする?」
と確認する。
すっかり忘れていたが、明日、私は花巻様に会いに行っても良いか、古川様に確認をする事になっていたのだった。
私は、
「そうでした。」
と軽く頭を掻きながら蒼竜様に軽くお辞儀をした。そして、
「申し訳ありません、古川様。
明日、外出したいのですが、神社の用事が入っていたりしますか?」
と確認すると、古川様は、
「午後からなら・・・行ってもいいわ・・・よ。」
と答えた。私は、
「分かりました。」
と返し、蒼竜様に、
「午後ならば、行けるようです。
どちらで待ち合わせをしますか?」
と質問をした。蒼竜様が、
「そうだな・・・。」
と少し目を瞑る。そして、
「正午過ぎに、東門でどうだ?」
と指定した。私が、
「昼食は、どのように?」
と確認すると、蒼竜様は、
「向こうで、色々と試食する事になるだろうからな。
食べて来ぬ方が良いだろう。」
と答えた。私は、
「試食ですか。
それは、楽しみですね。」
と笑顔で言うと、蒼竜様は、
「色々と育てているからな。
が、中には残念なものもある。
期待し過ぎぬようにな。」
と困った顔で返した。私は、
「分かりました。」
と返事はしたが、作物を研究しているのだ。
私は、どんな珍しいものが食べられるのだろうかと期待したのだった。
お屋敷に戻るため、竜帝城の玄関から外を見る。
雪はやんでいるものの、一面、白い雪が覆っている。
役人が通っているのだろう。道の部分は踏み固められているが、新雪のところは3寸ほど積もっているようだ。
私は更科さんに、
「積りましたね。」
と呼びかけると、更科さんも、
「うん。」
と答える。足元は、素足に草履。
直接、雪を踏むよりはましだが、足が冷たい事に替わりはない。
私は、
「下駄は持っていませんが、せめて足袋を履いてきたら良かったですね。」
と苦笑いすると、更科さんも、
「そうね。」
と同意した。
踏み固められた雪の上に、足を踏み出す。
少し滑る感覚があり、気を引き締める。
足元の滑りにくい所を探しながら、歩みを進める。
よく見ると、二の字の足跡がある。これは、歯が2本の下駄が付けた跡なのだろう。
他に、明らかに裸足の足跡もある。雪で冷たいというのに、流石は寒さに強い竜人だ。
暫く歩いていると、大きな音でお腹が鳴る。
更科さんから、
「少し、急いだ方がいいわね。」
と声を掛けてきたので、私は、
「はい。
すみません。」
と謝った。
竜帝城の門に着くと、蒼竜様とが、
「俺は、まだ仕事があるから、ここまでだ。
では、また明日な。」
と挨拶をした。私は、
「大月様もですか?」
と確認すると、大月様は、
「今日は、これから南門までな。」
という事で、途中まで一緒らしい。私は、
「そうでしたか。
でしたら、蒼竜様、さようなら。
明日は、宜しくお願いします。」
と挨拶を返した。佳央様も、
「またね。」
と、更科さんも、
「私も失礼します。
雫様にも、宜しくお伝えください。」
と挨拶をした。蒼竜様が、
「分った。」
と返事をした。
門を出て暫く歩くと、坂倉様が、
「では、ここでの。」
と言って方向を変えた。そして、
「清川。
早めに、戻るのじゃぞ。」
と声を掛ける。清川様は、
「分かりました。」
と返事をしながら、お辞儀をした。
少し見送り、また雪の中を歩き出す。
暫くして屋敷に着くと、もう一度お腹が鳴った。
佳央様が、
「もうすぐご飯よ。」
と苦笑いする。私は、
「はい。」
と答えたのだった。
着替えをして、いつもの座敷に移動する。
暫くすると、下女の人が膳を運んできた。
今日は、指の長さ程の魚の甘露煮、大根と人参の膾、白菜のお漬物で、後は白いご飯と小松菜と油揚げの味噌汁だ。
更科さんに、
「この魚、何でしょうか?」
と聞いたのだが、更科さんも知らなかったらしく、
「さぁ。
・・・何かしら。」
と首をひねった。女中さんの方を見ると、
「しらはえにございます。」
と答えてくれた。私はあまり聞き慣れない名前に、
「はえですか?」
と聞き返すと、女中さんは、
「いえ。
しらはえです。
そういう名前の魚です。」
と答えた。
私は、色々な名前の魚がいるものだと思いながら、
「しらはえですか。」
と2つ頷き、昼食を食べ始めたのだった。
今日も小粒なのを一つだけ。
作中、山上くんが「下駄は持っていませんが」と言ってましたが、この下駄は、皆様ご存知の通り昔からある履物です。足の大きさより少し大きな板に、足を乗せる側には2本の鼻緒と呼ばれる紐がV字もしくはY字にすげるられており、地面側には、(無い場合もありますが)1本ないし2本の歯と呼ばれる横木が取り付けられた履物です。
庶民が履くようになったのは、江戸時代の後半だったそうですが、そもそも普通は裸足で事足りましたので、江戸や大阪などの大都市だけで履かれていたそうです。
あと、武士が登城する場合は裸足だったという話があるのですが、一般の人が登城する場合はどうだったのか、資料が見つかりませんでした。恐らく時代考証するとNGと思われますが、本作では履物OKという事でお願いします。(^^;)
もう一つ、作中の「小さい魚の甘露煮」は「いかだばえ」を想定しています。
岐阜県の郷土料理なのだそうです。
・下駄
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・いかだばえ
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