暇つぶしに
地下牢で松花堂弁当を頂いた後、やる事もないのですぐに寝た。
ここに布団はないので、例によって、茣蓙を体に巻き付けて眠る。
気が付くと、夢の中で妖狐と向き合っていた。
また、妖狐に呼ばれたようだ。
そう思ったのだが、妖狐から、
<<小童か。
今日は何用じゃ?>>
と質問される。勿論、私からも妖狐に、用事はない。
私は、
「特には。
妖狐こそ、何か用があるのでは?」
と聞き返したのだが、妖狐も、
<<妾もありはせぬ。
ならば、何故にここに参ったのじゃ?>>
と不快そうに言った。お互いに用はないらしい。
私は、
「さぁ。」
と首を傾げ、
「どうすれば、お暇出来るのでしょうか?」
と聞いたのだが、妖狐も、
<<さてのぅ。
じゃが、朝になれば出来るのではないか?>>
と分からない様子。私は、
「朝までですか。」
と溜息を付き、
「まだ、時間があると思うのですが、暇つぶしに何か出来ませんか?」
と聞いてみた。
妖狐が、
<<妾に、芸でもせよと申すか。
怒るぞ?>>
と軽く睨まれた。だが、勿論、私にそのようなつもりはない。
私は、
「言葉が足りず、すみません。
暇つぶしと言えば、魔法の修行かと思いましたので。」
と伝えると、妖狐は、
<<そういう意図か。>>
と言て目を瞑った。そして、ひと呼吸の後、目を開くと、
<<良いのを思いついたぞ。
お手玉をしてみよ。>>
と言い出した。確かに暇つぶしとは言ったが、それは女の子の遊びだ。
私は、
「お手玉はちょっと・・・。」
と言ったのだが、妖狐は、
<<小童の弱点の一つは、魔法に細やかさが足りぬ所じゃ。
魔法をお手玉のように扱えれば、少しは練度も上がるのでははないか?>>
と説明した。私は、
「本当ですか?」
と聞き返すと、妖狐は、
<<多分の。>>
とそっぽを向いた。どうやら、確証はない様子。妖狐は、
<<まぁ、どうせ暇なのじゃろぅ?
やってみれば、良いではないか。>>
とお手玉をするように促した。
私は、
「分かりました。
試してみますね。」
と言って、先ずは重さ魔法を集めてみる。
が、夢の中だからか、全く集まる気配がない。
私は首を捻り、
「魔法の玉は、どのようにすれば出来るのでしょうか?」
と聞いてみた。すると妖狐は、
<<そこからか。
よく見ておれよ。
こうじゃ。>>
と言って、紫の玉を3つほど出した。
そして、指を動かしながら
<<ほれっ。>>
と言って、1つ玉を上に飛ばした。そして、
<<ほれっ。>>
と言って、落ち始める前に次の玉を上に飛ばす。
最初の玉が落ち始めた所で、
<<ほれっ。>>
と言って、最後のを上に飛ばした。
最初に落ちてきた玉を器用に手で捕まえ、
<<ほれっ。>>
と言って、また上に飛ばす。
そうして順に飛ばしていく内に、掛け声の間隔が同じになっていった。
そして、暫く回すと、
<<こんな所かの。
少し、興に乗ってしもうたわ。>>
とにこやかに言いながら、3つの玉を手で受け止めた。
魔法が、霧散する。
私は感心して、
「上手いものですね。」
と褒めると、妖狐は、
<<昔、よくやっておったからのぅ。>>
と楽しげに言った。そして、ギロリと目を光らせ、
<<姪との。>>
と私を睨みつけてきた。この妖狐の姪の妖狐を狩ったのは、私だ。
私は、どう話せば妖狐と関係性が悪くならないかを考えながら、
「その姪が生きていましたら、私は死んでいましたから。」
と言い訳すると、妖狐は、
<<まぁ、そうじゃの。>>
と苦笑いした。私は、
「それはそうと、私はお手玉はやったことがありません。
どうすればよいのでしょうか?」
と話を変えることにした。だが、妖狐の方は許す気がないらしく、
<<姪には、どうやって教えたかのぅ。>>
と一言。私は、
「もう、勘弁して下さい。」
と言ったのだが、妖狐は、
<<妾まで殺られてしもうたしのぅ。>>
と不快そうな声を出す。私は、
「それは、妖狐が襲ってきたからではありませんか。」
と言うと、妖狐は、
<<分かっておるわ。>>
と返し、
<<そもそも、今となっては一蓮托生。
小童が死ねば、妾も滅ぶのじゃ。
今更、どうこうする気もないわ。>>
と溜息を付いた。私は、
「一蓮托生ですか。
妖狐が取り憑いたせいで、私は酷い目に遭っているのですが?」
と妖狐に文句を言ったのだが、妖狐は、
<<そういえば、この里に来る事になったのも、妾が憑いたせいと赤光も言っておったのぅ。>>
と苦笑い。私は、
「そうでしたっけ?」
と聞くと、妖狐は、
<<赤光が、雫とやらに説明しておったではないか。>>
と答えたが、私には心当たりがない。私は、
「そうでしたっけ?
ですが、いずれにしても私が狙われている事は間違いないようです。」
と首を捻りながら言った。
妖狐が、
<<少し、気が抜けているのではないか?
これから1週間、刺客が来ぬとも限らぬ。
魔法を鍛え、逃げ延びられるようにしておくのじゃぞ。>>
と言った。私は、
「1週間と言いますと?」
と確認した所、妖狐は、
<<赤竜帝が、ここの滞在は1週間程と言っておったじゃろうが。>>
と指摘した。だが、私には、その覚えもない。
私が、
「ですが、蒼竜様・・・、ではなくて赤光様が化けていたのですね。
赤光様が、期限は決まっていないと言っていたではありませんか。」
と反論したのだが、
<<確かにの。
が、単に聞かされておらなんだだけではないか?>>
と意見を変える気はない様子。私は、
「ならば来週、里に戻れるのですか?」
と聞くと、妖狐は当たり前のように、
<<赤竜帝が言っておったのじゃ。
そうなのではないか?
もっとも、一昨日、犯人の尾が見えたのじゃ。
もっと早く、戻れる可能性はあるじゃろうがな。>>
と答えた。私は、
「向こうには佳織も残していますし、そうであってくれると良いのですが・・・。」
とはっきりとは肯定が出来なかった。妖狐が、苦笑いをする。
そして、
<<妾が正しければ、後で謝れよ?>>
と目が光る。この様子から察するに、私が思い出せないだけで、実際に赤竜帝がそう言ったのだろう。
私は、
「いえ、逆に長引く可能性だってあると思っただけでして。」
と適当に言い訳をすると、妖狐は、
<<そういう事にしてやろう。
が、狙われているのは間違いないのじゃ。
対処できるよう、修行はやるのじゃぞ。>>
と改めて言った。私もそのとおりだと思い、
「はい。
一先ず、鍛えられるかは分かりませんが、まずはお手玉から始めようと思います。」
と返したのだった。
重さ魔法を集めようとし、また、失敗する。
私が、
「これは、かなり難しそうですね。」
と項垂れると、妖狐は、
<<そうか?
ここは夢じゃ。
さほど気張らずとも、出せる筈じゃがのぅ。>>
と首を傾げた。
私は、
「出来るから、そんな風に言えるのですよ。」
と文句を言ったのだが、妖狐は、
<<確かに、妾の方が才があるからのぅ。>>
と得意気に笑い、
<<まぁ、要はきっかけじゃ。
一度出来てしまえば、どうとでもなるじゃろう。>>
と楽観的に話した。私は、
「きっかけですか。」
と反復すると、妖狐は、
<<そうじゃ。
例えば鳥とて、親が飛ばねば、子は飛べると思うまいよ。>>
と例を出す。私はそうなのだろうかと引っかかりはしたが、否定する根拠もなかったので、
「そうかもしれません。」
と肯定した。
すると、妖狐は一つ頷き、
<<幸い、小童は妾が魔法を使う所を見たじゃろう。
真似れば良い。
まずは、よく見よ。>>
と言った後、
<<制限付きとは言え、竜の眼の力も貰うたのじゃろうが。
それを使えば、見えぬという事はないじゃろうしのぅ。>>
と付け加える。
私は、なるほどと思い、
「そうですね。」
と返したのだが、よく考えると、先程も妖狐が出した魔法は、普通に見えていた。
私は、
「ひょっとしたら、貰った力を使わなくても、魔法が見えているかもしれません。」
と言うと、妖狐は、
<<それじゃっ。>>
と少し大きな声で言い、一つ咳払いをして、
<<それが夢というもの。
小童も、既に準備が出来ておるではないか。>>
と指摘した。少し、嬉しくなってくる。
夢と自覚する事で、なんとなく、現実では出来ない事も出来るような気がしてくる。
妖狐が、
<<ほれ。
今なら、出せるじゃろう。
手を出して、重さ魔法は黒じゃったかの。
丸い玉を想像してみよ。>>
と具体的に指示を出した。そうかもしれないと思い、言われたとおりに試してみる。
すると、確かに重さ魔法の黒い玉が出来上がった。
妖狐は、
<<どうせ夢じゃ。
同じ要領で、火や雷も出せる筈じゃ。
先程の感覚を思い出して、出してみるがよいぞ。>>
と指示をした。きっかけとは、そういう物かと思いながら、手に魔法を出してみる。
掌に、黒、赤、緑、金、黄、青、紫、灰と8色もの魔法の玉を出す事が出来た。
妖狐は、
<<小童も、やれば出来るではないか。>>
と褒め、
<<では、それでお手玉をしてみるがよいぞ。
まぁ、始めから全部はむりじゃろう。
最初は、2個から始めてみよ。>>
と言った。私は、
「分かりました。
早速練習します。」
と返事をし、妖狐がやって見せてくれたのを思い出しながら、お手玉を宙に飛ばしたのだった。
作中、(皆様もご存知の)お手玉が出てきます。
このお手玉ですが、奈良時代に中国から伝わってきたらしく、聖徳太子も遊んだのではないかと言われているそうです。ただ、当時は形状が違っていて石だったそうで、石名取玉と呼ばれていました。これが江戸時代ころ、小袋に豆類などを詰めた私達の知る形態になったのだとか。(出典不明)
おっさんが小さい頃、祖母が妹にお手玉を教えていましたが、妹が今でもお手玉を出来るかは謎です。(^^;)
・お手玉
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