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そういえば・・・

 お屋敷の中、私は佳央様と更科さんを探していた。

 厠から飛び石を渡り、お勝手の方に戻る。

 先程は(いそが)しく明日の仕込みをしていたお勝手の人達も、今は作業が終わった後らしく、()がり(かまち)に腰を掛け、お茶を飲んで(なご)んでいる。


 その、お勝手の一人が私に気づき、


「戻ったか。」


と、声を掛けてきた。先程、私と話していたお勝手の人も、


「みたいだねぇ。」


と相槌を打ちながら、


「こっちだよ。」


と手招きをした。どうやら、私に話がある様子。

 私は、


「すみません。

 どうかしましたか?」


と質問しながら近づくと、お勝手の人が、


「お嬢様を、探していたんだったよね?」


と確認をしてきた。

 私は、


「はい。」


肯定(こうてい)すると、お勝手の人は、


「そうかい。

 なら、風呂場を探してみな。

 いるはずだよ。」


と教えてくれた。先程、佳央様が部屋にいなかったのは、入浴(にゅうよく)中だったからのようだ。

 更科さんも一緒に入っているのであれば、誰もいなかった事にも説明がつく。

 私は、


「ありがとうございます。

 でも、わざわざ誰かに聞いていただいたのですか?」


と確認すると、お勝手の人は、


偶々(たまたま)、さっき下女の子がね。」


と偶然聞いたらしい。私は、


「そうでしたか。

 気に留めていただいて、ありがとうございました。」


とお礼を言った。


 しかし、居場所を聞いたものの、女性のお風呂まで押しかけていったら、流石(さすが)に無作法だ。

 更科さんから、後で何を言われるか分かったものではないというのもある。

 なので、私は風呂場には行かず、先に佳央様の部屋に行く事にした。


 佳央様の部屋に移動し、行灯(あんどん)に火を(とも)す。

 だが、待つこと四半時(30分)、二人共、一向に戻ってくる気配もない。

 私は、長風呂だななどと思っていると、(ようや)く更科さんが部屋に来た。

 私は、


「遅かったですね。」


と声を掛けたのだが、更科さんは、


「遅っかったって、和人。

 紅野(こうの)様に頼むって言ってたじゃない。」


と良く解らないことを言い始めた。私は、


「何をですか?」


と確認すると、更科さんは、


「最初に案内された部屋に移るって話よ。」


と答え、


「和人が提案したんじゃない。

 覚えてない?」


と付け加える。私は、覚えがなかったので、


「そんな事、言いましたっけ?」


と首を(かし)げると、更科さんは、


「そう言えば、和人。

 あの後、寝てたものね。」


と納得した様子。だが、私は寝る前と聞いて、昨日の宴の時に話していた事を思い出し、


「そういえば・・・。」


と苦笑いをした。更科さんが、


「無理しなくて、大丈夫よ?」


と覚えていたふりをしていると思っている様子。

 私が、


「焔太様に、私がからかわれた後の話ですよね?」


と言うと、更科さんは、少し(きま)りが悪そうに、


「ごめん。

 覚えてたのね。」


と謝った。私も、謝罪させるのが目的で言ったわけではないので、


「いえ。」


と軽く返事をし、話を変えるために、


「では、向こうの部屋に移りましょうか。」


と提案した。すると更科さんは、


「うん。」


と少し笑って返事をした。



 佳央様の部屋を出て、私達に最初に割り当てられた部屋に移動する。

 障子を開けて部屋に入ると、佳央様が座って待っていた。

 私は、


「すみません。

 すっかり、忘れていまして。」


と謝ると、佳央様は、


「やっぱり。」


と言われてしまったので、私は、


「申し訳ありません。」


と軽く頭を下げて謝った。


 土瓶(どびん)の乗った長火鉢(ながひばち)があったので、その(そば)に座布団を()き、そこに座る。

 佳央様が、


「和人。

 そろそろお茶が()くから、準備して。

 あっちに、湯呑(ゆの)みもあるから。」


と指示を出す。更科さんが、


「湯呑みなら、私が持って行くわね。」


(ことわ)って、長火鉢の上まで持ってきてくれた。

 私は、


「ありがとうございます。」


とお礼を言うと、更科さんは、


「別に、いいいわよ。」


と笑顔で返す。丁度(ちょうど)お茶が沸いたので、私は、


「では、早速使わせていただきますね。」


と断って、土瓶から湯呑みにお茶を(そそ)いだ。



 お茶を飲みながらの、雑談が始まる。

 佳央様が、


「あの後、何を話してたの?」


と聞いてきた。夕食の後、清川様や古川様と話した事について聞いているのだろう。

 私は、(あた)(さわ)りのない範囲でと思い、


「全部は話せませんが、どうも、私の修行は竜の巫女様ではなくて、稲荷の巫女様が付けるそうなのですよ。」


と返事をした。すると、佳央様は、


「あぁ、あのちっこいのね。」


とやけに()()れしい。私は、


「お知り合いで?」


と確認すると、佳央様は、


「里の子は、半分くらいお世話になるから。」


と答えた。

 更科さんが、


「半分?」


と質問をすると、佳央様は、


「この前、山の中腹に神社があったじゃない?」


と別の神社の話が始まった。

 更科さんが、不思議そうに、


「うん。」


と相槌を打つ。すると佳央様は、


「あそこ、竜神神社(りゅうじんじんじゃ)って言うんだけど、そっちが里の昔からの信仰(しんこう)なのよ。」


と説明した。更科さんが、へ〜っという顔をしている。

 佳央様は、


「で、次に稲荷神社だけど、お稲荷様って、ご利益(りやく)商売繁盛(しょうばいはんじょう)とか豊穣祈願(ほうじょうきがん)でしょ?」


と話すと、更科さんが、


「うん。」


と頷く。佳央様は、


「それで、商家や農家の人が中心になって拝みたいっていう事で出来たのが、あそこの神社なの。

 だから、里の半分は竜神神社を参拝して、残りの半分は稲荷神社なのよ。」


と説明した。更科さんが、


「そういう事ね。」


と納得した様子。佳央様は、


「それで、稲荷神社に参る家の子って、家と近いのもあって結構遊びに行くでしょ?

 だから、私も付き合いでよく遊びに行って知ってるのよ。」


と最初の質問にも答えてくれた。

 私からすれば、『結構遊びに行くでしょ?』と言われても知らないのだが、


「そうでしたか。」


と笑顔で返した。それにしても、『ちっこいの』と呼ぶのは馴れ馴れしすぎる気がする。

 私は、


「稲荷の巫女様とは、直接話しをしていたのですか?」


と聞くと、佳央様は、


「ほら。

 容姿がアレでしょ?

 だから、子供と良く遊んでいるのよ。

 それに、(なな)(まえ)は神は(うち)って言うじゃない?

 だから、無礼だとかも、あまり言われなかったしね。」


と苦笑いしながら答えた。表情から(さっ)するに、色々と世話になっていたのかもしれない。

 私は、


「遊んでもらっていたから、親し気に言っていたのですか。」


(まと)めると、佳央様は、


「そういう事よ。」


と言った後、


「もう遅くなってきたから、私は自分の部屋に戻るわね。」


と言って、そそくさと部屋を出ていった。

 残ったのは、更科さんと私のみ。

 私は、


「では、私達もそろそろ寝ましょうか。」


と言って、長火鉢の火の始末をした後、布団(ふとん)()いたのだった。


 作中、山上くんが土瓶(どびん)からお茶を(そそ)いでいます。

 土瓶は、今となっては土瓶蒸(どびんむ)しに使うくらいしか用途が思いつかないという方もいらっしゃると思います。ですが、江戸時代の頃は、お湯を沸かしたりお茶を煮出したりするのに使われていたという話に基づいています。

 このお茶を煮出して飲む方法は、当時の庶民の間では、一般的なお茶の出し方だったのだそうです。


・土瓶

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 今日は、昨日の新型コロナワクチン4回目の接種のため(?)、微熱が出ているので短めです。


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