赤竜帝と合流して
御慶、申し入れます。
拙作ではございますが、今年もお付き合いいただけると、ありがたいです。
青天の下、雪山で雪崩に遭い、焔太様を除き難を逃れた私達は、自力で戻ってきた焔太様と合流した。
そして、山を下り竜神神社に差し掛かった。
すると、偶然、社の戸が開き、そこから赤竜帝が出てきた。
私はびっくりして、咄嗟に、
「ぅをはっ!
こんにちは。」
と挨拶をした。
赤竜帝と、目が合う。
赤竜帝は小声で、
「不味い所を、見られたな。」
と苦笑いした。
佳央様が、
「噂は聞いたことあったけど、ここに通じてたのね。」
と呟いた。どうやら、佳央様は赤竜帝が抜け道を通り、ここに出てきた事に気づいた模様。だが、焔太様は、
「このような所に、何か用事だったのですか?」
と、抜け道の事は知らない様子だった。
赤竜帝が、
「ここには、良く参拝しに来るのだ。」
と返事をすると、佳央様は、
「赤竜帝も、こちらの信仰なのですね。」
と確認した。赤竜帝が、
「歴代、赤竜帝は皆そうだ。」
と、これを認めた。
焔太様が、
「これから、里にお戻りになられるのですか?」
と行き先を聞くと、赤竜帝は、
「いや。」
と否定し、
「一応、隠密だ。」
と答えた。焔太様が、
「護衛の方もいらっしゃらないので、不思議に思っておりましたが、隠密だからでしたか。
では、念のため、我々はここで少し休んでから出発いたします。」
と気を利かせた。だが、赤竜帝は、
「別に、一緒で良いぞ。
門の手前までだがな。」
と仰った。佳央様が、
「蒼竜様のところですか?」
と確認したのだが、焔太様が、
「隠密と言っているのに、行き先を聞くものじゃない。」
と佳央様を叱りつけた。
赤竜帝は少し苦笑いしながら、
「いや、良い。」
と一言。そして、
「蒼竜まで、少し話をしにな。」
と佳央様の予想が当たった模様。私は好奇心で、
「宜しければ、お聞きしても?」
と尋ねると、赤竜帝は、
「明日な。」
と言った。私は、
「明日ですか?」
と首を傾げると、赤竜帝は、
「今朝、使者を送ったではないか。」
と言ってきた。私は、赤竜帝の使者が来たという話を聞いていなかったので、
「焔太様。
何か聞いていますか?」
と確認してみた。だが、焔太様も眉を顰め、
「いや。
俺は不知火様から、山上と一緒に雪熊を狩るようにと言われただけだからな。」
と知らない様子。私は、
「そうですか。」
と返して、赤竜帝に、
「申し訳ありません。
どうやら今朝、使者の方が来る前に出掛けてしまったようです。」
と返事をした。赤竜帝も、焔太様と私の会話で気付いたらしく、
「そのようだな。」
と頷いた。そして、
「明日、赤竜城に来るように書状を持たせたのだ。
仔細はその時にな。
一応、巫女にも書状を送ってある。」
と、ここでは話さないつもりの様だ。
だが、ここで言う巫女様とは、どちらの巫女様なのか?
そう思った私は、
「竜の巫女様ですか?
それとも、稲荷の巫女様ですか?」
と確認した。すると赤竜帝は、
「稲荷の巫女?
何故、稲荷の巫女が出てくる?」
と不思議そうに聞いてきた。私は、
「白狐の件で、知り合う事になりまして。
昨日、巫女様の案内で谷竜稲荷まで行き、祝詞を上げて参りました。
白狐と言えば、稲荷神の管轄だそうですので。」
と説明した。すると、赤竜帝は、
「概要は解った。
ならば、稲荷の巫女にも書状を送らねばな。
が、その前に状況把握か。」
と苦笑い。そして少しの沈黙の後に、
「立ち話が長くなった。
続きは、降りながら話すか。」
と声を掛けてきた。
古びた木の鳥居をくぐり、竜神神社から竜の里に向かって坂を下る。
赤竜帝が、
「それで、山上。
一昨日の晩から、何があったのだ?」
と確認してきた。私は、
「はい。
一昨日の夜、寝ていると、白狐から稲荷の巫女様が来ると言われまして。
それで昨日、谷竜稲荷に行って祝詞を上げたのですよ。
その時、鏡に稲荷神の分け御霊を移しまして。
すると、稲荷の巫女様から、谷竜稲荷を管理してもらうことになるかもしれないと言われました。
ですが私は、仮の巫女の修行中です。
ですので、今朝、これから勉強して、将来、神主になるように言われまして。
その間は、古川様が神主の代理を引き受けてくれるそうです。」
と一気に説明した。赤竜帝の他、焔太様も頭が痛そうにしている。
赤竜帝は、
「話は飛び飛びだが、概ね、理解した。
元々、竜の巫女様と同格になったという話だったからな。
神主になるのは、良いのだ。
・・・良いのだが、明日までは、これ以上肩書を増やしてくれるなよ。」
と言われてしまった。私は思わず、
「いえ。
このような事は滅多にありませんから。」
と苦笑しながら反論したのだが、焔太様が、
「本当か?」
と訝しそうな目つきだ。私は、
「当たり前じゃありませんか。」
と主張したのだが、焔太様は、
「いや、山上だからな・・・。」
と信用されていないようだった。
赤竜帝とは途中で分かれ、竜の里の東門に辿り着く。
門に近づくと、普段見かけない門番が立っていた。
20歳くらいの見た目で、体つきは、背が高く筋骨隆々。顔は面長で、鼻筋の通った隙きのなさそうな顔だ。
その門番さんが、
「早かったな。」
と声を掛けてきた。
焔太様は知己らしく、
「ああ。
主らしき個体を見つけてな。
今日は4頭、間引いた。」
と答え、一瞬だけ佳央様の方に視線を遣ると、
「黒山に持ってもらっている。」
と説明した。門番さんの視線が、佳央様に向けられる。
すると佳央様は、
「ええ。」
と肯定した。
門番さんは、
「そうか。」
と返事をし、腰の帳面を出した。
私が手形を出すと、門番さんはこれを確認し、
「よし。
行っていいぞ。」
と門をくぐる許可が降りた。
まずは、竜帝城に赴く。
そこで、佳央様が雪熊と兎を出すと、焔太様は、
「助かる。」
とお礼を言った。
佳央様が、
「良いわよ。」
と返し、佳央様と私はこの場を後にした。
屋敷の玄関に着くと、更科さんが、
「和人、おかえりなさい。」
と出迎えてくれた。玄関には、清川様、古川様と、何故か庄内様もいる。
私は、
「ただいま、戻りました。」
と返事をした後、庄内様にも、
「庄内様、お久しぶりです。」
と挨拶をした。庄内様は扇子を口に当て、
「うむ。」
と挨拶を返す。佳央様が、
「立ち話も何だし、皆で座敷に移動する?」
と提案し、庄内様も、
「そうするかの。」
と応じる。下女の一人が、
「案内致します。」
と申し出た。
私は、庄内様を待たせるのも悪いと思い、いそいそとすすぎをしたのだった。
年が明けて1発めですので、今回は小粒ではありますが、正月ネタを1つだけ。
作中、庄内様が扇子を持っていました。現代も使われているものなので説明するまでもないと思いますが、コンパクトに折りたたむことの出来る団扇のような物となります。
この扇子ですが、正月に親しい人に白扇を贈る習慣があったのだそうです。
・扇子
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