下山中に
青天の下、雪山で昼食を摂った佳央様、焔太様と私は、今日の雪熊の討伐目標数に達したという事で、少し早いが下山を始めていた。
風は少し強めで寒いのだが、日光のおかげか、気分はそれほど悪くない。
佳央様が、
「天気もいいし、野兎でも狩りたい気分ね。」
と言うと、焔太様も、
「そうだな。」
と同意した。
私は、お屋敷で料理してもらう事を考え、
「野生の兎は、すばしっこくてなかなか捕まりません。
ですが、屋敷は人数も多いので、仮に1羽捕まえたとしても、それでは足りないと思うのです。
止めたほうが、良いのではありませんか?」
と指摘すると、焔太様が、
「いやいや。
狩りとは言っているが、体を動かしたいという意味だろう。」
と苦笑いされた。佳央様も、
「ええ。
それに、家に持って帰っても、献立は決まってる筈よ。
沢山捕ったとしても、迷惑なだだからね?」
と逆に諭されてしまった。私は少しイラッとしながら、
「ならば、狩った兎は、焔太様が持ち帰るのですか?」
と聞いたのだが、焔太様は、
「貰えるならありがたいが・・・。」
と歯切れが悪い。私は、
「何か、不都合があるのですか?」
と聞くと、焔太様は、
「〆めた後、美味しく食べるには、暫く置く必要があるだろうが。」
と答えた。
私は、
「えっと、つまり・・・。
時間がかかるから面倒だと言っていますか?」
と言い換えると、焔太様は、
「概ね、そう言う事だ。
だが、まぁ、貰ってやるから心配するな。」
と答えた。そして、
「もし狩るなら、あっちの斜面に多く出るが、行くか?」
と聞いてきた。私は斜面と聞いて悪い予感がしたので、
「いえ。」
と断ったのだが、佳央様が、
「行かないの?」
と聞いてきた。佳央様は、狩りをしたいのだろう。不満そうな顔をしている。
私は、
「焔太様も、あまり乗り気ではないようですし、悪いではありませんか。」
と焔太様を出しに断ろうとしたのだが、焔太様は、
「俺は、どっちでも良いぞ。」
と言ってきた。佳央様が、
「なら、決まりね。」
と行く事になってしまった。
私は渋々、同意した。
山の斜面まで移動する。
焔太様は、
「もうすぐだ。
そろそろ、気配を小さくしろ。」
と言った。なるべく、気配を小さくする。
純白の雪に白い兎は、大変見つけ難い。
暫くして、佳央様が最初に、
「あそこにいるわね。」
と指差した。
私はよく見えなかったので、
「どこですか?」
ともう一度聞いたのだが、佳央様は、
「あそこよ。
見えない?」
と指を振りながら方向を示した。だが、私には白一色にしか見えない。
焔太様が、
「確かにいるな。」
と同意する。私は、
「流石、竜人ですね。
私には、雪しか見えません。」
と褒めたのだが、佳央様から、
「ひょっとして、普通に探してない?」
と指摘した。私は、
「ちゃんと、目を皿のようにして探していますよ?」
と主張したのだが、佳央様は、
「ちゃんと、魔力で見てる?
温度でもいいけど。」
と言ってきた。言われた通り、スキルで温度を見てる。
すると、佳央様が指した先に、白っぽい中に若干の青い米粒のような物が見えた。
距離にして、2〜3町くらいだろうか。
私は、
「ありがとうございます。
なるほど、こうすれば見えるのですね。」
とお礼を言うと、佳央様は、
「折角、スキルを持ってるんだから使いなさい。」
と少し照れている様子。私は、
「はい。」
と軽く返事をした。焔太様が、
「それで、どうする?」
と聞いてきた。恐らく、兎の仕留め方を聞いているのだろう。
佳央様は、
「そうね・・・。
ここから、雪玉で狙ってみる?」
と提案したが、現実的な距離ではない。
私は、
「流石に、あの的は小さいですし、そもそもあんなに遠くまでは投げられませんよ。」
と指摘したのだが、佳央様は、
「そう?」
とニヤリ笑い、足元の雪をぎゅっと固め始めた。
予想よりも、雪玉が小さくなる。
これは、凶悪な石にも匹敵する硬いやつに出来上がったに違いない。
私は、
「佳央様、固めますね。
雪合戦で使ったら、絶対に怪我をするやつじゃないですか。」
と少し呆れ気味に言うと、佳央様は、
「当たり前じゃない。
この位は固めないと、飛んでる最中に崩れるじゃない。
それに、当たっても倒せないんじゃ、意味ないでしょ?」
と当然の事のように返した。この様子だと、以前にもやった事があるのだろう。
私は、
「それはそうですが・・・。」
と苦笑いすると、焔太様も、
「まぁ、折角だ。
俺もやるか。」
と言って、かなり硬めの雪玉を握り始めた。
あんなに遠くまで飛ばせる自信はないが、私も硬い雪玉を作成させられる。
焔太様が、
「先ずは俺から行くぞ。」
と自信満々に雪玉を投げる。
だが、途中で失速。
半分にも届かず、雪面に落ちた。
焔太様が、
「これは、難しいな。」
と感想を言ったのだが、佳央様は、
「こうやるのよ。」
と言って、雪玉を重さ魔法も使って斜め上に投げ飛ばした。
見事な軌跡を描き、きっちりと兎を仕留める。
焔太様が、
「魔法、ありかよ。」
と文句を付けたのだが、佳央様は、
「駄目なんて言ってないでしょ?」
と切り返した。焔太様が、
「まぁな。」
と苦笑いする。
佳央様は、
「ほら、行くわよ。
他の動物に横取りされるじゃない。」
と言って、早速、先程倒した兎の所に移動を始めた。
焔太様と私も後を追って、斜面に向かう。
兎を確保した所で、山の上の方から、何やら低い音が聞こえ始めた。
突如、焔太様が、
「逃げろ!」
と叫び、慌てて来た道を戻り始める。
ひょいと上を見上げると、白い煙が近づいているのが見えた。
──雪崩か!
私は、皆の夢の中で、自分が雪崩に巻き込まれて死んだと言っていたのを思い出し、
「はいっ!」
と返事をして、焔太様を追いかけた。
佳央様から、
「黄色魔法、使って!」
と助言が飛ぶ。重さ魔法で黄色魔法を集め、両足に纏わせる。
焔太様が、
「急げっ!」
と言うが、焔太様はかんじきを履いていない。
私は、
「お先ですっ!」
と断って、先に行かせてもらった。
後ろから佳央様が、
「ほらっ、急いで!」
と声を掛けてきたので、私も、
「はいっ!」
と言って、山頂の方をチラリ確認し、雪崩の進行方向の横になるように一生懸命で逃げた。
後ろから焔太様の、
「ぐわぅっ!」
という叫び声が聞こえてきた。一瞬振り返ろうと思ったのだが、佳央様から、
「前に走って!
竜人なら平気だから!」
と声を掛けられ、そのまま前に走る。
お陰で、焔太様は雪崩に巻き込まれたが、佳央様と私は、かろうじて雪崩に巻き込まれずに済んだ。
一息ついてから、私が、
「焔太様は、どうなったでしょうか。」
と聞くと、佳央様は、
「今頃、雪の下じゃない?」
と答えた。私は、
「掘り出しに行きましょうか。」
と救護に向かう事を提案したが、佳央様は、
「ん?
別に、放っておいても良いんじゃない?
最悪、竜化すれば抜け出せるんだし。」
とあまり心配した様子はなかった。私は、
「確かに、そうでしょうけど・・・。」
と斜面の下の方を見ると、小さく火柱が上がるのが見えた。
佳央様が、
「赤魔法を使ったみたいね。」
と解説、私も流石は竜人だと感心しながら、
「そのようですね。」
と返事をした。
全員無事と分かり、皆の夢が正夢にならずに良かったと、ホッとする。
私は、雪の中から出てきた焔太様に、
「こちらです!」
と手を振って呼びかけたのだった。
作中、野兎が出てきます。
この兎ですが、鳥と同じく1羽、2羽と数えます。(食肉に限るそうですが)
これは、長い耳が羽みたいだからという説が有名ですが、この説には続きがあり、兎は獣ではなく鳥だから食べてもセーフと言う為のこじつけだったという話もあるのだそうです。
このこじつけは江戸の将軍家でも通用したらしく、正月三が日に兎汁の雑煮を食べる習慣があったのだとか。
ちなみにこのネタ、お雑煮の話でもありますので、正月に使おうと思っていたのですが、1日ずれて大晦日になってしまいました。(^^;)
明日の後書きは、どうしたものか・・・。
・ウサギ
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・食のタブー
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〜〜〜
ついに、今年も大晦日がやって参りました。
ですがおっさん、未だに部屋の掃除も始められていない始末。
(例年通り)現実逃避しまくりなおっさんですが、また、来年も宜しくお願いします。




