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正体は

* 2022/07/24

 誤記の修正やルビの追加等を行いました。

 雪がゆらゆらと舞う山中(さんちゅう)、私は蒼竜様の動きを(うかが)っていた。

 今は、蒼竜様は目を(つむ)り、誰かと念話をしているもよう。

 時折(ときおり)、雷が鳴る。



──そもそも、この蒼竜様は、偽物ではないのか?


 そんな疑問を持ちながら、私は、蒼竜様と蒼竜様に組み()されている竜人の二人を(なが)めていた。


 暫くして、蒼竜様が目を開ける。そして、


「これから役人が来て、この者を引き取る事と相なった。

 山上も、ここで待つように。」


と言った。


──役人が来るのか?


 何となく、違和感を覚える。

 私は、秘密裏(ひみつり)に雫様出身の竜の里で隠れる予定だ。私を見かけた人を増やすのは、悪手のような気がする。

 私は、


「宜しいので?」


と聞いたのだが、蒼竜様は、


「良いも悪いもない。

 不知火(しらぬい)からの指示ゆえな。」


と答えた。上の決定は絶対、という事なのだろう。

 蒼竜様に組み伏せられた竜人が、


「今度は、不知火様と来たか。」


(あき)れたような目だ。

 仮に本物の蒼竜様であれば、赤竜帝が相手だと言われても納得が出来る。

 だが、偽物だった場合は不知火様が相手とは思えない。彼は、いったい誰と連絡を取っていたのだろうか。



 概ね四半刻(30分)が過ぎた頃、空から1頭の大きく立派な赤竜が降りてきた。

 そして、


『これか?』


と一言。蒼竜様が、


「はい。

 その通りにて。」


と返事をする。蒼竜様が本物なのだとすると、不知火様の配下の誰かなのだろう。

 捕えられた竜人はかなりご立腹らしく、


「かような変化(へんげ)までしよって、後で(しか)るべき所に報告するゆえ、覚悟(かくご)しておくがよいぞ!」


と怒鳴りつけてきた。相手は、かなり強気のようだ。

 私が、


「かようなと言いますと?」


と質問したのだが、その竜人は、


(おど)りのは、知る必要などないわ!」


と答えてくれなかった。それで私は教えてくれないかと蒼竜様に顔を向けたのだが、蒼竜様は、


「何を見ておるのだ?」


と私の意図は()み取って貰えなかった。

 仕方がないので、私は、


「この竜人は、こちらの竜が誰と似ていると仰っているのか聞きたいと思いまして。」


と確認した。だが、蒼竜様からは、


「似ているも何も、本人である。」


と答えが返ってきたのみ。私はおずおずと、


「申し訳ありません。

 竜の姿は、あまり存じ上げておりませんでして・・・。」


と知らない旨を伝えた所、蒼竜様から、


「山上は、今迄(いままで)何度もお会いしているそうではないか。

 見て分からぬとは、無礼(ぶれい)であろうが。」


と怒られた。私はひょっとしてと思い、スキルで魔法や温度を見てみたものの、やはり誰だか判らない。

 私は、


「それで、誰なので?」


(たず)ねたのだが、蒼竜様は、


「もうよい。」


と答える気はないようだ。竜の表情は私には分からないが、こちらも微妙な顔付きになっている気がした。

 かなり、モヤッとする。



 竜人を連れ、竜が飛び去っていく。

 見送りが終わった後、蒼竜様は右手の人差し指を立てて頭に軽く当てながら、


「雫がこれになる前に、急がねばな。」


と言った。そして、


「山上。

 急いで、穴を()るように。」


と指示を出す。私は、


「分かりました。」


と返事をした。だが、折角倒したのに、そのまま埋めてしまうのは勿体無い。

 私が、


「ただ、あの爪は惜しいので、取ってからにしませんか?」


と提案したんだが、蒼竜様は、


「山上。

 世の中、逆らって良い物と、悪い物がある。

 時間が()しいゆえ、すぐに掘り始めよ。」


と拒否されてしまった。

 本来であれば、もう少し粘りたいところだ。だが、この蒼竜様は、偽物の可能性もある。

 私は、もう少し様子を見ようと思い、


「分かりました。」


とだけ答え、穴を掘り始めたのだった。



 四半刻(30分)とかからず、雪熊を穴に()めた私は、


「終わりました。」


と報告すると、蒼竜様は、


「うむ。

 では、行くか。」


と言って歩き始めた。私も、後ろを着いて歩く。


 ここで私は、すっかり方向が分からなくなっている事に気がついた。

 最初は、細いとは言え、ちゃんとした道を歩いていたのだが、今は、雪熊を狩るために山中に入った。

 見知らぬ山であちこち動いたせいで、既に、先程まで歩いてきた道への戻り方さえ分からなくなっている。

 分厚い雲のせいで、太陽の向きすら判からない。

 ここで蒼竜様と(はぐ)れたら、食べる物もなく、(こご)え死ぬ事だってあるのではないか。

 少し、不安になる。


 蒼竜様が、


「山奥まで、来過ぎたか。」


(つぶや)いた。


──まさか、ここで迷子か?


 私は不安になって、


「ちゃんと、温泉までたどり着けるのですよね?」


と確認すると、蒼竜様は、


「当たり前であろう。」


と厳しい口調で言い返してきた。そして、


「単に、時間がかかると思っただけだ。

 雫()には、これから連絡するゆえ、心配せずとも良い。」


と付け加えた。私が、


「様?」


と確認すると、一瞬だけ、蒼竜様はしまったという顔をしたのだが、


「何を言っておる?」


と誤魔化しにかかってきた。私が、


「いや、でも先程確かに『様』と・・・。」


と責めてみたのだが、蒼竜様は、


「だから、何のことだと聞いておる。」


と機嫌悪そうに言ってきた。

 私はここで蒼竜様の偽物疑惑をはっきりさせようと思ったのだが、ここに置いていかれる危険性に思い至り、


「いえ、申し訳ありません。

 多分、聞き間違いだったのだと思います。」


と取り下げた。蒼竜様が、


「聞き間違い?

 ・・・まぁ、よかろう。」


と言って、そのまま歩き始めた。



 1刻(2時間)か、それ以上歩いただろうか。

 無事、山道に戻った。私は、


「ようやく、道を進めますね。」


と声を掛けると、蒼竜様も、


「うむ。」


と同意した。



 更に半刻(30分)ほど歩いた頃、蒼竜様が、


「もうすぐだな。」


と呟く。私が、


「温泉ですか?」


と聞くと、蒼竜様は、


「うむ。」


と答えた。暫くすると、狂熊の気配がする。

 私が、


「何かいるようですが・・・?」


と確認すると、蒼竜様は当たり前にように、


「温泉にでも、()かっているのであろう。」


と答えた。そういえば、雫様と初めて会った時、雫様は狂熊と混浴しているような話をしていた。

 私は、


「なるほど、熊は温泉に入りますしね。」


と返した。


 温泉に辿(たど)り着いた時、辺りは暗くなり始めていた。

 温泉には、大小の狂熊が2頭。親子だろうか。

 その近くには、3つほど天幕(テント)()られており、()()もある。

 近くに誰かいるなと思ったら、雫様だった。

 私が、


「こんばんは、雫様。

 これからお世話になります。」


と声を掛けると、雫様も、


「山上か。」


挨拶(あいさつ)を返した後、


赤光(しゃっこう)もご苦労やったな。」


と声を掛けてきた。私は、何処かで聞いたことのある名前に首を(ひね)りつつも、


「蒼竜様ではないのですか?」


と確認すると、雫様が、


「当たり前や。

 こんな蒼竜おったら、怖いわ。」


と笑い、


「良う()けとるけど、色々、ちゃうやろ?」


と言ってきた。私は赤光様との会話中に色々と違和感を覚えたのを思い出しながら、


「確かに、話をしていると、いろいろとボロは出ていましたね。」


と返すと、雫様は、


「そやろ?」


と笑っている。蒼竜様が、見知らぬ顔に変わる。

 私がぎょっとしていると、赤光様は、


「追手を巻くためとは言え、急に化けろと言われたからな。」


と苦笑いし、私に、


「それでも、良く似てただろう?」


と言ってきた。私は、神社であった所からずっと(あざむ)かれていたのかと思いながら、


「はい。

 容姿だけでなく気配まで、良く似ていました。」


と苦笑いしながら返事をすると、赤光様は満足そうに、


「そうだろう。」


と蒼竜様の口真似(くちまね)をしてみせた。

 容姿(ようし)が変わったせいか、声質が違うのがはっきりと判る。

 私は、


「今の声であれば、(だま)されませんがね。」


と笑うと、雫様も、


「流石に、そやろな。」


と楽しげだ。


 ギュルルッと、私のお腹の虫が鳴る。


 雫様は私に、


「ええ音鳴ったなぁ。

 すぐに温め直したるから、待っとき。」


と言って、()き火に鍋を掛けに行った。



 料理が暖まるまで暇なので、私は、


「ところで赤光様。

 以前、どこかでお会いしたと思うのですが、どちらででしたでしょうか?」


と話を振った。すると赤光様は、


葛町(かずらまち)で、お前が焔太(えんた)と戦った時だ。

 憶えてないか?」


と聞いてきた。

 そう言われ、私は、


「竜の姿で飛んできた、3竜の中の1人でしたか。」


と思い出すと、雫様が、


「そうや。

 佳央に言われて、慌てて(ふんどし)しめよった、あの赤光や。」


と話に参加する。赤光様が、


「その話は、今は良いではないですか。」


とバツが悪そうになる。

 私が、


「牢から出ても大丈夫なのですか?」


と確認すると、赤光様は、


「先日、焔太とも会ったんだろ?

 それと同じなのだそうだぞ。」


と説明した。確かに、私は焔太様が釈放(しゃくほう)された理由を聞いたような気がする。

 だが、すぐに思い出せそうになかったので、私は、


「そうなのですね。」


と分かった風に返事をしたのだった。


 今回は江戸ネタを仕込めていませんので、しょうもない小ネタを一つ。


 作中、竜人に対して山上くんは、『様』を付けて呼んでいます。

 この敬称(けいしょう)の『様』ですが、昔は目上か目下かによって右下の部分が変わっていました。

 例えば、かなり目上の人に対しては通称永様(えいさま)(樣)を使い、次に偉い人には美様(びざま)、次席の意味ではありますが、ちょい上の人に次様(つぎさま)(檨)、自分と同じかちょい下の人に対しては水様(みずざま)、目下の人には平様(ひらざま)と使い分けていたそうです。なお、美様と平様は崩して書いた文字のためか、フォントはなさそうです。(ひょっとしたらTRONコードにあるかもしれませんが・・・。)

 現在は『様』を上下関係なく使っていますので、本字を習った世代の人からすると、違和感があるのかも知れないなと思うおっさんでした。(^^;)


・敬称

 https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E6%95%AC%E7%A7%B0&oldid=90340680

・敬称で使用される「様」という字は8種類あると〜 (略)

 https://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000029302

 ここを見る限り、他にも様がありそうですが、詳細は不明です。

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