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寝る前に

 次兄にキツくお願いをした後、更科さんが、次兄を見て、


「すみません。

 今日は外で天幕(テント)を張って寝ようと思います。」


と言ったので、私も気になって、


(そば)にいようか?」


と聞いた。更科さんは、


「ん。

 その方が助かるかな。」


と言って、二人で天幕(テント)で寝ることになった。既に更科さんの両親とは話がついている事になっているので、両親からは特に突っ込みは無かった。

 二人で同じ天幕(テント)に入った後、私は、


「そういえば、大杉の時もさっきの時も、私が威嚇してしまった時、平然としていたね。」


と聞いた。すると、更科さんは、


「うん。

 だって、商家の娘よ?

 たまに悪いお客さんがいて、思いっきり威嚇してくる人もいてね。

 そういうのに小さい頃から慣れちゃっているから、あのくらいなら、ちょっとビックリするくらいで済むかな。」


と言っていた。私は、


「そういうことですか。

 確かに、冒険者の人に値下げしろと威嚇されて、いちいち値を下げていたら商売上がったりですよね。

 やはり、薫は凄いですね。」


と言った。すると、


「そうよ。

 和人が本気で威嚇した現場に居合わせたら、多分、この村の娘さんなら心の蔵が止まるかもしれないわね。

 でも、その点、私なら平気だから、やはり和人は私と結婚するのが一番だと思うの。」


と言ってた。私は、


「前から気になってはいたのだけど、たまにこうやって、自分を売りこんでくる事があるけど、どうしてですか?」


と素朴な疑問を聞いた。すると更科さんは、


「それはだって・・・。

 和人に逃げられると大変だから、私は結構必死なのよ?

 今日だってそうだけど、こんな私のことを肯定的に見てくれる人は少ないもの。

 その、、、もし(あき)れちゃったらごめんね?。」


と言った。私は、


「そんな、呆れるだなんてことはないよ。

 私だって、農家の三男で力も金も無いし、見映えだって普通よりもちょっと劣る自覚もあるし、薫と付き合っているのが今だって不思議なくらいだし・・・。」


と、正直に話した。

 更科さんは人差し指を頬に当てて少し間をとり、


「あのね、葛町の冒険者組合で始めて和人を見たときにね。

 その・・・、ごめんなさい!

 実は・・・、初めて和人を見たとき、『純朴(じゅんぼく)そうでいい人そうだな、こういう人とずっと一緒にいれたらな』って思ったの。

 それでね、純朴そうだから、きっと無理にでも押せば付き合えるだろうし、多少の事も意味がわからないうちになぁなぁでやり過ごせるんじゃないかなっていう打算もあったの。

 ・・・もう一つ、私の言う純朴には身分が高くないっていうのと、その、無害って意味も含んでいて・・・。」


と告白してきた。私は、


「どうして、今、こんな話を?」


と聞いた。なんとなく、話の流れが読めない。更科さんは、


「さっき次兄さまが『研究職についた後、すぐに逃げ出した』って言っていたでしょ?

 それで、いつかそのうち、これも話さなきゃって。

 和人、純朴なのはそのとおりだったけど、結構地頭もいいから、なぁなぁにするとそのうち愛想をつかされそうだし・・・。

 やっぱり、そういうのは怖くて・・・。

 それでね。

 まずは、この話からしておこうと思って・・・。」


と言った。私はまだどういう脈絡か掴みかねていたが、更科さんが決意をしているようだったので中途半端な気持ちじゃいけないと思い、


「わかった。

 ちゃんと聞くよ。」


と言って、狭い天幕(テント)の中、背を正した。すると、更科さんも背を正して話し始めた。


「その・・・、私が冒険者登録した時期だけどね?

 普通の冒険者学校卒の新人にしては、少し遅い時期だったの。

 これは、私が冒険者になる前に、一旦、王都の王立研究所で研究室に所属していたことが原因なの。」


と話した。

 大杉の王立研究所の分室ですら、身分や知り合いの伝手(つて)か、よほど出来る人でないと入れないと聞いたことがある。王都であるなら、なおのことそうなのだろう。

 更科さんは、


「普通はなかなか研究室に入れないんだけどね、なんだかんだで勉強だけは出来たから、何とか拾ってもらえたって思っていたの。

 でもね、実際に研究所に入ると、推薦した先輩がいたのよ。

 優秀な先輩だったのは判ったんだけどね、研究室に入ってすぐ、裏で『俺が推薦しなかったら、お前なんて絶対入れなかった』って言ってきたの。

 でね、他の人に聞くと、確かにその先輩が推薦したって言っていたのよ。

 その後、まさかと思って室長にも聞いたんだけど、『先輩の嫁候補だから入れた』ってはっきり言われちゃった。」


と、しょんぼりした声色で話した。私は黙って聞いていた。更科さんは続けて、


「その先輩、家が従六位上の公家でね。

 私のこと側に置くために、ゴリ押しして入れたのね。

 それで、その先輩に『お前が言うことを聞かないなら、ここにいられなくしてやる』って無理矢理・・・。

 このままだと冒険者学校の頃と同じになると思って、逃げたの。」


と話した。私は、


「それは偉かったですね。」


と言った。更科さんは、


「うん。

 頑張ったの。」


と、あまり自信のなさそうな声で話した。更科さんは続けて、


「でね。

 結局1週間も経たないうちに研究所を辞めてね、実家に逃げ帰ったの。

 向こうもまさか、研究所をやめると思っていなかったのでしょうね。

 王都とここでは距離もあるし、すぐには追ってこなかったのよ。」


と言った。公家なだけに、王都より外には(うと)いのかもしれない。


「でも、家族会議で家に閉じこもっていても、そのうち何かの拍子にやって来るんじゃないかということになってね。

 近くで冒険者になって、安定して稼げるようになったら遠くの親戚のところに拠点を移すことになったの。」


と話した。私は、更科さんがいなくなるのではないかと不安になった。更科さんは続けて、


「それで、ほら、大杉の冒険者組合は学校の時の知り合いが多いでしょ。

 で、規模も小さくて学校の同期がいないみたいだったから、葛町に来たってわけなの。」


と言った。私は何か声をかけたかったが、『大変だったね』とも言いづらく、結果的に更科さんと知り合えたこともあって、どう反応してよいやら迷った。

 私が悩んでいることを雰囲気で察したのだろう。更科さんは続けて話し始めた。


「それとね、この前、葛町の冒険者組合に向かう途中で横山さんと来たでしょ?

 そのときに聞いたんだけど、その先輩、どうも王都からわざわざ大杉まで来て、私を探していたっていうのよ。

 だからその、また和人に迷惑かけちゃうかも。」


 私は、察したわけではなかったのかと思い直しつつ、


「そんなにそいつが嫌だったんですか?」


と聞いたところ、更科さんは、


「その先輩、一途ならいい人なんだけどね、他にも金で二人も囲っていたのよ。

 私はそれなりに格式のある商家の出身だから、正妻にしてやるって。

 もっとも、王都の人からしてみれば、地方の御用商人なんて格式のうちに入らないって言うから、それも嘘なのは見え見えでね。

 そんなの、愛人を二人も抱えているし、結婚も怪しいし、そんなの、好きになれるわけ無いじゃないの。」


と言った。私はたまらず、


「薫は、今まで本当に色々あったのですね。

 冒険者組合には田中先輩経由で野辺山さんや長谷川さんにも話ができるはずですので、自分達で抱え込まなければ、ある程度はなんとかなるような気がします。

 最悪、私も歩荷をやめて遠くで冒険者として生計をたてていくこともできると思うので、その時は一緒に逃げましょう。」


と話した。更科さんも、


「一応、研究所のほうは横山さんがそれとなく追い落とすネタにすると言っていたけど、こっちは当てになりそうにないかな。」


と言っていた。追い落とすということは、横山さんも研究者の間の足の引っ張りあいをやっているという事なのだろうかと思った。そして、研究所は伏魔殿と同意語ではないかという気分になった。

 私はわざと楽観的に、


「でもまぁ、野辺山さんを始め、周りの人たちは凄い人が多いから、だめだったとしてもきっとなんとかなるんでしょうね。

 ひとまず、私に権力は皆無なので、当面は何かあったらな私が盾になって、でも、権力が必要なときは田中先輩経由で上の人に相談しましょう。」


と言って、結局他力本願な事を言いながら更科さんの頭を撫でた。更科さんも、


「うん。」


と言って、その日は寝たのだった。


~後日談

山上くん:薫、そういえば、初めて会った時、私と話すたびに赤くなってたけどなんで?

更科さん:そんなの、私から男の人に声をかけるのが始めてだったからよ。

山上くん:でも、その・・・。

更科さん:それ以上は怒るわよ?(経験豊富だった癖にとか思ってるんだろうな。)

     言ってもあれだけど、男の人とお付き合いするのは初めてだったんだからね!

山上くん:(恋愛初心者ではあったからか・・・。)


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