竜帝城に行く件
古川様を先頭に、清川様と私の3人の短い行列を作り、屋敷に向けて出発する。
暫くすると、空からジメッとした雪が降り出した。
清川様が小声で、
「やはり、降り始めたか。」
と呟く。私も、
「そうですね。」
と小声で返すと、清川様から、
「独り言じゃ。
返さずとも良い。」
と軽く怒られてしまった。私は、そう来たかと思いながら、
「申し訳ありません。」
と返事をした。
重さ魔法で黄色魔法を集め、少しでも寒さに耐えられるようにする。
残り半分の道のりになった頃、寒さが増すにつれ雪質も変わり、サラッとしたものとなる。
私は小声で、
「これなら、あまり濡れずに済みます。」
と言うと、清川様から小さく、
「そうじゃの。」
と返事が帰って来た。私は、今だと思い、
「独り言です。」
と小さな仕返しを試みたのだが、清川様から、
「根に持つ男は、嫌われるぞ?」
と窘められてしまった。
私は、
「ご尤もです。」
と苦笑いすると、清川様から小声で、
「表情が崩れておる。」
と、また指摘されてしまった。私は、
「申し訳ありません。」
と小さな声で返し、気持ちを引き締めた。
お屋敷に着き、古川様が祝詞を上げる。
それが終わり、次に私が3枚目の祝詞を上げていると、玄関の方まで、佳央様と更科さんがやって来うる気配がした。
私は、少し緊張してつまりながらも、なんとか最後まで祝詞を上げた。
清川様も、祝詞を上げる。
古川様が、
「今日は・・・、これで終わり・・・よ。」
と本日の日程の終了を宣言した。
玄関が開き、いつもよりも綺麗な格好をした佳央様と更科さんが出てくる。
佳央様は、湯気のたつ桶を手に持ちながら、
「蒼竜様が待っているわ。
すぐに、準備して。」
と言ってきた。私は、
「次は、竜帝城でしたね。」
と返事をすると、佳央様は、
「そうね。」
と一言で返し、
「すすぎの桶よ。
お湯にしてあるから。」
と桶を手渡してきた。私は、
「ありがとうございます。
すぐに、始めます。」
とお礼を言って、すぐにすすぎを始めた。
儀式に使った着物から、別の着物に着替えるため、自分たちの部屋に移動する。
本来は登城用の着物を誂えた方が良いのだろうが、私は先立つ物を持ち合わせていない。
かと言って、儀式用の着物で向かうわけにも行かないので、前に更科さんが作ってくれた鼠色の羽織と着物に着替えた。
蒼竜様の待つ座敷への移動中、更科さんが、
「それにしても、何で呼ばれたのかしらね。」
と聞いてきた。私も仔細は聞いていなかったので、
「私も分かりません。
ですが、竜の巫女様や稲荷の巫女様にも、書状を出したそうです。
流石に、これから地下牢という事はないと思いますが、一体、何をするのでしょうかね。」
と冗談交じりに返した。更科さんも、
「さあ。」
と首を傾げた。
そうこう話している内に、座敷に到着する。
障子を開いて座敷に入ると、蒼竜様と大月様が座っていた。
佳央様も、脇で控えている。
私は上座に準備されていた座布団に座り、
「こんにちは、蒼竜様。」
と挨拶をした。更科さんも座敷に入り、佳央様の隣りに座る。
蒼竜様も、
「うむ。」
と挨拶を返す。
佳央様が、
「清川様と古川様も、もうすぐ来るそうよ。」
と教えてくれた。私は、
「分かりました。
では、暫く待ちますか。」
と返すと、蒼竜様が、
「では、その間に決めるか。」
と言った。私は、
「何をでしょうか?」
と聞くと、蒼竜様は、
「うむ。
前に、花巻を紹介すると言っていたであろう?」
と確認した。花巻様というのは、作物に関する研究している人だったか。
私は、
「はい。」
と返事をすると、蒼竜様は、
「うむ。
用事がなければ、明日にでも連れて行こうと思ってな。
どうだ?」
と聞いてきた。私は二つ返事で了承したかったのだが、
「お約束したいのは山々ですが、申し訳ありません。
今朝も、急に神社の用事が出来てしまいまして。
出来れば行きたいと思っているのですが、古川様と相談した後に返事をしても、良いでしょうか?」
と答えると、蒼竜様は、
「そうか。
神事であれば、仕方がないからな。」
と納得してくれた様子。私が、
「すみません。」
と謝ると、蒼竜様は、
「仕方あるまい。
では、後で聞いて教えるのだぞ。」
と言ってくれた。
障子の外から、
「入るぞ。」
と声がする。清川様だ。
障子がすーっと開き、清川様と古川様が入ってきた。
清川様が、
「遅れたな。」
と謝りながら佳央様よりも上座に移動する。
が、どういう事情か、古川様、清川様の順に座った。
私が、
「えっと・・・。」
と困惑して見ていると、清川様が私の視線に気付いたらしく、
「ん?
順番か?」
と聞いてきた。私は、
「はい。」
と頷くと、清川様は、
「仮とはいえ、古川は神主となる。
級が上がっての。」
と説明した。つまり、古川様のほうが、身分が上になったという事なのだろう。
続けて、
「もうすぐ、山上にも抜かれる筈じゃ。」
と付け加える。私は、冗談だろうと思い、
「そのような事は・・・。」
と少し笑いながら返したのだが、清川様は真面目な顔で、
「将来、谷竜稲荷の神主を受け持つじゃろうが。」
と指摘した。私は実感がなかったので、
「確かに、何年先かは分かりませんが、そのように聞いてはおります。」
と返すと、清川様は、
「気を遣わずとも良い。
良くある話じゃ。」
と軽く笑った。そして、
「先日も、ムーに抜かれたしの。」
と付け加える。私は、
「そう言えば・・・。」
と苦笑いするしかなかった。
蒼竜様が咳払いをする。
私は、
「申し訳ありません。
こちらの話で、お待たせしてしまって。」
と謝ると、蒼竜様は、
「問題ない。」
と言ってくれた。私は、
「ありがとうございます。」
とお礼を言って、
「それで、本日は登城するのでしたね。」
と要件を確認した。すると、蒼竜様は、
「うむ。
が、本来、判っていても何用か聞く所だからな。」
と指摘した。私が、
「申し訳ありません。」
と謝ると、大月様が、
「こういった作法も、教えねばなるまいな。」
と苦笑いした。
清川様が、
「それは、助かる。」
とにこやかにお礼を言う。すると、大月様も、
「勿体なきお言葉。」
とお礼を言った。
蒼竜様が、
「話がずれたな。」
と仕切り直す。私は、
「申し訳ありません。」
ともう一度謝った後、
「それで、本日はどのようなご要件ですか?」
と改めて尋ねてみた。蒼竜様は、
「うむ。
赤竜帝が、先日の件で山上に褒美を取らせたいと申してな。
本日、山上に登城してもらう事となったのだ。」
と話した。私は、
「先日の件ですか?
それと、褒美と言いますと?」
と確認すると、大月様から、
「褒美の内容など、詮索するものではない。」
と軽く叱られてしまったので、私は、
「申し訳ありません。」
と謝った。
蒼竜様が大月様を軽く睨んだ後、咳払いし、
「先日の件と言うのは、こちらの政変に巻き込んで、向こうの里まで行ってもらった件だ。
それと、褒美とは言っているが、どちらかと言えば謝罪と考えれば良いだろう。」
と説明した。大月様が、
「あまり、そのように開けっ広げに申すのは・・・。」
と困惑すると、蒼竜様は、
「すまぬ。
山上には、このように申さねば伝わらぬと考えてな。」
と苦笑いした。私は、
「それで、どうして謝罪の品を褒美と言い直すのでしょうか?」
と確認すると、大月様は、
「本来、このような席で話すべき内容でもないのだがな。」
と前置きをし、
「上の者というのは、兎に角、謝るという事をせぬ仕来りなのだ。
ゆえに、詫びの品とは言わず、代わりに『大義であった』と労い、褒美の品を取らすのだ。」
と説明した。私は、
「なんだか、面倒ですね。」
と感想を伝えると、大月様から、
「山上も、本来はそのようにせねばならぬのだ。」
と苦笑いされた。最近、清川様も私が謝ると、よく叱ってくる。
私は面倒な事だと思いながら、話を変えようと、
「そう言えば先日、赤竜帝がこの件で竜の巫女様と稲荷の巫女様にも連絡をすると言っていたのですが、どういった理由なのでしょうか?」
と確認した。すると、大月様は、
「いや。
上に断りもなく、勝手に褒美を取らすわけにもゆくまい。」
と困り顔。私は、
「連絡するのも仕来りという事なのですね。」
と納得すると、大月様は、
「まぁ、その考えでも良いか・・・。」
と呟いて、
「うむ。」
と肯定した。
蒼竜様も、
「そういう事だ。」
と肯定する。そして、
「では、他になければ出発するが、何かあるか?」
と確認した。私は、
「いえ、特には。」
と返すと、蒼竜様は、
「うむ。
では、先に外に出ているからな。」
と言って、座敷を後にした。
二人の退出後、私も、
「では、私も。」
と座っていた座布団から立ち上がり、座敷を後にしたのだった。
本日は、ネタを仕込みそこねたので、後書きはお休みです。(--;)




