巫女(みこ)違い
* 2022/11/19
白狐の会話の括弧が間違っていたので修正しました。
合わせて、ルビの強化などを行いました。
古川様が帰るという事で、一旦、飲み会を中〆にする事となる。
丁度良いので、清川様や佳央様、更科さんと私も、帰る事にする。
上の人と一緒の宴は居心地が悪いのか、火山様と焔太様も帰ると宣言。
田中先輩が軽く〆の挨拶をした後、私達も、赤竜帝を始め、残る人と軽く挨拶を交わす。
残るのは、赤竜帝と不知火様、蒼竜様に田中先輩だ。
雫様も残るだろうと思ったのだが、
「折角、仲ええんが揃うとんのに、うちがおったら野暮やろ。」
という事で、帰る事にしたそうだ。
火山様と焔太様とは、店の軒先で別れる。
大通りまで出て雫様とも別れの挨拶をした後、清川様と佳央様、更科さん、私の4人で屋敷に向かって歩き始めた。
既に、雪も降るような季節。
冷たい風が、酔いを少しだけましにしてくれる。
佳央様や更科さんと空を指差し、
「鼓星が見えるわね。」
とか、
「あっちは、四三の星ね。」
などと戯れながら歩いていると、突然、清川様が、
「それで、明日は何時、神社に向かうのじゃ?」
と質問をしてきた。
勿論、私は聞いていない。
私は適当に、
「午前中だと思うのですが、明日、またお話します。」
と伝え、誤魔化す事にした。
それを察してか、清川様が、
「そうか。」
と言った後、
「どうせ、また夢に出るのじゃろう。
しっかりと、確認するようにの。」
と念を押された。私は、
「はい。
そのようにします。」
と返事をした。
屋敷に戻り、いつも食事を摂っている座敷に移動する。
下女の人が、
「お夜食は、如何いたしましょうか?」
と確認をする。佳央様は、
「私は、それなりに食べたからいいわ。」
と断り、更科さんも、
「私も、そうします。」
と頷いた。清川様は、
「折角じゃ。
1本だけ、燗で貰うかの。」
と酒を所望する。
下女の人が、
「肴は、如何いたしましょうか?」
と質問すると、清川様は、
「少々、塩っ気があれば何でも良い。」
と答えたが、下女の人が少し困った顔をしたのを見てか、
「漬物でも、貰うかの。」
と少しだけ具体的に説明した。
下の女の人が、
「分かりました。」
と頭を下げる。
佳央様が、
「和人はどうする?」
と聞いてきた。
私は、私が里を離れていた間、拐かされかけた事件以外にも二人に何かなかったのか確認したくて、
「私も遠慮しておきます。」
と夜食は断る事にした。
清川様は、
「なんじゃ。
私、一人だけか。」
と苦笑いし、私に、
「まぁ、今日はゆっくり休め。」
と言葉を掛けてくれた。私は、
「ありがとうございます。
そうさせていただきます。」
と返し、3人でこの場を後にした。
まだ部屋を移る許可をもらっていないので、今夜も佳央様の部屋の奥に移動する。
軽く寝支度を整え、布団に入る。
そして、瞬きをした次の瞬間には、目の前に白狐がいた。
私は、
「まだ、佳央様や佳織に聞きたいことがあったのに・・・。」
とぼやくと、白狐は、
<<挨拶もなしに、それか。>>
と苦笑いされた。
私が軽く、
「すみません。」
と謝ると、白狐は、
<<気持ちの入っておらぬ謝罪など、いらぬわ。>>
と文句をつけ、
<<そもそも小童がすぐに寝たは、酒と疲れが原因じゃ。
妾のせいではないわ。>>
と強く主張した。私はその通りなのだろう思い、
「申し訳ありません。」
と謝った。
私は、
「それはそれとして・・・。」
と話し始めようとしたのだが、先程のよう事の会話で、聞くべき事を忘れてしまっていた。
何を聞きたかったのか思い出そうと悩んでいると、白狐が、
<<なんじゃ?
勿体を付けおって。>>
と怪訝な顔になる。
私は、
「明日の件で、何か聞こうと思っていたのですが・・・。
白狐は、判りませんか?」
と聞いてみた。すると白狐は、
<<確か、準備が必要な物を申せと言っておったかのぅ。
あと、時間もじゃったか。>>
と答えた。
私は、
「そうでした。
流石は、白狐です。」
と返すと、白狐は、
<<調子のいいやつじゃ。>>
と少し呆れた様子。私は、
「それで、明日は何時出発するのでしょうか?」
と確認すると、白狐は、
<<小童の申した通り、午前に出発じゃ。
正午までには、社に籠りたいからの。>>
と答えた。私は、
「正午までに着けばよいのですか。
ならば、朝もゆっくりできそうですね。」
と安心すると、白狐は、
<<何を言っておる。
水垢離じゃの、色々とあるじゃろう。
朝餉の後、すぐに出発じゃ。>>
と少し怒っている模様。色々と事前に準備が必要なら、先に教えて欲しいものだ。
私は眉間に皺を寄せて、
「それならそうと、先に言ってください。
明日行くとしか、伝えられなかったではありませんか。」
と文句を付けたのだが、白狐は、
<<どうせ、巫女が分かっておる筈じゃ。
明日になれば、全て整っておるじゃろう。>>
と楽観的だ。私は、
「整っているのですね?」
と念を押すと、白狐は、
<<そうじゃ。>>
と返すばかり。私は諦めて、
「では、朝食後、すぐに神社に向かえばよいのですね?」
と伝えると、白狐は、
<<そうじゃ。
谷竜稲荷にの。」
と返事をした。私はてっきり、巫女様のいる神社に向かうものを思っていたので、
「・・・谷竜稲荷ですか?
聞いた事のない神社ですが・・・。」
と聞き返した。
私が首を傾げていると、白狐が、
<<妾が、封じられておったじゃろうが。>>
と説明してくれた。
──白狐と会った神社か!
だが、その社。壊れてから、それほど時間は経っていない。
まだ、修理されていないのではないだろうか。
そう考えた私は、
「社を再建するのには、結構な時間がかかるのではありませんか?」
と指摘すると、白狐は、
<<巫女が最低限、籠もれるようにしておる筈じゃ。>>
と自信あり気だ。私は、
「最低限と申しますと?」
と聞いたのだが、白狐は、
<<さてのぅ。
が、行けば判るじゃろう。>>
と曖昧な返事だけ。
私は少し面倒くさくなって、
「分かりました。
そこまで言うなら行きますが、何もなくても知りませんよ?」
と責任回避の一手を打っておいた。
白狐は、
<<まぁ、その時はその時じゃ。>>
と苦笑いした。
もう一つ、私が、
「それで、水垢離をするのでしたら、井戸に細い七五三縄を張らないといけないと思うのですが、それはどうしましょうか。
私では、張れませんが。」
と尋ねると、白狐は、
<<それも、巫女が手配する筈じゃ。>>
と自信ありげ。私は、
「ひょっとして、事前に約束でもしてあったのですか?」
と聞いてみたのだが、白狐は、
<<打ち合わせなぞ、してはおらぬぞ?
そもそも、そういった類の仕来りは、巫女の方が詳しいと相場が決まっておる。
ならば、向こうに任せるのが一番じゃ。>>
と返してきた。他力本願らしい。
──そもそも、どうして巫女様が動くのだろうか?
疑問が頭に浮かび、モヤっとする。
だが、巫女様と白狐が神様から指示を受ければ可能な事に思い至り、私は、
「白狐が仕える神様と、竜の巫女様が仕える神様は一緒なのですね。」
と少し得意顔になって答え合わせしようとすると、白狐から、
<<唐突じゃのぅ。>>
と苦笑い。私は、
「すみません。」
と謝ると、白狐は、
<<まぁ、よい。
普通は説明するまでもない筈じゃが、答えてやるかのぅ。>>
と返し、
<<小童よ。
稲荷神社は、その名の通り、稲荷神を祀る神社じゃ。
一方、竜の巫女は、その名の通り竜神を祀る。
という事はどうじゃ?>>
と聞いてきた。私が、
「異なる神様でしたか。」
と答えると、白狐は、
<<そういう事じゃ。>>
と答えた。私は、
「ならば、竜の巫女様が動く義理もないのではありませんか?」
と指摘すると、白狐は、
<<当たり前じゃ。
どうも話が噛み合わぬと思うておったが、妾が話しておる巫女は竜の巫女ではない。
谷竜稲荷の巫女の話をしておる。
そして、谷竜稲荷は、竜の巫女が逗留しておる神社の分社じゃ。
ならば、竜の巫女の手の者に伝えておけば、よしなに伝わるじゃろうが。>>
と呆れた風で返してきた。根本が違っていたようだ。
私は、そういう話なら、最初から教えてくれればいいのにと思いながら、
「ならば、その巫女様が手筈を整えるのですね。」
と確認すると、白狐は、
<<当然じゃ。>>
と同意し、
<<尤も、巫女からあちらに依頼を出し、清川とやらが水垢離の手伝いをする事は、あるやもしれぬがのぅ。>>
と付け加えた。私は漸く話の辻褄が合ったと思い、
「分かりました。
でしたら明朝、流れに任せます。」
と伝えると、白狐は、
<<それでよい。>>
と返したのだった。
作中の鼓星はオリオン座、四三の星は北斗七星の事です。
鼓星は関西や山梨の方で呼ばれていたそうで、形が楽器の鼓の形に似ているからこの名がついたそうです。
ただ、日本で一律に呼ばれていたわけではなく、例えば静岡では、くびれ星と呼ばれていたとのこと。
また、四三の星は山口や四国、和歌山から千葉・茨城までの太平洋側にかけて呼ばれていたそうで、賽子の四と三が並んだ形から名前がついたそうです。
こちらも日本で一律ではなく、北のナナツボシやナナタイボシ、舵星等、他の地域に行けば異なる呼び方となったのだとか。
・オリオン座
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・北斗七星
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・星・星座に関する方言
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