表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
485/682

まだ1週間ちょっとしか過ぎていないのに

 庄内様との話が終わった後、夕餉(ゆうげ)まで少し時間があったため、佳央様、更科さんと私の3人で更科さんと私に割り当てられた部屋に戻って来ていた。


 更科さんが、


「最近は忙しかったけど、これで少しは落ち着くかしらね。」


と話を切り出した。

 私は、


「そうだと()(がた)いのですが・・・。」


と返すと、佳央様も、


「ええ。

 私も、黒竜の魂を移してから、まだ1週間ちょっとしか過ぎていないのに、まるで季節が2つも3つも進んだように感じるわ。」


と遠い目をして話した。佳央様は1周間ちょっとと言っているが、正確には、佳央様に黒竜の魂を移したのは8日前だ。

 更科さんが、


「そうね。

 和人が捕まったり、私が(かどわ)かされかけたり。」


(なつ)かしそうに振り返ると、佳央様が、


「ええ。

 後。白石様と竜帝城と、後は向こうの竜の里でもだっけ?

 地下牢巡りも、してたんだったわよね。」


と話を振ってきた。私は、


「そんな、『巡り』って・・・。

 好きで入っていた訳ではありませんよ!」


と文句を言った。佳央様が、


「そう言えば、向こうの竜の里では、どうして地下牢に入ったんだっけ?」


と聞いてきたので、私は、


「雪熊に襲われて、魔法を使ったら、橋は落ちるし、(がけ)(くず)れるしで散々だったのに、責任を問われまして・・・。」


と苦笑いで返す。更科さんは、


「でも、今ここにいるんだから、軽いお(とが)めで済んだって事よね?」


と確認したので、私は、


「はい。」


と返事をした。

 更科さんが、


「なら良かった。」


と笑った。そして、


「ところで、地下牢、どんな感じだったの?」


と聞いてきた。私は向こうの竜の里の地下牢の事を聞いているのだろうと思い、


「はい。

 食事はそれなりでしたし、思ったほど寒くもありませんでした。」


と答えると、佳央様が、


「どんな食事?」


興味津々(きょうみしんしん)の様子。私は、


「確か・・・、松花堂(しょうかどう)弁当?

 そんな感じの名前だったと思います。」


と教えると、佳央様は、


「何、それ。

 全然、牢屋の食事じゃないじゃない。」


と期待(はず)れの様子。私は、


「では、どのような食事だと思ったのですか?」


と聞いてみると、佳央様は、


「そうね・・・。

 やっぱり、囚人(しゅうじん)序列(じょれつ)があって、一番の人から順に食べ物を取っていくのよ。

 で、和人は新入りだから、お(ひつ)にこびりついたのしか、食べられなかったとかかしらね。」


と本当にあったら命に関わりそうな事を言ってきた。私は、


「流石にそれは、悲惨すぎではありませんか?」


と苦笑いしたのだが、佳央様は、


「そう?

 草紙物(そうしもの)の中なら、いくらでもありそうじゃない。」


とあっけらかんとしている。私は、


「そうなのですか?」


と聞くと、佳央様は、


「まぁ、そんな話、読んだ事ないけど。」


といい加減な話だったようだ。私は、


「そうですか。」


と無表情で返した。



 夕餉の時間となり、一同、座敷に移動する。

 今日は、紅野(こうの)様、庄内様、清川様、古川様、佳央様、更科さんと私の7人だ。

 紅野様と庄内様が何やら話をしていると、障子(しょうじ)の外から、


「もし。

 夕餉をお持ちいたしました。」


と声がした。初めての声だが、下女の一人だろう。

 紅野様が、


「入ってまいれ。」


と声を掛ける。下女の人が、


「承知しました。」


と返事をし、障子が開いた。最近、井戸で見かけた女中さんだ。

 私は、そういえばあの時、どうして井戸の側で立っていたのだろうかと思ったが、(ぜん)を運んできたので、直ぐに忘れてしまった。


 その膳の上には、焼いた魚の切り身と、柚子(ゆず)の香が(ただよ)う大根と人参の(なます)が乗っていた。この他、白菜のお漬物、沢庵(たくあん)、蓋がしてあるが、おそらくは茶碗蒸し、そして白いご飯がある。


 更科さんが小さく、


塩鯖(しおさば)かぁ・・・。」


と遠い目で(つぶや)く。そう言えば、更科さんは魚の干物(ひもの)はあまり好みでなかった(はず)だ。

 私は更科さんに近づき、小声で、


「大丈夫ですか?」


と確認すると、更科さんも小声で、


「ええ。」


と少し(うれ)しそうに返事を返した。そして、


「前に、一緒に塩鯖定食、食べたでしょ?

 それ、思い出しちゃって。」


と付け加える。私は、


「そう言えば、会った頃に一緒に食べましたね。」


と返すと、更科さんは、


「そうね。

 あの時、本当はあまり得意じゃなかったんだけどね?

 和人が頼んだから、私も同じものが食べたくて頼んだのよ。」


と回想した。私は、


「そうだったのですか。」


と、私も少し笑いながら頷いた。

 庄内様から、


「いつも、仲が良いの。」


嫌味(いやみ)を言われてしまったので、私は、


飯時(めしどき)に、申し訳ありませんでした。」


(あやま)った。



 少し酒も振る舞われた後、食事が終わり、雑談の時間が過ぎていく。

 紅野様は、まだ仕事があるとかで、既にこの場から下がっている。

 庄内様が、


「そろそろ、妾は帰るとするかの。」


と腰を上げると、清川様も、


「では、お見送りします。」


と立ち上がった。庄内様から、


「なんじゃ。

 一緒に戻らぬのか?」


と聞くと、清川様は、


「申し訳ありません。

 まだ、荷物が・・・。」


と答えた。庄内様は、


「今朝、(まと)めておけと伝えたじゃろうが。」


と文句を付けたが、清川様は、


「庄内様がいらっしゃいましたので、片付ける時間が取れませなんで・・・。」


と言い訳をする。庄内様は、


「む・・・。

 そう言われれば、その通りか。」


と直ぐに納得した後、


「では、明日戻ってくるのじゃぞ。」


と改めて指示を出し、清川様も、


「はい。」


と返事をした。庄内様は、


「見苦しい所を見せたの。」


と苦笑いした。そして私に、


「山上よ。

 古川をくれぐれも頼んだぞ。」


と声を掛ける。私は、


「もちろんです。」


と返すと、庄内様は、


「うむ。」


と言って、この場を後にした。

 古川様と更科さんも立ち上がり、私も一緒に見送りに行く。

 玄関で庄内様が、


「では、またの。」


と挨拶をし、(みんな)も、


「さようなら。」


と挨拶を返す。

 余程、心配なのだろう。

 玄関を出る間際に、また振り返って、私に、


「くれぐれもの。」


と心配そうに言ったので、私は、


「はい。」


と返事をした。



 見送りが終わり、このまま解散となる。

 更科さんと自分の部屋に戻り、長火鉢(ながひばち)の炭に火を点ける。

 少し回転させたり、炭同士の重なり具合を調節して、なるべく早く炭全体が赤くなるように面倒を見る。


 更科さんが、


「和人、明日はどうするの?」


と聞いてきた。私は、


「はい。

 明日、赤竜帝から竜帝城に呼ばれているので、出かけるつもりです。」


と返事をした。そして、


「ここに使者が来たという話でしたが、なにか聞いていませんか?」


と尋ねると、更科さんは、


「あぁ、あれね。」


と言って長持(ながもち)の所に移動し、中から書状を取り出した。そして、それを私の所に持ってきながら、


「今朝、あれから蒼竜様が来ててね。

 庄内様が来てたから、渡しそびれてたけど、これを(あず)けていったのよ。」


と説明し、手渡してくれた。私はこれを受け取って書状を広げたのだが、読めない字が含まれている。

 私は、


「佳織、すみません。

 読んでもらってもいいですか?」


と渡すと、更科さんは、


「うん。」


と言って、読んでくれた。

 これには、明朝、使いの者を送るので竜帝城まで来てほしいと書いてあった。

 細かな時間まで、書いてある。

 私は、


「佳織、ありがとうございます。

 いつも助かります。」


とお礼を言うと、更科さんも、


「うん。」


と嬉しそうに返す。

 私は、


「ひょっとして、何か計画でも立てていましたか?」


と確認すると、更科さんは、


「私は、その後でもいいから。」


とニッコリ笑う。私は、


「分かりました。

 では、明日、竜帝城から戻ったr、時間が取れるようにしますね。」


と返すと、更科さんは嬉しそうに、


「うん。」


と嬉しそうに返し、私にぴったりとくっついてきた。

 この後、更科さんと私は、お互いの頭を()でたり体を(こす)りつけたりして、佳央様がいたら出来ない事をしながら夜を過ごしたのだった。


 作中、塩鯖(しおさば)が出てきますが、ご存知の通り、鯖を2枚におろして塩水で洗い、塩をして干したものです。

 この塩鯖ですが、江戸時代のころの京都では、若狭湾からの物が鯖街道を通って供給されていました。

 といっても、鯖街道というのは、若狭湾から魚介を運んでいたルート全般を指すらしく、魚介の中でも塩をした鯖が多かったので、このように呼ばれたのだそうです。


・鯖街道

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E9%AF%96%E8%A1%97%E9%81%93&oldid=91559508

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ