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寝ている間(あいだ)とは言え

 少々アレな表現が入っているので、お食事中に後書きを読むのは控えたほうが良いかもしれません。(^^;)


 田舎鮨(いなかずし)で開かれた宴の最中、まだ酒と眠気の残る私は、うつらうつらとしていた。

 更科さんが、


「大丈夫?」


と確認してきたので、私は、


「はい。

 なんとか。」


と返事はしたものの、またいつ寝てもおかしくない状況だ。

 私は、次に寝てしまう前に伝えなければと思い、


「古川様、すみません。」


と話しかけた。

 古川様が、


「どう・・・したの?」


と聞いてくる。話し方から、既に巫女様は古川様に憑依(ひょうい)していないようだ。

 私は、神社に帰った後で伝えてもらえば良いだろうと思い、そのまま、


「はい。

 先ほど白狐から、明日、(やしろ)(うかが)いたいという話がありまして。」


と伝えた。

 古川様が、


「社に・・・?

 何か、・・・ある・・・の?」


と首を傾げる。

 私は、


「はい。

 何でも、神様とお話がしたいそうでして。」


と理由を話すと、清川様から、


「あまり、直接的にそのような事を申すな。」


(しか)られた。だが酒のせいか、私には何が悪かったのかが解らない。

 私は、


「直接的にと言いますと?」


と確認をした。すると、清川様は、


天上(てんじょう)(かた)について、あまり触れるでないと言っておる。」


と答えたので、私は、


天井(てんじょう)ですか?」


と頭上を見ながら聞き返した。

 清川様が、


「そうじゃ。」


と返す。言っている意味がよく解らない。

 私は、


「天井にいるのなんて、蜘蛛(くも)(ねずみ)くらいしか思い浮かびませんが・・・。」


と思い出せるものを並べ上げた。更科さんが小声で、


「和人。

 その天井じゃなくて、(そら)の上の方の天上よ。」


と耳打ちをする。古川様からも、


「随分、・・・酔ってるみたい・・・ね。」


と言われてしまう。

 私も酔っている自覚があったので、


「申し訳ありません。」


と謝ると、清川様から、


「また、後で話すとするかの。」


と苦笑いされた。私は、


「すみません。

 宜しくお願いします。」


ともう一度謝った。そして、


「それで、お伝え願えますでしょうか?」


と再び聞くと、古川様は、


「明日・・・ね。

 伝えておくけど・・・、場所だけで・・・いいの?」


と聞き返してきた。私は、


「すみません。

 場所だけといいますと?」


と首をひねると、清川様から、


「他に必要な物はあるか、と聞いておるのじゃ。」


と教えてくれた。私は、


「申し訳ありません。

 (やしろ)()もるとしか、聞いておりませんもので。」


と謝ると、清川様から、


「籠もる?

 どのくらいか、聞いておるか?」


と確認が入る。私は、


「それも、聞いておりません。」


と正直に謝った。すると清川様は、


「そうか。

 今回は仕方がないが、次からはきちんと聞くのじゃぞ。」


と言った。私は、


「すみません、今度からは気をつけます。」


と謝りこの件は終わりと思った。だが、焔太様が、


「場所だけ聞いて、何が()るかも、どのくらいかかるかも聞いていなかったのか。」


と言ってきた。私は、


「はい。

 ()かりました。」


と返すと、焔太様は、


「俺もよく、いつ、誰が、何を、どのようにしたいのか、どのくらいの期間必要かと聞かれたものだ。

 次からは、気をつけるんだな。」


と返した。私は、先程注意された事を繰り返して言わなくても良いのにと思いながら、


「はい。」


と返事をすると、更科さんが耳元で、


「戸赤様も酔ってるみたいね。」


と言ってきた。確かに、普通ならわざわざ、人の失敗を何度も指摘したりはしないだろう。

 私は、


「助かります。

 私も、まだ酔っていて、尋常なら思い至りそうな事もさっぱりですし。」


と返すと、更科さんから、


「知ってる。

 和人、お酒を飲んでいる時、よくそうなるものね。」


と同意した。私は、


「それを言われると、返す言葉もありません。」


と苦笑いした。



 店の人が、(ぜん)を運んでくる。

 お皿の上には、切れ目の入った魚が一匹、乗っている。この切れ目からは飯が見えているので、これも(すし)なのだろう。


 雫様が、


(このしろ)姿鮨(すがたずし)か。」


と言うと、店の人が、


「はい。

 流石(さすが)にございます。」


肯定(こうてい)する。

 私は、


「この鮗という魚は、飯が詰まって泳いでいるのですか?」


と聞くと、周りが笑う。そして、代表してというわけでもないのだろうが、焔太様から、


「少し、飲み過ぎたようだな。」


屈託(くったく)のない笑顔で言われてしまった。

 雫様からも、


「山上。

 いくらなんでも、そんな魚はおれへんで。

 これは、魚を腹開きにして塩で寝かせて酢につけた後、酢飯を詰めて馴染ませたもんや。」


と説明が入る。

 私は、なるほどと頷こうとしたのだが、先に焔太様が、


「酢飯を詰めるという事は、早寿司か。

 青魚(あおざかな)は日持ちしないそうだが、大丈夫か?」


と店の人に声をかけた。すると、蒼竜様が、


〆鯖(しめさば)と同じく、空輸ではないのか?」


と口を(はさ)む。店の人は、


「ご明察(めいさつ)です。」


と頷いた。

 雫様が、


「昔聞いた、言うてたなぁ。」


と言うと、店の人は、


「はい。

 今回も港鮨(みなとずし)に協力してもらいまして、昨日、獲れたばかりの鮗に塩をして、運んでもらいました。」


と説明した。蒼竜様が、


「骨を折らせたようだな。」


(ねぎら)いの言葉をかけると、店の人は、


「とんでもございません。」


恐縮(きょうしゅく)していた。



 一つ、鮗の姿鮨を食べる。

 口に中に、程よい酸味と甘みが広がる。

 まだ取れぬ眠気にぼーっとしながら、咀嚼(そしゃく)する。


 どういうわけか、更科さんが心配そうな表情で、


「大丈夫?

 和人。」


と聞いてきた。私は、


「何がですか?」


と聞き返すと、更科さんは、


「さっき寝てる時も、少しうなされてたから。

 食欲がなさそうなのも、ひょっとしたらのせいかなって。」


と返事をした。だが私に、うなされるような悪夢を見た覚えはない。

 私は、


「うなされていたのですか?」


と確認すると、更科さんは、


「ええ。

 寝返りで、手をドンと(ふすま)にぶつけたり、急に、変な方向に腕を伸ばしたりしてたわ。」


と答えた。


──寝ている(あいだ)とは言え、やらかしてしまった。


 思わず私は、赤竜帝や清川様等の座る上座の方を確認した。

 田中先輩が赤竜帝や蒼竜様との話を一旦(いったん)()め、代表して、


「寝ていたんだがら、気にするな。」


と言ってくれた。


 何が起きたかは、話から容易に想像が出来る。

 恐らく、夢の中でお手玉の練習をしたていたからだろう。

 これまでも、夢で体を動かす(たび)に、実際に体も動いていたのだろう。


 私は、


「申し訳ありません。

 寝相が良くなるように、気をつけます。」


と謝った。

 佳央様が、


「普段の和人は、そこまで寝相は悪くないわよ?」


と発言。私は(なぐさ)めてくれているのだろうと思い、


「ありがとうございます。」


とお礼を言ったのだが、更科さんが、


「本当よ?」


と佳央様の発言を肯定(こうてい)し、


「だから、うなされてるって思ったの。」


と付け加えた。どうやら、普段はそこまで寝相が悪いという訳ではないようだ。

 私は、


「そういうことでしたか。」


と話し、心配を掛けたのであれば、きちんと説明をした方が良いだろうと思い、


「実は修行のため、夢の中でお手玉をしていまして。

 その時、玉が明々後日(しあさって)の方向に飛ぶものですから、彼方此方(あちこち)に手を伸ばしていたのですよ。

 多分、そのせいで体が動いたのだと思います。」


と正直に話した。

 更科さんが、


「お手玉?」


と不思議そうに聞いてきた。

 私は、


「はい。

 夢の中で魔法の玉を作って、それをお手玉していたのですよ。

 魔法の制御の練習になるそうです。」


と説明した。すると、更科さんは安心したようで、


「そういう事ね。」


と納得顔になる。

 私は、


「いずれにせよ、心配してくれてありがとう。

 佳織。」


とお(れい)を伝えた。

 更科さんは、


「どういたしまして。」


と笑顔で返事をした。

 更科さんは鮗の姿鮨を一つ、スッキリとした表情で口にしたのだった。


 作中、鮗の姿鮨が出てきますが、こちらは、ご飯が詰まった熊本の方のを想定しています。

 (これとは別に、京都の方におからを詰めたやつがあります)

 この鮗、焼くと人間を焼いたような嫌な匂いがする事から、昔、とある国の国司(こくし)が恋人のいる美しい娘を見初(みそ)めて求婚した時、親が娘のために縁談を断ろうと(ひつぎ)に鮗を入れて焼き、使いの者に『娘は死んだ』と伝えて望まぬ縁談から(のが)れたという伝承があるそうです。そして、この伝承で鮗が(むすめ)(子供)の()わりに焼かれた所から、「()(しろ)」と呼ばれるようになったという説があるのだとか。

 

 後、早寿司(はやずし)は、酢を混ぜて作る寿司飯(すしめし)を使ったお寿司の事です。

 江戸時代に出来たと言われているようです。(出典注意)


 ご存知の通り、現在の寿司は(ほとん)どが早寿司となりますが、早寿司が食べられるようになる以前は、発酵させて作る()(ずし)が食べられていたそうです。

 馴れ鮨は、発酵に使った米をこそぎ落として食べる(狭義の)「馴れ鮨」(「ほんなれ」とも言う)、米も一緒に食べる「生成(なまなれ)」、漬ける時に(こうじ)も使う「飯ずし」に分類できるのだとか。

 「ほんなれ」は近江の(ふな)ずし、「生成」は鮎ずしや(さば)ずし、「飯ずし」はハタハタずしが有名です。


・このしろの姿寿司 熊本県

 https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/kono_shirono_sugata_zushi_kumamoto.html

・このしろ寿し

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%81%93%E3%81%AE%E3%81%97%E3%82%8D%E5%AF%BF%E3%81%97&oldid=75406725

・コノシロ

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%82%B3%E3%83%8E%E3%82%B7%E3%83%AD&oldid=90143861

・国司

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E5%9B%BD%E5%8F%B8&oldid=91713301

・早ずし

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E6%97%A9%E3%81%9A%E3%81%97&oldid=86484731

・なれずし

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%81%AA%E3%82%8C%E3%81%9A%E3%81%97&oldid=91879026

・飯寿司

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E9%A3%AF%E5%AF%BF%E5%8F%B8&oldid=91586602

・鮒寿司

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E9%AE%92%E5%AF%BF%E5%8F%B8&oldid=91879373

・鮎寿司 奈良県

 https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/ayu_zushi_nara.html

・ハタハタ寿司

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%83%8F%E3%82%BF%E3%83%8F%E3%82%BF%E5%AF%BF%E5%8F%B8&oldid=75194148

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