実家の朝
ちょっと前に山上くんが寝ているときに見た夢の話として短編『魔法少年?になって世界を救ったはずだが夢落ちだった件』で投稿しましたが、冒頭でその話と整合性をとっています。
* 2019/09/23
誤記の修正を行いました。
ご報告いただきありがとうございました。
朝目が覚めたとき、隣に更科さんが寝ていた。
ムーちゃんがお腹の上に乗っていたものの、前回のように、更科さんを抱き枕にしているようなこともなく、まだ少し冷える山の朝の気温が清々しく感じられた。
なんとなく、
「ムーちゃん・・・。」
と呼んでみたが、何の反応もなく寝ているようだった。
その様子を見てホッと胸をなでおろしたのだが、なぜ安心したのかは分からなかった。
私は、更科さんを起こさないようにそっと起き出し、土間の方に回った。
土間では既に、母が朝餉の支度をしていた。
私は、
「おはよう。
昨日はバタバタさせてすまんかったな。」
と母に声をかけた。すると、
「おはようね。
今日は敬語はせんの?」
と言って来た。私は、
「まだ薫さんが起きてきていないし。」
と言った。母は、
「あぁ、そういうことね。
それにしても、歩荷は朝が早いけん大変じゃね。
今朝もそろそろじゃろ?
机の上の食いながら行きんね。」
と言って、机の上のおむすびを指差した。私は、
「具は梅干し?」
と聞くと、
「菜っぱの漬物も入れといたきんね。
たまには変わったもんもよかろ?」
と言いながら、他の家族の朝ご飯に煮物を作っていた。私は、
「先に村の雑貨屋で荷物の準備をするんで、夜が明けたら薫さんを起こしてくれんか?
雑貨屋の場所は、昨日も一緒に行ったので知っているはずだけど、聞かれたら教えてやってな。」
とお願いしたのだが、母は、
「一緒につれていきんね。
へそ曲げるよ?」
と言われた。私は、
「そういうもん?」
と聞いたところ、母は、
「そういうもんよ。」
と答えた。私は更科さんをもう少し寝かせておいてあげたかったが、へそを曲げられても困るので、更科さんを起こすことにした。
私は天幕に半分体を突っ込んで、
「おはようございます。
そろそろ荷物を取りに行くのですが、薫さんも一緒にいきませんか?」
と少し肩を揺さぶりながら話しかけた。
今は更科さんの体にもたれ掛かるようにしてムーちゃんが寝ていたのだが、一緒に揺られたせいか、
「キュキッ?」
と眠そうに鳴いて起きた。でも、更科さんのほうは起きなかった。
私はもう一度、更科さんの肩を揺さぶってみるが、よく眠っているようだった。
なんとなく、ほっぺたをつついてみる。
「そろそろ起きないと、置いていきますよ?」
すると、目を擦りながら、
「おはよう。
もう朝?」
と、少し不機嫌な感じで聞いてきた。私は、寝起きは悪い方なのかなと思いながら、
「はい。
これから雑貨屋で荷を受け取ってから葛町に戻ります。」
と言って、今日の予定を説明した。すると、
「わかった。
すぐ着替えるから待っていて。」
と言って、おもむろに浴衣を脱ごうとした。私は慌てて天幕から出ると、
「あぁ、ごめん。
少し見えちゃった。」
と言って謝った。更科さんは、
「別にそんなに慌てなくても大丈夫よ?
和人だし。」
と言ってから、少し間をおいて、
「ごめん。
やっぱり、よくなかった。」
と恥ずかしそうな声が聞こえてきた。私は、
「ごめんなさい。
土間の方で待っているので、着替えたら来てください。」
と言うと、更科さんは、
「うん・・・。
あ、いや、天幕を片付けてから行くので、やっぱり先にいってて?
ちょっと時間がかかるから。」
と前言を撤回した。私は、
「テントの片付け、手伝うよ?」
と言うと、更科さんは困ったように、
「その、和人、いつもやさしいけど、今回のやさしさは空振りなの。
ちょっとアレだから、ごめんね。
先に行っててくれないかな。」
と言って追い払われてしまった。私は釈然としないながらも母にこの話をした所、母は、
「あぁ、そりゃ、あんたが悪いんね。
女の子には月に数日、そういう日があるじゃろ?」
と教えてくれて、しまったと思った。母は、
「これから女の子と暮らすんじゃったら、そういうのも覚えんとね。」
と言って暖かい目で見られた。それから私は、
「そうするよ。
薫さんは雑貨屋の場所もうろ覚えかもしれないから、もし時間があるなら連れてきてな。」
と頼んだが、ふと嫌な予感がして、
「あと、面倒でも、間違っても次兄に案内させてはいかんからな。」
と、付け加えてから、すぐに村の雑貨屋にむかった。
田中先輩が私を見け、
「おっ!
更科置いてきたのか。
喧嘩か?」
とにこやかに聞いてきた。私は、
「いえ、天幕を片付けるのに手間がかかるので、その間に荷物の準備をするように言われまして。」
と答えると、
「あぁ、親に直接話しておきたいことでもあったか。」
と言った。私は、そういう見方もあったかと思ったが、後で更科さんに直接聞けるような内容でもないので、悶々とした。私は、
「そこは、はっきりとは聞かなかったのでよく分かりません。」
とだけ答えておいた。田中先輩が、
「今日の荷はこれだけな。
ところで山上。
両親の反応はどうだったか?」
と聞いてきた。私は荷を結わえながら、
「はい。
上々でしたよ。」
と答えたものの、次兄が帰ってきてからのことを思い出して自信がなくなり、
「・・・たぶん。」
と付け加えた。田中先輩は、
「まぁ、誰でも万全な状態でもビビるもんだ。
よほどのことでもない限り、大丈夫だろ。」
と言った。私は次兄の一件を思い出して、困り顔で、
「その、よほどのことがあったので、気を揉んでいます。
まさか身内に・・・」
と言ったところで、更科さんが来て、
「『まさか身内に』何?」
とにこやかに聞いてきた。私は、これが尻に敷かれるということかと思いながら、
「いえ。
これ以上はさすがに田中先輩でも、明かす訳にはいきいません。」
と答えた。田中先輩が面白そうに、
「そうきたか。
なるほどな。」
と頷いた後、
「まぁ、これは俺の勝手な想像で話をするんだがな。
たとえ更科の事が身内にバレたんだとしても、どうせ早いか遅いかだけだろうからいいんじゃないか?
悪いことが先に分かるというのは、後になって考えると僥倖だったりするんだぞ。」
と言った。更科さんは怪訝な顔つきで、
「田中先輩、昨晩、覗きにきていないですよね?」
と言ったので、田中先輩は、
「昨晩はいつもの居酒屋で飲んでたぞ?
まぁ、年の功でなんとなく分かるだけだ。」
と返していた。私は思わず、
「確かに、状況からすれば察することができるのかもしれませんが、今回の田中先輩といい、先日の長谷川さんといい、どうやって、普通に考えてもたどり着けないだろう所までたどり着いているのですか?」
と聞いた。すると、田中先輩は、
「俺の場合は勘だから、よくはずれているだろ?
ひとまず言ってみているだけだ。
ただ、長谷川さんは違うぞ?
あの人は、前に聞いたら、心理学やら論理学やら、その辺を勉強していてな。
元々几帳面だから、言葉の表面だけではなく、態度や表情、しゃべり方なんかの細かい所から何があったかを考察するそうだぞ。」
と話した。私は、
「そういえばあの時、長谷川さんは『みんな、巻き込んじまえ。』とか言っていましたよね。
几帳面なら、もうすぐ、何か動きがあるのでしょうか。」
と聞くと、田中先輩は、
「そんな冒険者組合の中の話なんて、俺が知るわけがないだろ。
ただ、長谷川さんなら、半年位じっくりと泳がせたり何したりで裏をとっていって、最後はぐうの音もでないようにしてから処罰するんじゃないかな。」
と言って、まだすぐじゃないだろうという予想を話してくれた。更科さんは、
「その、処罰なんかされたら、お礼参りとか怖いんだけど・・・。」
と言うと、田中先輩は、
「そこは、冒険者組合が何とかするだろ。」
と言った。私も、
「その時は、私も薫さんのことを守りますよ。」
と言った。すると、更科さんはため息を一つついてから、
「言葉だけなら心強いんだけどね?
私たちが出かけている間に、家とかに火をかけちゃうかもしれませんよ?」
と申し訳なさそうに言った。田中先輩が、
「火付けなんて死罪だからしないだろ?」
と言うと、更科さんは、
「仮にの話です。
ただ、本人ではなくて、別の人にやらせるかもしれません。」
と返した。田中先輩は、
「あぁ、裏のやつらを雇ってか。
あれはなかなか足がつかないらしいから、確かに厄介だな。」
と言って、相槌を打っていた。
私は、裏の仕事の人たちが本当にいるかどうかもよく分からなかったが、そういう裏の人とはあまり関わり合いになりたくないなと思ったのだった。
田中先輩:よほどのことでもない限り、大丈夫だろ。
更科さん:(どんな話をしているのかしら(笑)。)
山上くん:その、よほどのことがあったので、気を揉んでいます。
更科さん:(ん???)
山上くん:まさか身内に・・・
更科さん:『まさか身内に』何?(笑)
山上くん:(げっ『(笑)』顔だ!やっば!)いえ。これ以上はさすがに田中先輩でも、明かす訳にはいきいません。
田中先輩:(こりゃ、身内かその知り合いに更科を犯った奴がいたな。)そうきたか。なるほどな。