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私が生きているとは限らない

 本日、少し短めです。

 焔太様は、


「俺が知っている話は、大したものはないぞ。」


と前置きをすし、


「先ずは、白石様とかいう偉い人が失脚(しっきゃく)した。」


と発言した。火山(ひやま)様が焔太様に、ぎょっとした顔を向ける。

 気になって周りを見ると、大月様は手を振って、話しすぎだという仕草。田中先輩は、自分には関係ないとばかり、人参と何かの煮付けを口に運んでいる。

 だが、他の人は、知っていたという顔だ。

 私は更科さんに、


「佳織も知っていたのですか?」


と聞くと、更科さんは、


「聞いたから、もう外出できると思ったのよ。」


と答えた。不知火様が、


「誰から聞いた?」


と質問をする。

 更科さんが、申し訳なさそうに、


「・・・佳央様からです。」


と答える。佳央様も、


「私は、紅野(こうの)様からよ。」


と言うと、不知火様が、


「余計な事を。」


とやや怒り気味になったが、赤竜帝が、


「安心させたかったのだろう。」


(なだ)めた。不知火様は、


「恐らく、そうだ・・・でしょう。」


と、相変わらず苦手な敬語で言葉を詰まらせながらも、同意した。

 焔太様が、


派閥(はばつ)が違うのだろうな。

 これで、古狸(ふるだぬき)がいなくなったと喜んでいる者を見かけたぞ。」


眉間(みけん)(しわ)()せて言った。

 不知火様が、


浅慮(せんりょ)な。

 誰だ?」


と確認したのだが、焔太様は、


「俺は、ここでは新参者です。

 名前までは・・・。」


(こま)った様子。赤竜帝が、


「よい。」


と気にしない様子に、不知火様は眉根(まゆね)を寄せたが、


「御意。」


と返事をした。

 私は、


「他には?」


と次を話すように促すと、焔太様は、


「後は、俺もまんまと(だま)されたが、和人は単なる狐憑(きつねつ)ではないらしいな。

 巫女様の策略(さくりゃく)と言っていたか。」


と答えた。思わず、古川様の方を見る。

 古川様はそれを察して、


「山上には、一部しか話しておらぬからな。」


とにっこり笑う。

 古川様の、この話し方やこの表情。

 また、巫女様が古川様に憑依(ひょうい)したようだ。

 私は、


「おいででしたか。」


と挨拶をしてから、


「それで、巫女・・・、古川様。

 一部しか話していないと言いますと?」


と聞くと、古川様は、


「山上は妖狐が憑いたと思っておるじゃろうが、実際は、白狐じゃ。」

 この違い、解るか?」


と質問してきた。私は、


「いえ。」


と言うと、古川様は、


「妖狐であれば(わざわ)いを(まね)くじゃろうが、白狐であれば神使(しんし)

 そちの中のも、(めい)の件で少々悪振(わるぶ)っておるが、根は清浄(せいじょう)じゃ。

 格も、妾とほぼ同格と考えても良い。」


と説明する。私は、


「妖狐と聞きましたが?」


と質問すると、古川様は、


「それを、誰から聞いた?」


と質問で返された。私は、


「確か、神社の封を解いてしまった時、清川様が、『妖狐が出てきた』と申して、そう思いました。」


と答える。古川様は、


「して、倒した狐は何色じゃ?」


ともう一度聞いてきたので、私は、


「白でした。」


と答えた。古川様は、


「うむ。

 白ければ白狐。

 じゃが、清川が先に妖狐と呼んだから、山上は、そう思い込んだのじゃろう?」


と言ってきた。私は、


「その通りです。」


と答えた。隣の更科さんも同様だったらしく、(うなづ)いている。

 更科さんが青い顔で、


「白狐でしたら、和人は死罪ですか?」


と聞くと、古川様は、


「本来、白狐の討伐は大罪。

 じゃが、討った本人に憑いておるのじゃ。

 (さば)くわけにもいくまい?」


と答えた。更科さんは、


「つまり、無罪という事ですね?」


と再確認。古川様は、


「中の白狐が逃げ出さぬうちはの。」


と条件を付ける。私は、


「これから、私はどうなるのでしょうか?」


と聞くと、古川様はさらりと、


「神使が憑いておるのだ。

 扱いとしては、妾と同等かの。」


と答えた。私はぎょっとして赤竜帝の方を見ると、赤竜帝も承知しているらしく、


「そういう事だ。」


と頷いた。

 佳央様が、


「なら、不知火様どころか、清川様より上座じゃないの?」


と指摘する。

 だが、古川様は、


「そうなのじゃがな。

 まだ、形が整っておらぬ。

 ゆえに、発表はもう少し先となるじゃろう。

 それまでは、表向きはこれまでと同じじゃな。」


と説明した。更科様が、


「その形と言うのは、どうなったら整うのでしょうか?」


と確認する。古川様は、


今迄(いままで)は、仮の巫女の修行じゃったが、今後は、妾も修行を()り行う。

 そうして、作法や仕来りを一式身につけ、一人前の巫女相当になれば、整ったと言えるじゃろう。」


と答えた。清川様はもうすぐ還暦(かんれき)だが、未だ巫女ではない。

 私は、


今生(こんじょう)では、終わりそうにないですね。」


と素直に感想を言うと、大月様も、


「人間の身では、そうであろうな。」


と同意した。

 古川様が、


「今生とは、少々大袈裟(おおげさ)じゃな。

 頑張れば、還暦(まで)に身に付くものじゃ。」


と死ぬまで掛かるというのを否定する。私は、


「還暦なら、私が生きているとは限りません。」


と苦笑いすると、古川様は、


「大還暦であればともかく、還暦であれば生きておるのではないか?」


と他人事だ。大還暦は聞いた事がないが、恐らく、還暦よりも上なのだろう。

 私は、


「私の故郷(ふるさと)で還暦を迎えている人は、数人しかいませんよ?」


と聞き返してみる。古川様は少し考え、


「・・・そういえば、そうじゃの。」


と認めた。私が、


「つまり、生涯外には出せぬという事ですね。」


と言うと、横から田中先輩から、


「出られない?

 今までどおりの身分という事だろう?

 問題ないんじゃないか?」


と言ってきた。私は、


「実家にも、顔を出せないのですよ?」


と文句を言うと、田中先輩は、


「そうなのか?」


と確認する。古川様は、


「妾達は、仮の巫女の修行が終わらないという体じゃ。

 特に、問題もあるまい。」


と答えた。だが、大月様は、


「村に帰って、下手に相談を受けても困る。

 分かるな?」


とこちらに言ってきた。私は、


「はい。」


と返事をすると古川様から、


「なるほど。

 であれば、大月のを先に済ませるか?」


と提案してくれた。私は、


「それで、(たま)に里帰りが出来るのでしたら助かります。」


とお礼を言った。


 不知火様が、


戸赤(とあか)

 これで全部か?」


と確認し、焔太様が、


「俺が聞いているのは、このくらいです。」


と答える。

 大月様が、


「しかし、想像以上に漏れているな・・・。」


と言うと、不知火様も、


「うむ。

 全体に、説教せねばなるまい。」


と同意した。そして、


「次は火山か。」


と言った。

 一先ずこれで、焔太様の話は終わりのようだ。


 お店の人が話の区切りを見計らっていたらしく、


「次のを、お持ちいたしました。」


と入ってくる。

 私は、ここで話している内容が想像以上だったのであれば、お店の人が聞き耳を立てているのは良かったのだろうかと思ったのだった。


 今回は、小粒なのをひとつだけ。


 作中、山上くんは還暦(かんれき)まで生きているとは限らないと言っています。

 還暦は、十干と十二支の組み合わせが一巡する数えで61歳を迎える事を言いますが、江戸時代、15歳の平均余命は25年くらいという話がありますので、当時はあまりいなかったと考えられます。ここから、(今と違って)還暦のお祝いが如何にめでたかったかが判ると思います。

 (ちな)みに、121歳を迎えると大還暦と呼ぶそうですが、ギネスブック上で大還暦を迎えた人はいないのだとか。


・江戸時代の日本の人口統計

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E6%B1%9F%E6%88%B8%E6%99%82%E4%BB%A3%E3%81%AE%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E4%BA%BA%E5%8F%A3%E7%B5%B1%E8%A8%88&oldid=91298280

・還暦

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E9%82%84%E6%9A%A6&oldid=84887041

・大還暦

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E5%A4%A7%E9%82%84%E6%9A%A6&oldid=78966213


補足:暦が一巡するには、十干が10種類、十二支が12種類で、10(=2×5)と12(=2×2×3)の最小公倍数は60ですから、暦が一巡するには60年かかる事になります。


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