種がわりと高級品だった件
今週の月曜日に150PVもあり、普段より多くてキョドっています。
合計PV数も2000を超えました。
読んでいただいた皆様、大変ありがとうございました。
* 2019/01/02
誤記の修正と後書きへの追記をしました。
葛町についた時、だいたい申の刻ころだった。
私たちは、集荷場で荷を下ろしてからすぐに冒険者組合に向かった。
冒険者組合の中に入ると、この時間帯は他にもたくさんの冒険者の人がいて、山瀬さんと里見さんの二人で受付をやっていた。酉一つ時で冒険者組合が閉まるので、その日の成果を金に換えようと、この時間は込むのだそうだ。
この時間だからなのか、山瀬さんと里見さんの二人で受付をやっているようだったが、山瀬さんの方が列が長かったので、里見さんの列に並ぶ事にした。歳も近くて何度か話したこともあるので話しやすいからというのもある。田中先輩の話だと、普通は慣れている受付の方が早く終わるので、そっちを選ぶかものらしい。
四半刻ほど待って、ようやく私たちの番になった。
里見さんが、
「先生、山上さんに更科さん、こんにちは。
明日お越しになると思っていたのですが、何かありましたか?」
と聞いてきた。田中先輩は、
「いや、山上が蒼目猿を4匹ほどやったのでな。
これが証拠だ。」
と言って私の方を見たので、蒼目猿の皮を4匹分出した。里見さんは皮を確認すると、
「確かに4匹分確認しました。
こちらは常時依頼のものになりますので、討伐報酬と込みで1匹銀10匁で買い取らせていただきます。」
と言って、奥に行こうとした。私は慌てて、
「あと、蒼目猿を倒したとき、すごい勢いで飛んでくる種子を使って攻撃してきまして。
これがその種です。
もし、来年成長して種を飛ばすようになったら大変なので、除去をお願いしたいのですが。」
と言って、里見さんを引き止めて種を見せた。すると里見さんは、
「んん?
これは持久力を上げる『体力の実』ですね。
特殊な魔力が無いと育たない植物なので、放置していても大丈夫ですよ。」
と言って、抽出しから1冊の本を取り出し、パラパラとめくっりながら、
「この実も確か買い取り対象・・・っとあったあった。
1粒が銭50文ですね。」
と言った。私は、
「種なのに実なのですか?」
と里見さんに聞いたところ、里見さんも、
「そう言われればそうですね。
こういうものだと、すっかり思い込んでいました。」
と苦笑いした。私は袋を取り出そうと思ったが、ムーちゃんが
「キュイッ?」
と鳴いて私を見つめてきたので、出すのはやめた。里見さんが今度こそ奥に行こうとしたところ、今度は田中先輩が、
「あ〜、ちょっと待ってくれ。
俺も拾ったんだが、せっかくだから買い取りを頼む。」
と言って、種が入っている袋を出した。
里見さんは少し驚いたようで、
「こんなにですか?」
と言ってすぐに数え始めると、
「全部で176粒ですね。」
と言った。そしてそろばんを弾いて、
「全部で銀88匁になります。」
と言った。さすがは本職で、見事な手際だ。私は思わず、
「里見さんはすごい早さで数えますね。
職人技という感じです。」
と褒めてしまった。言った後、本職なのに『感じ』というのは失礼だったなと反省した。
里見さんが何か返事をしようとしたのが、その後ろから、
「山上君、仮登録の木札は持ってますか?」
と言って奥からやってきた沼田さんに話を遮られた。私は、
「はい。
これですね。」
と言って、懐から木札を取り出した。すると沼田さんは、
「では、正式な冒険者の登録章と引換えるので出してください。
手数料は銀1匁になります。」
と言った。私は手持ちが無かったが、
「すみません。
手持ちは無いのですが、蒼目猿の換金が終わればそれで出せますので。
もう暫く待ってもらえますか?」
と聞いた。すると、更科さんが、
「和人、どうせすぐ出てくるんだし、私が立て替えるわよ?」
と言ってくれた。しかし、田中先輩が、
「こういう積み重ねが、取り返しの付かないことになるんだぞ?
『家族であっても金の貸し借りだけはいかん』と、子供の頃によく父に言われたものだ。」
と言って注意された。私は、
「そういえば、田中先輩の実家は靴屋でしたっけ。
商売をやっていると、そういうことにも子供に躾けをするのですね。
家では、なぁなぁでしたよ。」
と言った。すると更科さんが、
「和人、それじゃ、まるで私は商家の出なのに躾けられていないみたいじゃない。」
と少し不機嫌そうに言った。私は慌てて、
「やはり、跡継ぎかそうでないかで違うんじゃないでしょうか。」
と言うと、今度は田中先輩が、
「今は家族もいないが、生きていれば兄が継ぐはずだったからな。
そういうんじゃないぞ?」
と、『こんなのは常識だ』と言わんばかりだ。私は困ってしまい、とりあえず、
「薫、ごめんなさい。
私が間違っていました。
単に、家の教育方針と言うだけですね。」
と謝った。すると更科さんも本当は察しているからか、
「うん。
でも確かに、金の貸し借りで親兄弟を刺しただのという話も聞いたことがあるし、確かにやらない方が良さそうね。
でも、私たちの場合はもうすぐ同じ財布になるからいいとは思うけど。」
と言った。私は親兄弟の話と変わらないのではないかと、ちょっと疑問に感じたが、ここで言うとまた謝ることになりそうなので、今は言わないことにした。が、田中先輩も同じように感じたらしく、
「更科、結婚しても親兄弟と同じことが言えるぞ?
それと、仮に山上がある日突然、持ち金のほとんどを使ったとしたら同じ財布だと困らないか?
いざというときのためにも、二人別々にしておいた方がいいと思うぞ?」
と言ってきた。田中先輩の実家は、よほどお金に厳しかったのだろう。
沼田さんが、
「時間もないし、そろそろ寸劇はいいかしら?
先に常時依頼の書類を作ってしまいましょうか。」
と言って、蒼目猿の書類を出してきた。おそらく裏で書いてくれたのだろうか、ちゃんと討伐数に『四』と書いてある。田中先輩は、
「今回も俺は見ていただけだから、お前ら二人で番号を書けよ。」
と言った。里見さんは、前回のこともあったので、
「分かりました。
でも、本来なら三等分ですからね?」
と少し呆れながら念押しされた。
念押しした後、急に里見さんがいそいそと奥に行ってから、紙と袋を持って戻ってきた。
「忘れていたわけではありませんが、この書類に判をお願いします。」
と、取り繕うような仕草をしながら書類を机の上に出した。そして、隣りに袋を置くと、
「こちらが狂熊の報酬になります。
頭に軽度の打痕はあったものの、毛皮に一切の傷もなくて綺麗に剥いであって、魔法痕すら無かったので、銀300匁になりました。
判を押したら、金額も確認してください。」
と言った。『本来は三等分』と言った時に思い出したのだろう。
更科さんと私は判を押して書類を提出してから、袋の中の金額を確認した。
私は、
「確かに、銀300匁あります。」
そう言ってから、私はその中から銀1匁を取り出し、木札と一緒に机に出して、
「沼田さん、これで登録章をもらえるのでしょうか。」
と聞いた。沼田さんは、
「ええ、それで大丈夫よ。
では、これが冒険者の登録章よ。
偽造防止や短期間の魔物を討伐した場合に記録する機能など、たくさんの機能が組み込んである魔道具だから、再発行する時は銀100匁かかるわよ。
だから、絶対に失くさないように気をつけてね。
あと、普通は冒険者見習いから始まるのだけれどね、レベルも十分で、それなりに強い狂熊を倒した実績もあるので初級冒険者になるので、・・・」
と説明をしながら登録章を渡してくれた。私はちょっと気になって、
「記録されるのは魔物限定なのですか?」
と、話の途中だったが聞いてしまった。すると沼田さんは眉を寄せながら、
「山上くん、まだ説明の途中よ。」
と断った後で、
「私も他の所で聞いただけなのだけどね、討伐時に発散する魂を記録する装置だから、原理上は魔物以外でも登録されるそうよ。
でも、魔物以外の魂は基本的に小さいからこの大きさの魔道具では記録されないし、一定以上の強さの魔物でも、1週間くらい記録するのが限界なのだそうよ。
この機能を使うのは素材の数と討伐数が合わないのに冒険者がごねたときとか、保護対象の獣を密猟していないか確認する時くらいだから、山上くんはこの機能をよく使うような冒険者にはならないでね。」
と話した。密猟と聞いて、『先輩は大丈夫だよな』と心配になったのはここだけの話だ。
私は、
「なりませんし、私は歩荷で冒険者ではありませんので。」
と言ったところ、沼田さんが、
「そうだったわね。
でも、脱法行為は冒険者じゃなくても駄目だからね?」
と注意してきた。私は何もやっていないが、それを言っても話が長くなるだけなので、
「はい。
注意します。」
とだけ答えた。
沼田さんは一つ間を取って、
「では、続きの説明をします。
山上くんは、初級冒険者となります。
あと山上くんのレベルは、中級冒険者に上がる講習を受けるための条件も一応は満たしています。
毎週、大安の日にやっているから、そのうち受けに来てくださいね。」
と言った。私は、
「『一応』というのはどのようなことでしょうか。」
と聞いた。沼田さんは、
「素手で物理攻撃が10を超えているというのも異常ですが、鉈を使うよりも素手で殴ったほうが攻撃力があるというのは異例中の異例です。」
と言った後、笑いを噛み殺しているようだった。
山瀬さんの列で処理をしてもらっていた最後の冒険者が、私の方をギョッとした目で見ていた。この様子からも、やはり異例なのだろう。
この後、更科さんに銀170匁を渡して山分けした。
田中先輩は、種を売った金を三人で分けると言ったのだが、『私も更科さんももっと大きな袋で持って帰っているので』と言って辞退した。田中先輩は、
「そうか?
じゃぁ、遠慮なく。」
と言って、銀88匁を懐にしまっていた。さっきの里見さんが注意したばかりなのに、私たちがあっさりと破った形となるので、里見さんの顔が引きつっていたが、・・・見なかったことにした。
その日、結局冒険者組合を出るころ、既に酉一つ時になっていた。
春も後半で日が長くなってきているとはいえ、あの件を聞いて更科さんを一人で返すには遅い時間なので、今日は実家まで送っていくことにした。
田中先輩にその旨を伝えると、
「山上、更科ん家に泊まってもいいが、明日の朝、ちゃんと集荷場に来いよ?」
と言って釘を刺されてしまった。
今からなら、戌一つには更科さんを家に送り届けることが出きるだろう。閉門は亥の刻なので そこから帰ってきても十分に間に合う筈だ。私は、
「はい。
挨拶したら、できるだけ早く帰ることにします。」
と言って、私もそのつもりで返事をしたのだった。
田中先輩:(まぁ、たまには遅刻させてもいいか。)山上、更科ん所に泊まってもいいが、明日の朝、ちゃんと集荷場に来いよ?
山上くん:はい。挨拶したらできるだけ早く帰ることにします。
田中先輩:(ん?今日帰る気か?まぁ、いいか。)
更科さん:(お父さん、すぐに帰してくれるかなぁ・・・。)
余談ですが、山上くんと更科さんは書類に判(受領印)を押して提出してから、お金を受け取っています。
郵便局等で株の配当金を受け取る時もこの順序なのですが、どうして、お金を確認してから受領印を押す手順じゃないのか、不思議に思う事があります。
↑まぁ、局員さんがちょろまかしたりはしないと思いますが・・・。




